古代インドの伝記上の理想的帝王のこと。単に転輪王または輪王ともいう。この王が世に現れるときには天の車輪が出現し,王はその先導のもとに武力を用いずに全世界を平定するとされるところから,この名がある。サンスクリットのチャクラバルティンCakravartinまたはチャクラバルティラージャCakravartirājaの訳。仏典では,この王は輪宝,白象(びやくぞう)宝,紺馬(こんめ)宝などの七宝を有し,また仏と同じ〈三十二相〉(32の身体的特徴)を備えているとされ,世俗世界の主として,真理界の帝王たる仏にもたとえられる地位を与えられている。実際,釈尊がその誕生のときに,出家すれば仏となり,俗世にあれば転輪聖王となるであろうとの予言を受けたというのは,よく知られた伝説である。しかし,歴史的にはこの転輪聖王は,釈尊より後のインド統一帝国の帝王のイメージが投影されたものであろうと考えられている。
執筆者:岩松 浅夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その中でマガダ国は近隣諸国を併合して最も有力な国家となり,その国家体制を完成させたのがマウリヤ朝の古代統一国家である。この発展過程で,ヒマラヤから大洋に至る広大なインド亜大陸はひとつの世界として意識され,ひとりの国王(チャクラバルティンCakravartin,転輪聖王(てんりんじようおう))が支配するのが理想とされた。だがマウリヤ帝国以後,グプタ帝国などの強大な王国が見られたが,南北インドを統一支配するヒンドゥー国家は出現せず,諸王朝の分立割拠が一般的状況となり,各王朝はそれぞれ地方の社会と文化と密着したものとなった。…
…ウドゥンバラは学名をFicus glomerata Roxb.といい,クワ科に属する植物でイチジクの1種であるが,花がくぼんだ花軸の中にあって,外からは見えない。このためインドの伝説では,3000年に1度しか花を開かない,あるいは,如来や転輪聖王(てんりんじようおう)が出現した時だけ花を開くといわれた。仏教の経典では仏や仏の教えに遭いがたいことのたとえとして常套的にこの語が用いられている。…
※「転輪聖王」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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