洒落本。夢中散人(むちゆうさんじん)寝言(ねごと)先生作。1770年(明和7)刊。1冊。同年刊の吉原に取材した《遊子方言》の影響のもとに,深川の岡場所に取材した最初の作品。通人気取りの武士如雷(じよらい)が,同家中の田舎侍新五左衛門を伴って船で深川に向かう。船中さかんに知ったかぶりを並べるが,仲町(なかちよう)の小花屋(おばなや)にあがって遊ぶうちに,女郎お長に冷遇されて立腹し,ついに半可通の正体をばくろする。いっぽうお長を相手に通人らしい志厚の遊びぶりを描いている。吉原に対立する岡場所深川の風土色や流行,とくに独特の通言(つうげん)などを精細に描写し,黄表紙《金々先生栄花夢》(1775)の成立にも大きな影響を与えた。
執筆者:水野 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
洒落本(しゃれぼん)。1770年(明和7)刊。夢中散人寝言(むちゅうさんじんねごと)先生作。吉原と並ぶ江戸の代表的遊里深川を描写した最初の洒落本。半可通の武士如雷(じょらい)は、通人ぶりを盛んに吹聴しながら、田舎(いなか)侍新五左衛門を案内して深川八幡(はちまん)前の小花屋(おばなや)に登楼するが、そこで半可通をすっかり暴露される。同じく深川に遊ぶ通客志厚(しこう)と対照させて描写は進み、深川の通言、流行語の説明を加えるなど、後の洒落本の主流となる「うがち」の要素を多分に備えている。なお洒落本に限らず、黄表紙の嚆矢(こうし)『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』(1775)の成立にも大きな影響を与えている。
[棚橋正博]
『水野稔校注『日本古典文学大系59 黄表紙・洒落本集』(1958・岩波書店)』▽『水野稔他編『洒落本大成4』(1979・中央公論社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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