日本大百科全書(ニッポニカ) 「経済体制」の意味・わかりやすい解説
経済体制
けいざいたいせい
economic systems
社会の経済生活は、希少な資源を用い、一定の時間のなかで、さまざまな種類の欲求を満たすための行動の集計であるが、それはつねにある社会的枠組みのなかで行われる。この枠組みのなかでとくに根底的なもの、社会の他のシステムに比べて変更が容易でない「制度的硬直性」のあるシステムが、経済体制であると考えることができる。マルクスの社会発展史観でいえば、「生産関係」という概念が比較的それに近いが、やや狭すぎるきらいがある。なぜなら、現代の経済体制把握には、単に所有論を基軸とする接近法だけでは不十分で、意思決定、情報、誘因のあり方など、経済の機能メカニズムに切り込んだ分析が必要とされているからである。このように考えると、経済体制の精密な定義を下すことはきわめて困難だが、強いて一般的な規定を与えるとすれば、「生産、所得、消費に関する意思決定と、その意思決定実施のためのメカニズムと諸制度の組合せ」(A・リンドベック)ということができよう。
経済体制を特徴づける重要な指標としては、次の四つが考えられよう。(1)所有権。これには単に生産手段の法的所有権だけでなく、経営に対する実質的支配が含まれる。(2)意思決定の組織構造。いわゆる集権・分権の問題がこれにあたる。(3)情報と調整のメカニズム。「市場」と「計画」の問題がここでの中心をなす。(4)誘因。物質的刺激か、精神的刺激か、という問題がこれにあたる。
以上のような指標に照らして純粋型としての資本主義(古典的資本主義)と社会主義(集権的社会主義)をみるならば、前者では、(1)は私的所有、(2)は分権、(3)は市場、(4)は物質的誘因となり、後者では、(1)は主として国有、(2)は集権、(3)は計画、(4)は物質的および精神的刺激というふうに対立的にとらえられていた。しかし、社会主義が市場志向の改革を進めた1980年代にはこの対立の軸はしだいにぼやけ始めていた。社会主義の崩壊後、経済体制論の重要課題として浮かびあがってきたのは、特殊な移行期経済の分析であったが、「移行」が基本的に終了した今日では、東欧型資本主義を含む資本主義の多様性論が重要な方向となろう。
[佐藤経明]
『尾上久雄編『経済体制論』(1973・有斐閣)』▽『J・コルナイ著、岩城博司・岩城淳子訳『反均衡の経済学』(1975・日本経済新聞社)』▽『正村公宏著『経済体制論』(1978・筑摩書房)』▽『佐藤経明著『ポスト社会主義の経済体制』(1997・岩波書店)』