(1)人形浄瑠璃。時代物。9段。近松半二・八民平七・松田才二・三好松洛・竹田新松・近松東南・竹本三郎兵衛の合作。1769年(明和6)12月大坂竹本座初演。大坂の陣に取材した〈大坂軍記物〉中の代表作。時代を鎌倉期に設定し,北条時政(徳川家康に擬した人物)と源頼家(豊臣秀頼)との確執を基本的な対立として,それに宇治の方(淀君),時姫(千姫),佐々木盛綱・高綱兄弟(真田信幸・幸村),三浦之助(木村重成),和田兵衛(後藤又兵衛),片岡造酒之頭(片桐且元)らの動向をからませて複雑な構想を展開させたもの。推理小説的に組み立てられた緻密な筋立ての中に,それぞれに対照的な性格をそなえた人物たちが多数登場させられて次々と意表をついた事件が繰り広げられていくというところに,いかにも半二の作品らしい技巧的な作劇法を見いだすことができる。なかでも,高綱の贋首の計略をめぐって兄盛綱の誠実な苦衷のさまが描かれる八段目〈盛綱陣屋〉の段は,最も優れた場面として,今日まで繰り返し上演されてきた。その場の初演は初世豊竹鐘太夫。近江という土地柄を生かした豊かな詩情も本作の大きな魅力となっている。
(2)歌舞伎狂言。時代物。(1)の浄瑠璃は翌70年5月に大坂の中山与三郎座(中の芝居)で歌舞伎化された。時政・高綱を初世中山文七,頼家・三浦之助を初世小川吉太郎,宇治の方を3世芳沢あやめ,時姫を初世市川吉太郎,盛綱を初世三枡大五郎,和田兵衛を初世藤川八蔵。現在もっぱら上演されるのは八段目の〈盛綱陣屋〉の一幕で,〈近八(きんぱち)〉と略称される。弟高綱の身の上をさまざまに気遣う前半の見せ場や,幼い甥のけなげな振舞いに心を打たれて主君時政をあざむくに至るという後半の眼目,首実検の場面など,特に盛綱の内面の推移に焦点を合わせた劇的な展開に特色の見られるものとなっている。母の微妙(みみよう)は,三婆(さんばばあ)の一つとして知られた至難の老女役である。
執筆者:原 道生
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浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。9段。近松半二、八民平七、松田才二、三好松洛(しょうらく)、竹田新松、近松東南、竹本三郎兵衛合作。1769年(明和6)12月大坂・竹本座初演。翌年歌舞伎(かぶき)に移入された。大坂冬の陣を鎌倉時代の近江(おうみ)源氏の戦いに置き換えて脚色。作中の北条時政(ときまさ)が徳川家康、源頼家(よりいえ)が豊臣秀頼(とよとみひでより)、佐々木盛綱(もりつな)・高綱(たかつな)が真田信幸(のぶゆき)・幸村(ゆきむら)を暗示する。八冊目の「盛綱陣屋(じんや)」が有名で、再三上演されている。頼家方の軍師佐々木高綱は、北条時政に自分を死んだと思わせる計略から、わざと一子小四郎を北条方に生け捕らせる。時政の将盛綱は、弟高綱の武士道をたたせるため母の微妙(みみょう)に小四郎殺害を頼むが、おりから高綱戦死の報が入る。時政の命で弟の首を実検した盛綱は、すぐ偽首(にせくび)と知るが、計略通り父のあとを追うとみせて切腹した小四郎のけなげさに感じ、高綱の首に相違ないと言上する。「首実検」は時代物に数多い類型的な局面だが、盛綱のそれはもっとも格調のあるもので、複雑な心理表現が眼目。「三婆(さんばば)」の一つで老女の難役微妙をはじめ、頼家方の豪傑和田兵衛(びょうえ)、小四郎を追って忍んでくる母篝火(かがりび)など、他の役にも見せ場が多い。
[松井俊諭]
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