述語論理学(読み)じゅつごろんりがく(英語表記)predicate logic

改訂新版 世界大百科事典 「述語論理学」の意味・わかりやすい解説

述語論理学 (じゅつごろんりがく)
predicate logic

現代論理学の基礎部分。命題論理学体系の一部として含む。後者がもっぱら命題を構成単位と考え,命題相互の論理的関係を主題とするのに対し,述語論理学は後述するように,基本的な命題をも主語述語の要素に分析し,命題に含まれる主語相互の関係を扱おうとする。

述語論理学は,思考の対象となる事実世界を,まず個物個体)があり,次にその個物がたがいに関係することによりある事態が成立する,そのような事態の全体と了解する。この構造は,対象が時間的空間的に規定される自然世界であっても,あるいは数学の主題となるような抽象的世界であっても変わらない。そこで述語論理学にとり最も基本となる命題は次のごとくになる。

(1)1個の個物aがある集合の要素であることを表す命題。同じことだが,aにある性質Pがそなわることを表す命題。

(2)2個の個物a1a2の間に,ある2項関係R2が成立することを表す命題。

(3)一般に,n個の個物a1a2,……,anの間にあるn項関係Rnが成立することを表す命題。

 そこで例えば,ソクラテスプラトン,……といった個人を個物とみなす了解が成立している世界像においては,〈ソクラテスは哲学者である〉が(1)のタイプの,〈ソクラテスはプラトンの先生である〉が(2)のタイプの基本命題の例になる。この個物に対し〈……は……に……を紹介する〉は3項関係の例になる。そして現代論理学では(3)で挙げたようなタイプの命題を,n=1の場合も含めて,Rna1a2,……,an)と書く。(1)のタイプの命題は,Pa)と書かれるわけである。そしてこれらの基本命題の中に現れるコトバa1a2,……,anをその命題の(論理的)主語,コトバPR1,……,Rnをその命題の(論理的)述語とよぶ。したがって述語論理の基本命題は,1個の述語と数個の主語の連鎖として表現されることになる。

以上の構造をもつ命題は,命題論理の論理語~,∧,∨,⊃と組み合わされて複雑な命題を構成することができる。しかし述語論理においては,命題の内部構造を上述のように分析した結果明らかになる論理法則をもとりあげなければならない。そのため,個体を変数的に表現する記号,個体の集合や個体間の関係を変数的に表現する記号を採用する必要がでてくる。ふつう前者xyz,……を,後者にFGH,……を用いる。そこで基本命題の論理的形式は,

 Fx),Gy),Fxy),Hyxz)といった論理式によって表されることになる(そのさい,これらの論理式がいかなる命題の形式であるかが理解されるためには,記号xyz,……が変数として動く範囲--言語の採用と同時に了解されているはずの個物の全体--を確定しておかなければならない。個物として登場しうるものの全体を個体領域という)。

命題の内部構造が変数的に表現されるということは,命題論理にはない論理語の導入を可能とする。すなわち,〈すべての(個物)について……〉とか〈ある(個物)が存在して……〉という言い方がこれでできるようになる。前者は,定められた個体領域の中のどの個物についても……で示される命題が成立することを表し,後者は,その個体領域の中のある個物について……で示される命題が成立することを表す。いまXで記号xyz,……を代表させることにすると,記号論理学では〈すべての(個物)Xについて……〉を≏X……と,〈ある(個物)Xが存在して……〉を≐X……と書く。

 これらの論理語を交えながら日本語の文を書きなおしてみると,

 〈プラトンの先生がいる〉

 〈すべての哲学者は人間である〉

 〈ある哲学者は女性である〉はそれぞれ,

 ≐xxはプラトンの先生である]

 ≏yyが哲学者である⊃yが人間である]

 ≐zzが哲学者である∧zが女性である]

となる。

命題論理学の場合と同じく,述語論理の場合にも,その論理的構造だけから真であることが確認される命題(トートロジー)が存在する。例えば,

 ≏yyが哲学者である∨~yが哲学者である]

 ≏xxが哲学者である⊃xが男性である]

  →≐yyが哲学者である∧~x

  が男性である]

  (すべての哲学者が男性ならば,男性でない哲学者はいない)

等である。これらの命題がトートロジーであることを保証する恒真式を,(述語論理の)恒真式という。命題論理の恒真式はすべて,述語論理の恒真式でもある。述語論理の恒真式とは結局,述語論理学の範囲内で記述される論理法則にほかならない。その数例を挙げる。

 ≏yFy)∨~Fy)],≏xFx)⊃

 Fy),Fy)⊃≐xFx),≏xFx

 ⊃~≐zFz),≏xFx)⊃

 Gx)]⊃~≐yFy)∧~Gy)]
命題論理学 →論理学
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「述語論理学」の意味・わかりやすい解説

述語論理学
じゅつごろんりがく
predicate logic

命題命題関数の形に直し(xp である→px)),主語の位置を占める変項のあり方を示す量子記号を導入して(全称記号∀x〈「すべての x 」の意〉,存在記号〈特称記号〉∃x〈「ある x 」の意〉),命題の内部構造を考慮しつつ推理を論じうるようにした論理学。変項は単項である必要はなく,推理規則は,普遍例化の原理 UI,普遍汎化の原理 UG,存在例化の原理 EIの三つを用いる。

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百科事典マイペディア 「述語論理学」の意味・わかりやすい解説

述語論理学【じゅつごろんりがく】

命題論理学を拡張し,その五つの論理記号のほかに全称記号∀と存在記号∃の二つの限定記号を用いる記号論理学の一分野。ここで∀xF(x)は〈すべてのxに対し命題F(x)が成立する〉という全称命題を,∃xF(x)は〈命題F(x)が成立するようなxが存在する〉という存在命題を表す。限定記号∀,∃が作用する変数xが,空でない一定の集合を変域とする場合が1階の述語論理で,ふつう述語論理といえばこれをさす。

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世界大百科事典(旧版)内の述語論理学の言及

【主語・述語】より

…これら諸点から,日本語の主語は,ヨーロッパ諸言語とは異なり,文法上,他の文成分(〈~を〉〈~に〉等)に比べて明らかに区別されるに足る際だった特徴を備えてはいないように見える。 ちなみに,現代の論理学(述語論理学)では,上文のあらわす事態をR3(a1,a2,a3)の形の命題であらわす(R3=紹介する,a1=太郎,a2=花子,a3=次郎)。R3は述語と呼ばれ(Rの右下の3は三者間の関係をあらわすという意),a1,a2,a3は項と呼ばれる。…

【論理学】より

…〈もの〉として命題だけを考え,命題が属する2種類の集合――真な命題の集合と偽な命題の集合――を考え,その間の関係を考察する論理学は命題論理学と呼ばれる。さらに,個体としての〈もの〉の一定の枠を想定し,その枠内で〈もの〉の組がつくる集合――これを述語という――を考え,これら個体と述語の結合を記述する命題の相互関係を考察する論理学は,(一階の)述語論理学と呼ばれる。また,考えうる最も一般的な集合の規定を主題とする論理学は,集合論と呼ばれる。…

※「述語論理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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