最新 心理学事典 「連合主義」の解説
れんごうしゅぎ
連合主義
associationism
連合associationとは連想associationとほぼ同意である。日常われわれが,電光を見て雷を連想し,夏を思って暑さを想起するのが連想である。すでにギリシア時代に,プラトンは,恋人がいつも用いている竪琴や衣裳を見る時に恋人のことを思うことを人の回想作用の例としている。またアリストテレスも連合の問題を論じている。
この連合の概念は,18世紀のイギリスの経験論哲学者によって組織的に論じられるが,それ以前にホッブズHobbes,T.(1651)は人が経験するある心像から他の心像への推移は,以前に経験した感覚上の同様な推移に基づくと連合主義の思想の萌芽を述べている。連合主義の思想的背景であるイギリス経験論哲学を確立し,心理学上の連合主義の基礎を築いたのがロックLocke,J.(1690)である。彼は,生得観念innate ideaを否定し,すべての観念は生まれてから得たものであるとした。彼は,人間がもっている知識はすべて感覚sensationと反省reflectionよりなる経験に基づくとし,それらによって人間の心の中にさまざまな観念ideaが生じるとした。しかし連合自体については1700年に例外的な観念の結合に関連して述べているにすぎない。
バークレーBerkeley,G.(1709)は連合主義の立場から知覚の問題を論じた。彼は,奥行き距離自体は直接見ることができず,両眼の回転(今日の心理学でいう輻輳),ぼやけた見え,眼の緊張(調節),介在物の映像などと触覚経験との結合によって成立すると考えた。ヒュームHume,D.(1739)は,観念の連合は観念同士が引き合うと考え,その観念の連合の法則laws of associationとして,類似resemblance,時間または空間の近接contiguity,因果cause and effectを挙げた。ただし因果は習慣的近接に帰着されるとした。ハートレーHartley,D.(1749)は,感覚は神経を伝わり大脳に達する振動に対応し,その振動が残す微振動が観念に対応すると考え,振動と微振動間の生理的法則によって連合を基礎づけようと試みた。彼は,観念のみならず,感覚と運動の連合にまでこの連合の考えを拡張している点で後世の行動主義における刺激-反応結合stimulus-response connectionの先駆ともいえる。
19世紀に至ると,まずブラウンBrown,T.(1820)は,連合という語を避け,示唆suggestionという語を用いているが,類似,接近などの1次的連合法則の働き方を規定している量的な要因に関する2次的連合法則secondary laws of associationを定式化した。そのうちの多くがその後の記憶研究で実験的に検討されている。ジェームズ・ミルMill,J.(1829)は,連合主義の立場に立って,感覚と観念を要素として,それらの連合によって抽象,想像,信念などの高次の精神作用まで説明した。彼の説は機械観的色彩が強かったが,彼の長子ジョン・スチュアート・ミルMill,J.S.は,連合の機械観には批判的であり,複合観念は簡単観念から生み出されるもので,簡単観念のもっていない新たな性質をもつとした。この過程は,化合によって新たな物質が生まれる化学的過程になぞらえて心的化学mental chemistryとよばれた。ベインBain,A.(1855,1859)は,すでにドイツで発達していた神経生理学の成果を取り入れて心理学の体系を立てようとした。彼は,精神現象を感情,意思,知性に分類し,広汎な心的活動を接近と類似による連合に帰着させたが,心の能動的側面を重視した点が特徴である。スペンサーSpencer,H.(1855)は,初めて進化論的見解を取り入れた心理学の体系を著わした。彼は,心的活動を反射,本能,記憶,推理に段階づけて論じた。これらの連合主義の心理学の成果は19世紀後半に独立した実験心理学の体系の中に吸収されていく。 →実験心理学 →心理学史
〔大山 正〕
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