日本大百科全書(ニッポニカ) 「運送営業」の意味・わかりやすい解説
運送営業
うんそうえいぎょう
物品または旅客の運送を業として引き受けること(商法502条4号)。運送営業をなす商人(商法4条1項)を運送人という。運送人は、運送契約を締結することにより運送を引き受ける(商法569条1号)。
運送の対象により、物品運送と旅客運送に分けられる。物品とは、運送に適するいっさいの物をいう。ただし日本郵便株式会社以外の民間事業者が信書を送達するには、総務大臣の許可を要する。物品運送契約とは、運送人が荷送人からある物品を受け取りこれを運送して荷受人に引き渡すことを約し、荷送人がその結果に対してその運送賃を支払うことを約することによってその効力を生ずる契約である(商法570条)。旅客運送契約とは、運送人が旅客を運送することを約し、相手方がその結果に対して運送賃を支払うことを約することによってその効力を生ずる契約である(商法589条)。
運送が行われる場所により、陸上運送、海上運送、航空運送に分けられる。陸上運送とは、陸上における物品または旅客の運送をいう(商法569条2号)。海上運送とは、商行為をする目的で航海の用に供する船舶(商法684条)および商行為をする目的でもっぱら湖川、港湾その他の海以外の水域において航行の用に供する船舶(非航海船。商法747条。いずれも櫓櫂(ろかい)舟を除く)による物品または旅客の運送をいう(商法569条3号)。航空運送とは、航空法(昭和27年法律第231号)2条1項に規定する航空機による物品または旅客の運送をいう(商法569条4号)。
商法第2編「商行為」の第8章「運送営業」において、すべての運送契約に共通に適用される総則的規律が設けられている(基本的に任意規定)が、一部特則もある。陸上運送契約については、鉄道運送に限り鉄道営業法(明治33年法律第65号)および同法に基づく鉄道運輸規程が存在する。海上運送契約については、商法第3編「海商」(国内運送)と国際海上物品運送法(国際運送)とに特則的規律が設けられている。航空運送契約については、国際運送に関してのみ、自動執行力のある1999年のモントリオール条約が適用される。
運送契約の法的性質は、運送という仕事の完成を目的とするものであるから請負契約である(民法632条)。しかし、商法は運送に関する詳細な規定を設けており、民法の請負に関する規定を適用する余地はほとんどない。
運送営業は大量の運送品を迅速かつ的確に運送する必要性が強いので、運送契約は必然的に定型化され、通常は運送約款という普通取引約款による取引の方式が用いられている。運送契約の締結につき、商法上はいわゆる締結強制および運送約款の公示義務は認められていない。しかし、顧客保護の要請に応じて、鉄道、軌道、自動車による運送事業では原則として締結強制が認められ、かつ、運送賃をはじめとする運送約款の公示義務が課せられている(鉄道営業法3条・6条、軌道運輸規程2条・5条、道路運送法13条など)。
[戸田修三・平泉貴士 2020年9月17日]
『江頭憲治郎著『法律学講座双書 商取引法』第8版(2018・弘文堂)』▽『松井信憲・大野晃宏編著『一問一答 平成30年商法改正』(2018・商事法務)』