過リン(燐)酸石灰(読み)かりんさんせっかい

改訂新版 世界大百科事典 「過リン(燐)酸石灰」の意味・わかりやすい解説

過リン(燐)酸石灰 (かりんさんせっかい)
calcium superphosphate

過石と略称される重要な速効性のリン酸肥料。後述の重過リン酸石灰と区別する意味で〈普通過リン酸石灰〉と呼ぶことも多い。リン酸二水素カルシウム1水和物Ca(H2PO42・H2O(水溶性)と硫酸カルシウムCaSO4との混合物からなる粒状製品である。過リン酸石灰は世界で最も古くから製造された化学肥料である。1839年にドイツのJ.F.vonリービヒは骨粉を硫酸で処理したものは作物生育に効果が高いことを確かめ,43年にイギリスのJ.B.ローズはリン鉱石の硫酸処理による過リン酸石灰の製造を開始した。日本においては88年に東京人造肥料会社が東京の釜屋堀において本格的な過リン酸石灰の製造を開始している。その後多くの工場が建設され,昭和の初めには生産量が80万~90万t,1940年には第2次大戦前最高の164万tに達した。戦争中リン鉱石の輸入がとだえて生産は激減したが,戦後ふたたび上昇し,60年には史上最高の213万tに達した。その後化学肥料の高濃度化,複合化の傾向が高まり,また溶成リン肥焼成リン肥などの出現もあり,その生産量は減少し,94年には30万tになっている。またこの大部分複合肥料原料となっている。

リン鉱石粉末に硫酸液(濃度60~70%)を反応させてつくる。主要反応は次式で表される。

 2Ca5(PO43F+7H2SO4+3H2O─→→3Ca(H2PO42・H2O+7CaSO4+2HF

製造装置は,以前は〈むろ〉と呼ぶコンクリート室を容器とし,これに鉱石粉と硫酸液とを混ぜて入れ,数週間熟成し固化したものを切り出した。現在ではベルトコンベヤ式に連続化し,一端で原料混合物を受け,他端でカッターで削りとるようにしている。肥料公定規格では水溶性五酸化リンP2O5≧13%を保証する。実際には水溶性P2O5を15~18%程度含有する。硫酸の代りにリン酸液を用いて同様の分解を行わせると,重過リン酸石灰が得られる。過リン酸石灰のほぼ3倍のP2O5分を含むのでtriple superphosphateと呼ぶ。水に難溶性のCaSO4を含まないので,吸湿性がやや高い。H2SO4/H3PO4比を変えた混酸を用いると,両者の中間の品位のものを任意に製造できる。フッ素は排ガス成分中に含まれるので,フッ化物の形で回収する。

過リン酸石灰は遊離リン酸を多少含んでいるので,化学的には酸性であるが,生理的には中性肥料であり,連用しても土壌を酸性化しない。過リン酸石灰のリン酸は作物に吸収されやすいので,生育期間の短い作物,根系の発達の悪い作物などにはとくに好適であり,暖かい土地よりは寒い土地で,夏よりは冬に肥効がより顕著になる。また,土壌中の鉄やアルミニウムと結合し不溶化しやすいので,できるだけ土壌との接触を避けるように堆厩肥(たいきゆうひ)などと混合して使用することがすすめられる。また石灰窒素や草木灰,消石灰などと直接混合すると,リン酸二水素カルシウムCa(H2PO42が水に溶けないリン酸三カルシウムCa3(PO42などに変化する恐れがあるので注意する必要がある。過リン酸石灰はCaSO4を含んでいるので,硫黄の給源としても有効であるが,一方,老朽化水田や秋落ち水田には適さない。
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百科事典マイペディア 「過リン(燐)酸石灰」の意味・わかりやすい解説

過リン(燐)酸石灰【かりんさんせっかい】

リン酸肥料の一種。過石とも。リン酸二水素カルシウム1水和物Ca(H2PO42・H2Oと硫酸カルシウムCaSO4との混合物で,リン鉱石粉末に硫酸を反応させてつくる。製品は灰白〜淡褐色の小粒状物質。特異臭をもち,可溶性リン酸15〜20%(P2O5として)含有。速効性だが土壌に吸着固定して無効化しやすいので,施肥前の土壌の中性化や,堆厩肥(たいきゅうひ)との混用により土壌との混合を避けるなどの必要がある。水田などの元肥に常用される。アルカリ性肥料との混用はリン酸を不溶化するので避ける。
→関連項目酸性肥料肥料工業

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世界大百科事典(旧版)内の過リン(燐)酸石灰の言及

【肥料工業】より

…また化学工業全体からみると肥料工業は出荷額で2%弱でしかない。化学肥料工業の基礎は,1843年イギリスのJ.B.ローズがドイツのJ.vonリービヒの農業化学理論を応用し,過リン酸石灰の製造を開始したときに築かれた。19世紀の間,工業製品としての肥料過リン酸石灰のみであったが,20世紀に入ると窒素肥料の工業的製造法が相次いで開発された。…

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