化学辞典 第2版 「リン酸」の解説
リン酸
リンサン
phosphoric acid
H3PO4(98.00)のIUPAC名.オルトリン酸のことをいうが,HPO3型の縮合リン酸で環状メタリン酸と直鎖ポリリン酸とがある.五酸化二リンP2O5を水に溶かしても得られるが,酸化数5のリン化合物の加水分解,低酸化数のリン化合物の酸化により生成するもっとも安定なオキソ酸である.酸解離定数はpKa1 4.2,pKa2 9.4,pKa3 13.7.重過リン酸石灰Ca(H2PO4)2,そのほかリン酸肥料として重要である([別用語参照]リン酸製造法).リンのオキソ酸は非常に種類が多い.これらすべての総称にも使うことがある.工業的には,リンの鉱石(りん灰石などCa塩が多い)を硫酸で処理して,リン酸を遊離させ,これを精製するのが普通である.純粋なものは黄リンを燃焼してP2O5をつくり,これと水の反応で得られる.市販品は80~90% の水溶液が普通である.斜方晶系の結晶,正四面体型のP原子中心の[PVO(OH)3]が,互いにO-H…O型の水素結合でつながり層状構造をとっている.無水物ではP-O約1.52 Å,P-OH約1.57 Å.融点42.35 ℃.水に易溶,エタノールに可溶.加熱すると150 ℃ で無水物に,約200 ℃ で二リン酸に,300 ℃ 以上でメタリン酸になる.用途はリン酸塩(肥料,医薬品など)の合成原料,金属表面処理剤,食品添加,表面活性剤用のポリ酸をつくる,H2O2の保存剤,反応触媒などに用いられる.オルトリン酸の縮合体(縮合リン酸)で,-P-O-P(-OH)の構造をもつものには,下記のようなものがある.
(1)鎖状にP-O-Pでつながったもの.カテナポリ酸であり,1分子中のP原子の数で,二リン酸,三リン酸,四リン酸などや,さらに鎖が長く近似的に分子式を (HPO3)n で示しうるメタリン酸などがある.
(2)P-O-P結合で環状につながったシクロポリリン酸.たとえば,シクロ三リン酸,シクロ四リン酸などがある.
(3)さらに,大きな縮合体,鎖状で枝をもつもの,環状部分に架橋があるものなど複雑な構造のものもある.
見掛け上のPの酸化数が5でないもののうち,亜リン酸 PⅢ (OH)3は,そのエステルP(OR)3は存在するが,遊離の酸は存在せず,この組成のものの構造は,HP(=O)(-OH)2でホスホン酸である.このほかにもP-H結合で,酸の性質を示さないHをもつものの例としては,ホスフィン酸H2P(-OH)2などがある.また,P原子を複数含む酸で,P-P結合を含むものもある.たとえば,次リン酸(HO)2P(O)-P(O)(OH)2はその一例である.さらに,P-PとP-O-Pの両種の架橋を含むものもある.なお,リン酸の誘導体には,アデノシン5′-三リン酸(ATP)などのように,有機化学,生化学などの分野で重要な物質が多い.金属の表面加工(さび止めなど),ゴム・ラテックスの固化,触媒,歯科用セメントの製造などに用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報