(読み)ケン

デジタル大辞泉 「遣」の意味・読み・例文・類語

けん【遣】[漢字項目]

常用漢字] [音]ケン(呉)(漢) [訓]つかう つかわす やる よこす しむ
一部を割いて差し向ける。使いをやる。「遣唐使差遣先遣派遣分遣
追いやる。憂さを晴らす。「遣懐/消遣
[難読]鬼遣おにやら

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「遣」の意味・読み・例文・類語

や・る【遣】

〘他ラ五(四)〙
[一]
① 人に命じて行かせる。また、先でどうなるかわからないまま、人を送り出す。派遣する。
万葉(8C後)一四・三三六三「わが背子を大和へ夜利(ヤリ)てまつしだす足柄山の杉の木の間か」
※枕(10C終)八七「四日の夜、侍どもをやりてとり棄てしぞ」
② 車などを先へどんどん進ませる。進行させる。進むにまかせる。
※万葉(8C後)一七・三九六九「時の盛りを いたづらに 過ぐし夜里(ヤリ)つれ」
※枕(10C終)三二「檳榔毛はのどかにやりたる。いそぎたるはわろく見ゆ」
③ 相手に届くように送る。また、与える。現代では同等以下の人または、動植物に与える場合にいう。
※万葉(8C後)一五・三六二七「海神(わたつみ)手纏(たまき)の玉を 家づとに 妹に也良(ヤラ)むと」
源氏(1001‐14頃)若紫「をかしき絵などをやり給ふ」
④ (「手をやる」の形で) 手を当てる。
小学読本(1873)〈田中義廉〉一「此小児は、卵の傍へ手を遣れり」
⑤ (「目をやる」の形で) そちらに目を向ける。→目をやる
⑥ 仲裁者に問題の解決を一任する。
※滑稽本・酩酊気質(1806)上「すっぱりと水にして、お前っちに遣りやせう」
⑦ (心の進むにまかせる意から) 不快で、ふさぎがちな気持をはらす。
※万葉(8C後)一七・三九九一「もののふの 八十伴の緒の 思ふどち 心也良(ヤラ)むと」
※太平記(14C後)一八「せめて御心を遣(ヤル)方もやと」
⑧ 流れて行くようにする。
※蜻蛉(974頃)中「水やりたる樋の上に、折敷どもすゑて」
⑨ 木戸、関所などを通過させる。また、逃げて行くままにする。逃がす。
曾我物語(南北朝頃)九「『何物なれば、これほど夜ふけてとほる覧。やるまじき』とぞとがめける」
⑩ はかどらせる。物事を進める。
日葡辞書(1603‐04)「ハカヲ yaru(ヤル)
⑪ 前へ出す。
※申楽談儀(1430)よろづの物まねは心根「手をねぢてやる時は、納むる手を早く納むべし」
連歌俳諧で、「付句」「やり句」などを付ける。
※長六文(1466)「歌にも難題などは源氏肝要の事候。難句などをやり候はん時可有大切事候」
⑬ 失敗する。しくじる。
歌舞伎・傾情吾嬬鑑(1788)序幕「こんな事にかかっちゃア、やるものぢゃアごんせぬ」
⑭ だます。
浄瑠璃極彩色娘扇(1760)八「儕れ等は兄弟してよう俺をやったな」
⑮ こらしめる。また、なぐったり殺したりする。→遣られる
蟹工船(1929)〈小林多喜二〉一「『やっちまふか?…』二人は一寸息をのんだ」
⑯ 嫁に行かせる。
※二人女房(1891‐92)〈尾崎紅葉〉上「お銀を嫁(ヤ)らうといふのですか」
⑰ 食う。また、飲む。
真景累ケ淵(1869頃)〈三遊亭円朝〉五八「一服やりませう」
⑱ (自動詞的に) 暮らす。生活する。
※二老人(1908)〈国木田独歩〉上「間に合ひさへすれば、それで行(ヤ)ってゆく。今更〈略〉五円十円と稼いで見て如何する」
⑲ ある動作や行為をする。「する」よりも俗ないい方。
※咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)下「とりはづしてずいとやり」
※義血侠血(1894)〈泉鏡花〉一〇「あんな乱暴を行(ヤ)って」
⑳ 男女が肉体的に交わる行為をする。
[二] 補助動詞として用いる。
① 動詞の連用形に付けて、その動作が遠くへ向かってなされる意を表わす。
※万葉(8C後)一五・三六四〇「都辺に行かむ船もが刈薦の乱れて思ふ言(こと)告げ夜良(ヤラ)む」
更級日記(1059頃)「山の端の入日のかげは入りはてて心細くぞながめやられし」
② 動詞の連用形に付けて、その動作をやり終える意を表わす。間に助詞がはいることもあり、また、多く下に打消を伴う。
※大和(947‐957頃)一六八「身づからも申しもやらず泣きけり」
※平家(13C前)九「松の雪だにきえやらで、苔のほそ道かすかなり」
③ (動詞の連用形に助詞「て(で)」を添えた形に付けて)
(イ) その動作を他に対して行なう意を表わす。わざわざ他のためにする。
※落窪(10C後)一「さるべき受領あらば、知らず顔にてくれてやらんとしつる物を」
※宇治拾遺(1221頃)七「くひ物はもちてきたるか。くはせてやれ」
(ロ) 動作が強い意志を持って行なわれることを表わす。「きっと優勝してやる」「死んでやる!」「こらしめてやろう」など。
※青年(1910‐11)〈森鴎外〉二四「己(おれ)だってさう馬鹿にせられてばかりはゐないといふことを、見せ附けて遣(ヤ)ることが出来る」
[語誌](1)古くは、他者に物を与える場合には、「えさす」「とらす」のように、「う(得)」「とる(取)」の使役形によって表わすこともあった。また、「やる」は、中世になると補助動詞として用いられることが多くなり、動作の主体が、その動作によって話者以外の者に恩恵を与える意を表わすようになる。
(2)恩恵の授受の関係は、現代の敬語で大きな位置を占めるにいたっている。さらに、「てやる」「てもらう」「てくれる」が相互に承接すると、動作の主体と、受け手および動作の主体に依頼する者との間の、複雑な恩恵の授受の関係を表わす。

つかわさ‐・れる つかはさ‥【遣】

〘他ラ下一〙 つかはさ・る 〘他ラ下二〙 (動詞「つかわす(使)」の未然形に尊敬の助動詞「れる」のついてできたもの)
[一] 自己または自己側の者に物などをくれる、よこすことをいう尊敬語。くださる。およこしになる。
※洒落本・列仙伝(1763)「此様な結構なおみやげをつかはされた代りに」
※歌舞伎・盟三五大切(1825)大詰「なんなら銭で遣はされませ」
[二] 動詞の連用形に助詞「て」のついた形について、補助動詞として用いる。その動作の主が恩恵を与える意を、恩恵を受ける立場から敬っていう。…(て)くださる。
※歌舞伎・御曹司初寅詣(1701)上「あの者が唯一言のお情けと申します。叶へて遣はされませい」
[補注]連用形が四段活用のように用いられた、「人情・英対暖語‐二」の「妹のおしたひ申も無理ではござゐませんから、かはひがって遣(ツカ)はさって下さいまし」などの例もある。

やら‐・う ‥ふ【遣】

[1] 〘連語〙 (動詞「やる(遣)」の未然形に、反復・継続を表わす助動詞「ふ」の付いたもの) 繰り返し追い払う。
※古事記(712)上「鬚を切り、手足の爪も抜かしめて神やらひ夜良比(ヤラヒ)き」
[2] 〘他ハ四〙 ((一)の「ふ」が接尾語化したもの) 追い出す。しりぞける。追い払う。
※霊異記(810‐824)上「吾を(ヤラヒ)て家より出しやるが故に〈興福寺本訓釈 擯 也良比〉」

やり【遣】

〘名〙 (動詞「やる(遣)」の連用形の名詞化)
① 行かせること。
② 「やりて(遣手)⑥」の略。
※浮世草子・好色旅日記(1687)二「遣(ヤリ)のよしに文もたせこし」
③ 取引市場で、「売る」ということ。たとえば、百円で売ることを「百円やり」という。〔新しき用語の泉(1921)〕

まだ・す【遣】

〘他サ四〙 (上一段活用動詞「まいる(参)」の連用形に「いだす」のついた「参(まい)いだす」の変化した語か) (下位者から上位者へ)使いを差し出す。使いとして差し出す。さしあげる。たてまだす。
※書紀(720)雄略五年四月(前田本訓)「願はくは君の婦(みめ)を賜ひて後に奉遣(マタシ)(〈別訓〉たてまたし)たまへ」

やらせ【遣】

〘名〙 (動詞「やらせる」の連用形の名詞化) 放送用語。テレビのドキュメンタリー番組などの制作で、事実らしく見せながら、実際には演技されたものであること。
※三重波紋(1977)〈井口泰子〉アリアドネは女「演(ヤ)らせの白々しさを避けるために、一人の女を徹底的に盗み撮りする、という手法に」

やら・す【遣】

[1] 〘他サ五(四)〙 ある事を行なわせる。
※仮名草子・浮世物語(1665頃)一「思ひ置きは腹の病、当座々々にやらして」
[2] 〘他サ下二〙 ⇒やらせる(遣━)

こ・す【遣】

〘他サ四〙 人や物などをよこす。つかわす。
※類従本兼澄集(1012頃)「筑紫より来たる人にすだれがは請ふを、いまいまとてこさねば」

やら‐い ‥ひ【遣】

〘名〙 追い払うこと。他の語と複合して用いることが多い。「神やらい」「鬼やらい」など。

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