五行(読み)ごぎょう(英語表記)wǔ xíng

精選版 日本国語大辞典 「五行」の意味・読み・例文・類語

ご‐ぎょう ‥ギャウ【五行】

〘名〙
古代中国の思想で、万物を生じ、万象を変化させるという木火土金水の五つの元素をいう。木火土金水は、元来は日常生活に不可欠な五つの物質であるが、転じてこれらの物質によって象徴される気、あるいはそのはたらきの意となり、いわゆる五行説として展開する。行とは運行の意で、五つの物質が五行となるのは、天上の五遊星にその名をあてたことに由来する。陰陽道では、運勢を判断するのに用いる。
※古今著聞集(1254)六「菅絃のおこり、そのつたはれる事ひさし。〈略〉宮・商・角・徴・羽の五音あり。或は五行に配し、或は五常に配す」 〔書経‐洪範〕
② 仏語。菩薩が修行する五種の行法。涅槃経(ねはんぎょう)に説く、聖行(しょうぎょう)・梵行(ぼんぎょう)・天行・嬰児行(えいじぎょう)・病行の五つ。天台宗では、これを別教の立場では、菩薩の修行階梯を分けるものとして「次第の五行」と呼び、円教の立場では五種の別はないとして「不次第の五行」とする。また起信論には布施・持戒・忍辱(にんにく)・精進・止観の五門を立てる。五門修行。〔法華玄義‐三・下〕
③ =ごぎょう(五行)の陣〔李衛公問対‐中〕

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デジタル大辞泉 「五行」の意味・読み・例文・類語

ご‐ぎょう〔‐ギヤウ〕【五行】

中国古代の世界観で、万物を構成し、天地の間に運行すると考えられたの五つの元素。天では木星火星土星金星水星として運行し、地では木・火・土・金・水として現れ、人も五行から構成されているという。→五行説
仏語。菩薩ぼさつが修行する五つの行法。大般涅槃経だいはつねはんぎょうでは、聖行・梵行・天行・嬰児ように行・病行。大乗起信論では、布施・持戒・忍辱にんにく・精進・止観。

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改訂新版 世界大百科事典 「五行」の意味・わかりやすい解説

五行 (ごぎょう)
wǔ xíng

木・火・土・金・水のこと。この5種によって自然現象や人事現象のいっさいを解釈し説明しようとする思想は五行説と呼ばれる。中国の古代に成立した。これら5種がとくにえらばれた理由を,古典注釈家は,天においては五気が流行(循環)し,地においては民が行用(使用)するからだと説明している。五気が流行するといえば宇宙を構成する基本的な5元素のように考えられるが,民が行用するといえば自然界に通常に見いだされ,かつ日常生活に必須の基本的な物質をさすようであり,五行説成立の初期においては後者の意味が主であったと思われる。《書経》の甘誓篇と洪範篇に五行の名があらわれ,とくに洪範篇では,夏の禹王が天から授かったという9種類の天地の大法,いわゆる〈洪範九疇(きゆうちゆう)〉の第1に五行をあげたうえ,五行それぞれの性質を,水は潤下(じゆんか)(ものを潤して低きにつく),火は炎上(燃えて上にあがる),木は曲直(曲がりまたまっすぐになる),金は従革(自由に変形する),土は稼穡(かしよく)(種まきととりいれ)と説明している。

 しかし洪範篇成立の時代を確定することはむずかしく,五行説の創唱者としては戦国時代の斉の思想家鄒(騶)衍(すうえん)が考えられる。五徳終始説と呼ばれる鄒衍の五行説では,一代の帝王は五行のどれかひとつの徳をそなえ,王朝は五徳の順序にしたがって交代すると説かれた。そして五行は火→水→土→木→金の順序のもとに,それぞれ前者にうちかちつつあらわれると考えられ,相克説(または相勝説)と呼ばれたが,その後,五行が木→火→土→金→水の順序のもとにつぎつぎに生成すると考える相生説が生まれた。このようにそもそも政治思想として発生したと考えられる五行説は,やがて王朝の交代以外のさまざまの自然現象や人事現象の説明に応用されるようになり,いわゆる五行の配当が行われるにいたった。すなわち,あらゆる自然現象や人事現象は範疇ごとに五つに整理され,それぞれが五行のいずれかに帰属するとみなされたのである。五行の配当に関しては,《呂氏春秋》(前3世紀)などにその原初的なかたちが,そして《白虎通(びやつこつう)》(1世紀)などによりいっそう整理されたかたちがうかがわれる。また漢初の伏生の《洪範五行伝》には,《書経》洪範篇にみえる五事--貌(容貌)・言(ことば)・視(目のはたらき)・聴(耳のはたらき)・思(思考)--と庶徴--雨・暘(ちよう)(日でり)・燠(おく)(暑さ)・寒・風--が五行と関連づけてのべられ,さらに董仲舒(とうちゆうじよ)の《春秋繁露》には相克説と相生説が有機的に結合されている。このようにしていよいよ詳密となった五行の理論は陰陽の理論とともに漢代思想の一大潮流を形成した。董仲舒をよい例として儒家思想も五行の理論を大幅にとりいれて面目を一新し,また天文学や医学などに大きな影響を与えたのであった。なお基本的な五つの道徳が五行と呼ばれることもある。その場合,仁・義・礼・智・信の五常があてられるのが普通であるが,1973年に馬王堆から発見された帛書はくしよ)のひとつ,《帛書五行篇》では仁・義・礼・智・聖が五行と呼ばれている。
陰陽五行説
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百科事典マイペディア 「五行」の意味・わかりやすい解説

五行【ごぎょう】

中国古来の自然観における木,火,土,金,水の5要素。これをもって自然と人事のいっさいを解釈しようとする思想が五行説。古く《書経》洪範篇の中にみられるが,戦国時代になると五行の次序が相生説,相勝説の二つに整備され,特に王朝の交代が後者で説明されたりした。なお,五つの枢要な徳目たる五常(仁・義・礼・智・信)がときに五行と呼ばれる。→陰陽五行
→関連項目赤旗(旗)九星三皇五帝

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「五行」の意味・わかりやすい解説

五行
ごぎょう

陰陽道で,木,火,土,金,水の五元素をいう。天地の間に循環流行する万物組成の元素。また宇宙のすべての事象を説明する哲学的原理ともされる。この考えは,陰陽五行説といわれ,中国,戦国末期のすう衍 (すうえん) が王朝の変遷を五行にあてて説いたのに始る。漢代になって陰陽説と合し,易の天人合一説を形成し,その影響を後世に及ぼした。

五行
ごぎょう

大般涅槃経』に説かれる菩薩の修すべき5種の行法。聖行──戒定慧の三学を修する正行,梵行──浄心をもって衆生の苦を除き楽を与える行,天行──天然の理によって妙行を成じる行,嬰児 (ように) 行──慈悲心をもって人天小乗の小善の行を示現する行,病行──大慈悲をもって一切衆生に和する行,をいう。

五行
ごぎょう

大乗起信論』に説かれる布施,持戒,忍辱,精進,止観の5つをいう。

五行
ごぎょう

六境」のページをご覧ください。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「五行」の解説

五行 ごぎょう

行道(ぎょうどう)

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普及版 字通 「五行」の読み・字形・画数・意味

【五行】ごぎよう

木・火・土・金・水。五運。

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とっさの日本語便利帳 「五行」の解説

五行

古代中国で、万物を構成するもとになるとされた五つの気。▽木、火、土、金、水

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デジタル大辞泉プラス 「五行」の解説

五行

株式会社力の源ホールディングスが展開するラーメン店のチェーン。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「五行」の解説

五行 (ゴギョウ)

植物。キク科の一年草,薬用植物。クソニンジンの別称

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世界大百科事典(旧版)内の五行の言及

【陰陽五行説】より

…中国思想において,陰陽論と五行説とを組みあわせ,宇宙の生成,自然のめぐり,統治のあり方,人体のしくみなど,宇宙から人事にいたるあらゆる現象を説明するのに用いられた理論。さまざまな占いにも応用された。…

【中国哲学】より

…前漢の初期には,秦の弾圧政策の反動として,自由放任の政治を説く道家思想が流行したが,やがて武帝の代になって儒学が官学として採用され,以後2000年にわたる儒教支配の基礎を固めることになった。漢代儒学の特色の一つは,陰陽五行説を取り入れたことにある。陰陽説とは万物が陽気と陰気の2要素から成ると説くもので,その典型的な例は《易経》に見られる。…

【木食上人】より

…肉類,五穀を食べず,木の実や草などを食料として修行することを木食といい,その修行を続ける高僧を木食上人といった。高野山の復興に尽くした安土桃山時代の応其(おうご)(木食応其)は,広く木食上人の名で知られるが,江戸時代前期には摂津の勝尾寺で苦行を続け霊験あらたかな僧として知られた以空(いくう),中期には京都五条坂の安祥院中興の祖となった養阿,江戸湯島の木食寺の開基として知られる義高,後期には特異な様式の仏像を彫刻して庶民教化に尽くした五行(木喰五行明満)があらわれるなど,木食上人として崇敬された高僧は少なくない。木食は苦修練行の一つで,それを行うことによって身を浄め,心を堅固にすることができるとされたが,経典や儀軌の中に木食の典拠は見いだせない。…

※「五行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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