同一の人が複数の国籍をもつこと。国籍の決定は国際法上原則として国内管轄事項とされ,各国の国籍法の規定が異なる結果,国籍の抵触が発生する。国籍の積極的抵触の場合が重国籍である。たとえば,出生による国籍の取得について血統主義を採る国の国民の子で,生地主義を採る国の領域内で生まれたものは,両国の国籍を取得し重国籍となる。重国籍は,種々の点で不都合な結果をもたらす。たとえば兵役義務の履行を複数の国家から要求されることがあり,また重国籍者に対する外交保護権の行使については,問題を生ずることがある(後述)。そこで重国籍の発生をできるだけ避けるべく,国籍立法の理想として,人は必ず一個の国籍をもちかつ一個の国籍のみをもつべきことが古くから唱えられ(国籍唯一の原則),諸国の立法上,特別の考慮が払われるのが普通である。しかるに,最近,重国籍に好意的ないし肯定的な見解が見られ,ヨーロッパ諸国の立法は重国籍に対し比較的寛容な姿勢をとっている。
日本の現行国籍法(1950公布,84改正)は,原則として重国籍の発生を防止する立場を採っている。外国人の帰化条件として,無国籍であるかまたは日本の国籍の取得によってその国籍を失うべきことを定め(5条1項5号),また日本国民が自己の志望によって外国の国籍を取得したときは日本の国籍を失うものと定め(11条1項),さらに外国の国籍を有する日本国民が法務大臣に届け出ることによって日本の国籍を離脱することができると定めている(13条1項)のは,いずれも重国籍の発生の防止を考慮したものにほかならない。1984年改正前,出生による国籍の取得について採られていた父系血統主義が父母両系血統主義に改められ(2条1号),その結果重国籍が多数発生するにいたった。そこで,重国籍の解消については,新しく国籍の選択制度を設け,外国の国籍と日本の国籍とを併有する重国籍者は,一定期間内に日本の国籍を選択し,かつ外国の国籍を放棄する旨の宣言をしなければならないものとするとか(14~16条),あるいは,その外国の法令によりその国の国籍を選択することができる(11条2項)とされ,また国籍の留保制度を重国籍の解消の制度として維持し,出生により外国の国籍を取得した日本国民で日本国外で生まれたものは,日本の国籍を留保する意思を表示しなければ,その出生の時にさかのぼって日本の国籍を失うものとされた(12条)。このような国籍の選択制度や国籍の留保制度により重国籍を解消させるのは,重国籍者や親の自主的な意思いかんによるものであり,この両制度により重国籍の完全な防止を実現することはできない。また,さきに述べた帰化についての重国籍防止条件についても,外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において,日本国民との親族関係または境遇につき特別の事情があると認めるときは,帰化の許可に際しそれを免除することができるものとされ(5条2項),また,日本に特別の功労のある外国人は,国会の承認のみで帰化を認められるから(大帰化),帰化者は重国籍となる。国籍抵触の完全な防止は結局,条約による取決め以外にこれを達成できる手段はない。この種の条約として,1930年ハーグで開催された国際法典編纂会議において〈国籍法の抵触についてのある種の問題に関する条約〉が成立したが,この条約は重国籍の国籍離脱などにつき技術的な規定を設けるにとどまり,その加盟国も多くはない。日本もこれに署名はしたが,批准していない。なお,同会議では条約のほか〈重国籍のある場合における軍事的義務に関する議定書〉が採択されたが,日本はこれに署名していない。
国際私法上も重国籍が問題とされる。日本の国際私法(法例)では,人事,親族および相続の諸関係について本国法の適用を原則としているので,重国籍の場合,当事者の本国法として適用すべき法律の決定が問題となる。この点について,法例は,当事者が2個以上の国籍を有する場合には,複数の国籍のうち当事者が常居所を有する国の法律を,それがないときは,当事者に最も密接な関係のある国の法律を当事者の本国法とするものとした。ただし,2個以上の国籍のうち,その一つが日本の国籍であるときは,日本の法律を当事者の本国法とするものとした(28条1項)。なお,遺言の方式の準拠法の決定については以上の解決とは異なり,遺言者が遺言時または死亡時に,内外を問わず複数の国籍をもっていた場合には,遺言保護favor testamentiの配慮から,そのいずれもが連結点として認められ,それらの国の法のいずれの方式に従った遺言も有効とされる(法例34条2項,遺言の方式の準拠法に関する法律2条)。
国際法上,重国籍者に対する外交保護権が問題となることについてさきに触れたが,前記の1930年のハーグ条約によれば,重国籍者の所属国相互の間では本人のために外交的保護を加えることができないとされ(4条),また第三国では,重国籍者は,1個の国籍だけを有する者として待遇され,複数の国籍のうち,本人が常住的で主要な居所を有する国の国籍,または,事実上最も関係が深いと認められる国の国籍だけが認められ,その国籍の所属国の外交的保護を受けるものと定められている(5条)。
→国籍
執筆者:山田 鐐一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
個人が同時に二つ以上の国籍をもつこと。国籍の積極的衝突(抵触)または二重国籍ともいう。
[編集部]
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…国籍唯一の原則とは,理想として人は必ず一つの国籍をもち,かつ唯一の国籍をもつべきであるということである。国籍の得喪に関する各国の原則が異なる結果,一人で複数の国籍をもつ場合(重国籍,ほとんどの場合二重国籍)またはいずれの国籍をももたない場合(無国籍)が生ずる。しかしこのような国籍の抵触は不都合な結果をもたらすので,できるだけこれを避けるべきであると従来考えられている。…
※「重国籍」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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