一定の組成をもつ物質を生成させ,その質量を測定することにより目的成分の定量を行う分析法。質量という基本単位による測定であるため,絶対分析法の一つである。質量測定であるが習慣的に重量分析とよぶ。これに対し,比色分析(吸光光度法)や滴定による容量分析は相対分析法である。重量分析には沈殿重量法,電解重量法,揮発重量法,抽出重量法などがあるが,最も一般的なのは沈殿重量法である。
沈殿重量法は,溶液に沈殿剤を加え,一定組成の化合物を沈殿生成させ,これを分離して秤量する方法である。この際,沈殿剤には,目的成分に特異的に作用するか,あるいは選択的に作用する試薬が用いられる。沈殿はできるだけ難溶性のものがよい。沈殿の分離には,ろ過法と遠心分離法があるが,ろ過法が一般的である。ろ過には,ろ紙を用いる方法とガラスフィルターを用いる方法とがあるが,沈殿の性質により目の粗さを適当に選択する。ろ紙には迅速定量用のNo.5A,一般定量用のNo.5B,微粒子定量用のNo.5C,標準定量用のNo.6,最高級定量用のNo.7などがあり,またガラスフィルターにはG1,G2,G3,G4があるが,G4が最も目が細かく,5~10μmの大きさである。
秤量には多くの場合,るつぼが用いられる。最もよく利用されるのは白金るつぼで,あらかじめ焼いてデシケーター中に放冷し,恒量になっている清浄なものを用いる。沈殿をろ紙とともにるつぼ内に入れ,小炎で水分を除去し,やや温度を上げてろ紙を灰化する。ろ紙の灰化後,所定の温度に強熱し,一定組成の物質が得られ恒量になるまで加熱処理をして質量を決定する。白金るつぼを用いる場合,デシケーター内の放冷時間は少なくとも30分は必要である。灰化,恒量化は通常ガスバーナーで行われるが,温度を設定した電気炉を用いると操作が容易であり,正しい結果が得られる。
ガラスフィルターを用いる場合には,あらかじめ恒量にしてあるガラスフィルターを用いて沈殿をろ過し,これをアセトンなどの揮発性有機溶媒で洗って沈殿剤や吸着不純物を除去し,所定の温度で加熱恒量化して,その質量を測定し,目的成分を定量する。
ガラスフィルターを用いる場合は,加熱温度が低いので沈殿形precipitated formと秤量形weighing formとは同じであることが多い。白金るつぼを用いて恒量化,測定を行う場合には,この両者は異なる場合が多く,最も安定な化合物が生成する温度が設定される。秤量形は一般に次の諸点を考慮して選択される。
(1)分子量(式量)が大きいこと,(2)沈殿重量法では沈殿の溶解度が小さく,純粋な沈殿が得られやすいこと,(3)分離が簡単,容易であること,(4)乾燥あるいは強熱によって一定の組成の化合物になること,(5)大気中で安定で湿気,二酸化炭素を吸収しにくいこと,などである。これらのことを考慮して,現在用いられている沈殿形と秤量形の例を表に示す。
沈殿剤を用いないで,他の成分を除去したのち,蒸発乾固して目的成分を定量する方法もある。これは適当な沈殿剤のないナトリウムイオンNa⁺などを塩化ナトリウムNaClとして秤量する場合に用いられる。
重量分析は,精度よく目的成分を定量できるが操作がめんどうであること,時間がかかることなどで,現在は日常の分析ではあまり用いられていない。また質量測定には限界があり,あまり微量の成分の定量には有効ではない。
質量分析計mass spectrometerは電場,磁場を用い物質のe/m(電荷と質量の比)を利用して定量する方法であるが,イオン電流として信号を取り出すことができるので,最近は微量ないし超微量の成分を測定する絶対分析法として利用されるようになった。
執筆者:綿抜 邦彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
定量分析の一種で、定量しようとする成分をなんらかの方法で、まず他の成分から分離して秤量(ひょうりょう)しやすくして、化学天秤(てんびん)を用いてその質量を測る。ついでこの値から計算によって目的物質に含まれているその成分を質量%で求める分析法である。種々の方法があるが、もっとも広く用いられているのは沈殿重量法とよばれるもので、試料の一定量を正確に測り取り、これを適当な試薬で溶解したのち、沈殿剤を加えて目的成分のみを沈殿させ、これを濾別(ろべつ)して他の溶液成分から分け、必要に応じて乾燥またはるつぼ中で強熱して一定組成の化合物として秤量する。そのほか、加熱によって揮発分離し、揮発成分を秤量した適当な吸収剤に吸収させ、その質量の増加を測ったり、揮発成分を追い出し、質量の減少を測って定量する揮発重量法、電気分解によってあらかじめ秤量しておいた電極上に目的成分を析出させて定量する電解重量法、適当な溶媒によって目的成分を抽出分離する抽出重量法などもある。
重量分析はほとんどの元素の定量に適用でき、また他の分析法は濃度が既知の標準物質により得られた値との比較で定量を行うのに対し、この方法は標準物質を必要としない点に大きな特徴がある。ただ共存成分から分離、加熱する操作に熟練を要し、かつ迅速性に欠ける点が難点となる。
[高田健夫]
『佐竹正忠・御堂義之・永広徹著『分析化学の基礎』(1994・共立出版)』▽『今泉洋・上田一正他著『基礎分析化学』(1998・化学同人)』▽『綿抜邦彦著『分析化学』新訂版(1999・サイエンス社)』
目的成分をほかの成分から分離し,組成一定のひょう量化合物にしたのち重量を求め,その化合物の化学量論比から目的成分を定量する定量分析.沈殿法と揮発法がある.沈殿法では試料を水溶液とし,目的成分だけを難溶性沈殿として分離し,乾燥あるいは強熱し,組成一定の化合物とする.ケイ素はSiO2,鉄はFe2O3,マグネシウムはMg2P2O7,アルミニウムはAl2O3などのひょう量形として定量される.揮発法は,目的成分を揮発させ,重量既知の吸収剤に吸収させて重量増から求める直接法,あるいは揮発による試料の重量減から間接に求める方法がある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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