化学変化に伴う各物質間の量的変化の関係を明らかにしようとする化学の一分野。歴史的には,18世紀末ドイツのリヒターJ.B.Richter(1762-1807)が,化学を数学的体系に還元できるのではないかと考え,種々の化学反応にあずかる成分の間の量的関係を調べたところ,当量的関係が成り立つことを見いだし,ギリシア語の基本成分を意味するstoicheionと測定を意味するmetreinを結びつけ,stoichiometryと呼んだのが初めである。この考えは近代化学の創始者たちに引き継がれ,フランスのJ.L.プルーストによって〈定比例の法則〉(1799),イギリスのJ.ドルトンによって〈倍数比例の法則〉(1808),そしてフランスのJ.L.ゲイ・リュサックによって〈気体反応の法則〉(1808)が確立され,原子・分子の概念による近代化学の確立の基礎となった。現在,原子・分子を化学記号で表した化学反応式は化学反応に伴う各成分の量的変化の関係を明示するもので,化学量論的方程式とも呼ばれ,化学反応を取り扱う場合の基本的関係として使われている。また,さらに広く物質の種々の物理的性質と化学的組成および構造式との量的関係も詳細に調べられ,経験的法則として提出されるようになり,未知の性質の推定や理論的考察のための基礎的知見として利用されている。
執筆者:妹尾 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
元素や化合物について数量的に調べることをいう。18世紀後半にドイツのリヒターが「化学元素を計量する術」としてこの語を用いたのが初めである。今日ではすべて化学物質は数値を用いて研究されているが、質量保存の法則、定比例の法則、気体反応の法則などが出現するまでは、数量的には扱われていなかった。たとえば、物質の反応量を測定せずに定比例の法則は導けないが、18世紀後半には質量を測定して化学反応を調べるようになり、純物質の成分元素の質量比が一定であることがわかった。今日では、広義の物理化学がこれにあたる。ある物質の構造を調べ、その物質の性質との関連を調べるのも数量的な取扱いが必要であるためである。
[下沢 隆]
化合物の化学変化における物質間の数量的関係を取り扱う化学の一領域をさす.従来,質量保存則,定比例の法則,倍数比例の法則,気体反応の法則などがおもな対象であったが,その後,複雑な反応の構成を明らかにする研究や,化合物の化学組成や構造と物性の関係を調べる研究などを漠然とさすようになってきている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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