詩人。明治28年12月25日、愛知県海東郡越治村(津島市)生まれ。父大鹿(おおしか)和吉、母りやうの三男。本名安和(やすかず)。弟の秀三は詩人、小説家の大鹿卓(たく)。1897年(明治30)建築業清水組名古屋出張所主任金子荘太郎の養子となり、京都、東京に移り住む。暁星中学を経て、早稲田(わせだ)大学、東京美術学校、慶応義塾大学をいずれも中退。1916年(大正5)病臥(びょうが)中に初めて詩作を試み、以後60年に及ぶ。19年1月、義父の遺産の残りで、処女詩集『赤土(あかつち)の家』を出版、同年2月、骨董(こっとう)商鈴木幸次郎に伴われ渡欧、ベルギーで詩作に励んだ。その一部が『こがね虫』(1923)で、熱烈な美への憧憬(しょうけい)をうたっている。関東大震災で家を失い、各地を放浪。24年、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)の生徒森三千代と結婚。だが、三千代は恋多き女で、27年(昭和2)土方(ひじかた)定一と駆け落ちした。草野心平(しんぺい)の尽力により連れ帰り、日本を脱出、足掛け5年、東南アジアからヨーロッパまで放浪旅行。この苦しい旅で、無国籍者の視座を得、詩人として大きく飛躍した。帰国後にまとめた『鮫(さめ)』(1937)は戦争を批判的に描き、現代を代表する詩集といわれている。第二次世界大戦中に書きためた反戦詩は、戦後『落下傘』『蛾(が)』(ともに1948)、『鬼の児の唄(うた)』(1949)として刊行、注目された。戦後は自伝的な『人間の悲劇』(1953)、『水勢』(1956)、『IL(イル)』(1965)などで、日本人の悲劇を追究し、独得の文体を確立した。晩年は自伝小説『どくろ杯』(1971)ほかを書き、柔軟、自在な語り口を示している。昭和50年6月30日没。
[首藤基澄]
『『金子光晴全集』全15巻(1975~77・中央公論社)』▽『首藤基澄著『金子光晴研究』(1970・審美社)』▽『嶋岡晨著『金子光晴論』(1973・五月書房)』
大正・昭和期の詩人
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
詩人。愛知県生れ。本名安和。父大鹿和吉は酒商だが,興業や鉱山に手を出していた。1897年,金子荘太郎・須美の養子となり,荘太郎の転勤で,京都,東京と移り住む。小林清親(きよちか)に日本画を学び,後の放浪旅行中には,絵で糊口をしのいだこともある。早大予科,東京美術学校,慶大予科に入学したが,いずれも中退。1915年,肺尖カタルで病臥(びようが)し,詩作を始めた。16年,義父の死で,遺産20万円を義母と折半したが,短期間に散財,残った金で,19年から2年間,ヨーロッパへ留学,ベルギーのブリュッセル郊外に滞在して,初めて向日的な日々を送り,西欧文化への目を開かれた。高踏的・耽美的な詩集《こがね虫》(1923)はその所産。24年,森三千代と結婚したが,定職につかず生活は困窮した。三千代が土方定一と恋愛し,面目を失ったため,28年,三千代と日本を脱出,東南アジアからヨーロッパまで,5年間放浪した。この苦しい旅によって,東西両文明を客体視できるようになり,詩人として大きく飛躍した。《鮫(さめ)》(1937),《落下傘》(1948)等は,抵抗詩集として最も高い位置をしめ,戦後創作の《人間の悲劇》(1952),《IL(イル)》(1965)は,人間の実存の痛みを,詩と散文を混交した独特の文体で表出した傑作である。晩年は自伝小説《どくろ杯》(1971)ほかを発表,自在な語り口と,とらわれない生き方で注目された。《野蛮人》《谷中村事件》の作家大鹿卓(おおしかたく)は実弟。
執筆者:首藤 基澄
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…一方,草野心平,逸見猶吉,高橋新吉,菱山修三,中原中也,山之口貘,伊藤信吉らは《歴程》(1935創刊)に拠り,それぞれの個性的な詩風を展開すると同時に,宮沢賢治,八木重吉ら物故詩人の仕事の顕彰につとめた。《歴程》には高村光太郎や金子光晴も寄稿した。戦争の激化とともに多くの詩人が軍事国家体制下の戦争詩の書き手に変貌していったが,金子光晴は近代的自我意識に根ざす反骨と批判精神を保った抵抗の詩をひそかに書きつづけ,戦後《落下傘》(1948),《女たちへのエレジー》(1949)その他の詩集としてこれらを発表,反響をよんだ。…
※「金子光晴」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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