鉱山病(読み)こうざんびょう

精選版 日本国語大辞典 「鉱山病」の意味・読み・例文・類語

こうざん‐びょう クヮウザンビャウ【鉱山病】

〘名〙 鉱山労働に伴う特有の病気。主なものとして、感冒リウマチ呼吸器病、消化器病、動脈硬化などがある。
円形劇場から(1970)〈辻邦生〉「隣りの部屋には、鉱山病をわずらっている父親が寝ていた」

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改訂新版 世界大百科事典 「鉱山病」の意味・わかりやすい解説

鉱山病 (こうざんびょう)

鉱山労働者がかかる種々の病気の歴史的呼称採鉱冶金は人類最初の専門業であるといわれるが,それはまた人間が初めて有害物質をつくり出した現場でもあり,鉱山は職業病・公害病の原点であった。古代ギリシア人はすでに銀山における有毒ガス水銀中毒について観察していたが,鉱山病がはっきりと認識されるのは,ヨーロッパで近代文明の夜明けを告げる鉱山業が勃興した時点であった。ヨーロッパで初めて鉱山病について医学的な記録を残したのは,ルネサンス時代のG.アグリコラパラケルススである。アグリコラは大著《デ・レ・メタリカ》(1556)で,鉱夫の肺の異常にふれ,このために死んだ夫を7人ももった婦人の話を伝えているが,それは塵肺の一種であり,また有毒物による腫瘍骨髄まで冒す病気は,砒素による肺癌(がん)であったと推定される。パラケルススは《鉱夫病》(1567)という専門書を著し,塵肺や金属中毒の因果関係を初めて見抜いた。続いて労働医学の祖といわれるラマッツィーニBernardino Ramazzini(1633-1714)は《働く人々の病気》(1700)で〈鉱夫の病気〉を冒頭に掲げ,その病因と症状を詳しく論じた。

 日本でも,鉱山開発が急速に進められた江戸時代になると,鉱山労働者に職業病が発生し,また近隣に鉱毒による公害をもたらした。佐渡奉行の川路聖謨(としあきら)は,その日記《島根のすさみ》に,石粉と油煙に冒された坑夫がほとんど30歳で死亡すると記し,秋田の大葛金山の文書では〈石粉まじりの痰を吐き〉とあり,生野銀山の文書でも〈痰を吐き,血を吐き,苦しみて死す〉などと記されているが,これらは後に〈ヨロケ〉といわれた塵肺の一つ珪肺を主症とする鉱山病であった。こうした坑夫の職業病に対する医療対策はほとんどとられていなかった。明治以降になっても鉱山病についての認識と対策は遅れ,珪肺についての告発は1925年の全日本鉱夫総連合会による《ヨロケ病調査》がその最初とされる。
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世界大百科事典(旧版)内の鉱山病の言及

【癌】より

…しかし癌の病理がどうやらつかまれてくるのは,細胞学説の確立された19世紀後半のことで,フィルヒョーの細胞病理学以後のことである。 16世紀のG.アグリコラやパラケルススが記述した鉱山病には,のちに肺癌と指摘されたものがあったことが知られ,その意味では,今日問題となっている職業癌患者の第1号は鉱夫たちであった。しかし今日環境癌あるいは職業癌と呼んでいる癌について,その発癌の経緯を正確につきとめたのは,ロンドンのセント・バーソロミュー病院の外科医P.ポットであった。…

【よろけ】より

…けだえ(煙害による肺の病気)と並んで,江戸時代の職業による鉱山病の代表的なものである。坑内の採鉱労務者に多く,採鉱のさいの鉱塵によっておこる珪肺(けいはい)を主とした病気である。…

※「鉱山病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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