水銀中毒(読み)スイギンチュウドク

精選版 日本国語大辞典 「水銀中毒」の意味・読み・例文・類語

すいぎん‐ちゅうどく【水銀中毒】

  1. 〘 名詞 〙 昇汞(しょうこう)や水銀蒸気を吸入したことによって起こる中毒症状。急性の場合は、ネフローゼや尿毒症を起こし、慢性の場合は、口内炎や不随意的な身体一部のふるえなどがみられる。→水俣(みなまた)病

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内科学 第10版 「水銀中毒」の解説

水銀中毒(重金属中毒)

(2)水銀中毒(mercury poisoning)
定義・概念
 水銀中毒は,無機有機水銀中毒に分類され,無機水銀では腎臓,消化器,呼吸器,中枢神経が,有機水銀では主として中枢神経が障害される.水俣病は工場廃液中に含まれるメチル水銀が食物連鎖を経て漸次魚介類に濃縮蓄積し,この汚染魚介類を反復摂取することにより発症したメチル水銀中毒症である.
病理
 有機水銀(メチル水銀)の沈着しやすい部位として,大脳では後頭葉(鳥距野の前半部),側頭葉上側頭回,中心後回などがあげられ,神経細胞の脱落が起こる.小脳では新旧小脳ともに中心性に深部が障害されやすく,Purkinje細胞層直下の顆粒細胞の脱落が特徴的である.
病態生理
 水銀は生体内に経気道,経皮,経口的に侵入する.無機水銀塩は生体内ではほとんど二価イオンとして存在し,蛋白質のSH基と強く結合し,各種酵素活性を阻害し毒性を示す.メチル水銀は消化管よりの吸収が90~100%ときわめて高く,血液脳関門をよく通過し中枢神経系に対する親和性が強く,特異的な中枢神経症状を呈する.
臨床症状
1)無機水銀中毒:
 a)金属水銀中毒:水銀蒸気を肺から吸入することにより発症し,急性中毒では激しい咳,気管支刺激症状,胸痛,呼吸困難,肺炎症状を,慢性中毒では記憶障害,うつ症状,企図振戦,erethism(人前での赤面などの神経過敏状態),消化器症状(食欲不振,口内炎,唾液分泌過多など)をきたす.
 b)無機水銀塩中毒:急性中毒は昇汞(塩化第二水銀)などを自殺企図で服用した場合などにみられる.口腔,咽頭,食道・胃粘膜の腐食による流涎,胸骨下の激しい疼痛,腹痛,吐血,下血,下痢,急性腎不全症状をみる.慢性中毒では金属水銀中毒とほぼ同様の症状をみる.
2)有機水銀中毒:
 典型例では求心性視野狭窄,聴力障害,小脳症状(構音障害,協調運動障害,平衡障害),および感覚障害を認め(Hunter-Russell症候群という),その他企図振戦,味覚・嗅覚障害,重症例では性格変化,知能低下,妄想などの精神症状,痙攣などもみられる.
検査成績
 無機水銀中毒では尿中水銀,尿中コプロポルフィリンが増加し,血尿・蛋白尿をみる.有機水銀中毒でも急性期には毛髪・血液・尿中水銀が高値を示し,診断に有用であるが,慢性に経過したものでは正常化していることが多い.水俣病の典型例では頭部CT,MRIで両側後頭葉の鳥距野,中心後回,小脳の萎縮を認める(図15-11-1).
診断
1)無機水銀中毒:
職業歴(水銀暴露),臨床症状,検査所見から総合判断.
2)有機水銀中毒:
患者の居住地区,生活歴,魚介類の摂取状況などを調査し,臨床症状を詳細に分析する.
治療
1)無機水銀中毒:
無機水銀の経口摂取の急性期には牛乳を飲ませて吐かせるか,牛乳,卵白や活性炭による胃洗浄,下剤投与を行う.体内に入った水銀の排泄にはできるだけ早くキレート剤(DMSA,ペニシラミン,ジメルカプロール)投与,チオプロニン投与,血液透析を行う.腎障害の発生が予後を決める.
2)有機水銀中毒:
発症早期にはDMSAは有効と思われるが,慢性期には効果は期待できない.各種ビタミン薬,鎮静薬,鎮痙薬などを症状に合わせて使用する.リハビリテーションも有効である.[内野 誠]

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百科事典マイペディア 「水銀中毒」の意味・わかりやすい解説

水銀中毒【すいぎんちゅうどく】

水銀,または水銀化合物による中毒。慢性と急性があり,急性では,昇汞(しょうこう)中毒が多い。慢性中毒は,工業的に水銀蒸気を吸う場合などに起こる。口腔炎,歯牙の脱落,腹痛,貧血,やせ,神経過敏,振顫(しんせん)を伴う顕著な運動失調や躁狂(そうきょう)発作を起こし,尿中や毛髪から水銀が検出される。ヨウ化カリウムにより治療する。近年,工場廃水中の水銀や農薬の有機水銀剤(特にアルキル水銀)による中毒が問題になっている。→水俣(みなまた)病
→関連項目アマゾン水俣病水銀水銀電池

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「水銀中毒」の意味・わかりやすい解説

水銀中毒
すいぎんちゅうどく
mercury poisoning

水銀や水銀化合物による中毒。水銀鉱山,計器工場やアマルガム工場などで,粘膜,皮膚に変化が顕著に現れ,やがて潰瘍化し,ときとして腎疾患に発展して致命的になるものが知られていた。しかし,熊本県水俣湾でとれた魚介類を食べた人に発生した水俣病,さらに新潟県阿賀野川流域に発生した第2水俣病の報告以来,各種生物,ことに人体内部に蓄積することによって発生する,有機水銀による慢性中毒が新たに注目を浴びるようになった。有機水銀中毒は神経,脳障害が中心で,手足の震え,手足や口のまわりのしびれ,歩行困難,めまい,難聴や,視野狭窄,言語障害などの症状を示し,重症では死にいたる。

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世界大百科事典(旧版)内の水銀中毒の言及

【水銀】より

…化合物は殺菌剤,殺虫剤として,また有機水銀は利尿剤,梅毒の治療薬としてもかつては使われた。
[水銀中毒]
 水銀は単体でも化合物でも,ものによっては,消化管や皮膚,気道を通して吸収され,肝臓,腎臓,脾臓,骨などに蓄積されて水銀中毒をひき起こす。水銀中毒は無機水銀中毒と有機水銀中毒の二つに大別される。…

※「水銀中毒」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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