金工の成形技法の一つ。鋳造(ちゆうぞう),鋳物(いもの)ともいう。加熱による金属の溶解性を利用したもので,金属を溶解してあらかじめ作っておいた鋳型(いがた)に流し込み,冷やしてから製品を鋳型から取り出して仕上げる技術。鋳型作製,金属の溶解鋳込み,仕上げの3工程に分けられる。鋳込みと仕上げの工程は共通するが,鋳型の作製には差異があり,中空の器物を作るには雌型(めがた)(外型(そとがた))と雄型(おがた)(中型(なかご),中子(なかご))を必要とする。鋳金の技術としては,おおむね以下の鋳造法がある。
(1)石型鋳造 砂岩状の石に鋳造する器物を陰刻し,これに溶解した金属を流し込む技法で,古代の銅剣,銅矛,銅戈などが石型によって行われている。銅鐸の石鋳型が姫路市名古山(断片),赤穂市上高野(断片),大阪府東奈良(銅鐸の半面)から出土しており,これらは古い形式の銅鐸が多いことから,銅鐸の鋳造は前期は石鋳型が使用され,後代には土鋳型が使用されるようになったと推定されている。
(2)蠟型(ろうがた)鋳造 蜜蠟をひねって原形を作り,これを鋳型土で包んで土鋳型を作製し,蠟を焼きぬいて,できた空間に溶銅を注入する技法。原形は蠟のみで形を作る〈ひねりもの〉の技法のほかに,鋳型土で中型を作り,この中型に蜜蠟に松やに(粘力を増すため)や油(柔軟にするため)を合わせた蠟をつけて原形を作り,その上に土と埴汁(はじる)(粘土汁)をまぜた土を塗りかけ,さらにその上を鋳型土で塗り固め,乾かしてから鋳型をかまどに入れて全体を火で焼いて中の蠟を焼きぬき,できた空洞に溶銅を注入する方法がある。中型が鋳造の際に動かないよう適当なところの蠟を切りぬいて型持(かたもち)を置いたり,蠟を通して中型に針,釘(笄(こうがい))を打つ。中型には必要な場合心金(しんがね)を入れる。蠟型技法は大陸に起こり,仏教文化とともに日本に伝わったもので,飛鳥・白鳳・奈良時代の金銅仏にはこの技術が多く用いられている。また水瓶や鋺(わん)/(まり)も中型に蠟を薄く貼り,型引きして原形としたことが,734年(天平6)の《造仏所作物帳》に〈﨟蜜小十斤銀鋺下形料〉とあることにより推定できる。
(3)惣型(そうがた)鋳造 総型ともいう。最も原始的な技法で,土鋳型に直接に形を彫り込んでくぼみを作り,このくぼみを外型とし,溶銅の接する部分のみを火にあて,乾燥させて鋳造を行う技法。つまり原形がないことと,溶銅が当たる部分のみを乾燥させるという特色がある。中型の必要な場合は中型を作り,その間に鋳銅品の厚みだけの空間をとり,文様などを外鋳型に陰刻し,外型の内面と中型の外面,つまり溶銅の接する部分を火にあてて乾燥させ,溶銅の入る間隙を正しく保つように型持をおいて,この間に溶銅を注入する技法である。大型の銅鐸,鏡,鍋,釜,鐘,鰐口(わにぐち)などがこの技法によって作られている。初期の銅鐸,そして銅剣,銅矛も型の材質が石製であるが,石という点を別にすれば原理的には惣型に属するといえる。梵鐘の鋳造も立体的ではあるが原形を作り,これによって型引きして型をいくつかに分けて作り,これを組み合わせて鋳造を行う。惣型は物相飯(もつそうめし)のように,元来,外型を助けて中型を作り変えれば数回使える量産的なものである。
(4)削り中型鋳造 惣型の変化とみられる技法。原形を鋳物土で作り,これに合わせて外型を作り,この型を一度取り除き,原形を鋳物の厚みだけ削りとって中型とし,外型と合わせて鋳造する方法。《日本書紀》の崇峻天皇元年(588)条に,元興寺起工にあたり百済より将徳白味淳という鑪盤(ろばん)博士が来朝した記事がある。この鑪盤博士は塔の露盤や相輪などを作る,削り中型の技術を身につけた工人と推定される。東大寺大仏もこの削り中型鋳造と惣型鋳造を併せた技法によって創造されたものである。
→大仏
(5)踏返(ふみがえし)鋳造 完成品をそのまま原形とし,鋳型に形押しして陰刻面を作り鋳造する技法。奈良時代には舶載の海獣葡萄鏡を利用して,この方法で仿製鏡が作られている。時代が下り江戸時代後期の柄鏡(えかがみ)はこの鋳造法が多い。同文様のものが大量にできるが,原形より文様は不鮮明になり,寸法は若干縮まる。
(6)込型(こめがた)鋳造 近世に発達した技法。あらかじめ作っておいた原形を部分部分に分けて鋳型に転写し,これを組み合わせて一つの鋳型とし,型全体を焼いて鋳造する。近代の鋳造彫刻,工芸鋳物はほとんどこの方法による。
(7)砂型鋳造 生型(なまがた)ともいう。鋳造に適した砂で鋳型を作り,そのまま鋳込む方法と乾燥させて鋳込む方法がある。江戸時代から盛んに行われた方法で,銭貨や鏡の大量生産はほとんどこの方法によった。中型を必要とする空洞の器物は作りにくい。
そのほか蠟型の量産的鋳造,現代の電気鋳造法などがある。
→鋳造
執筆者:香取 忠彦
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金属工芸の技法の一種。金属の鋳造技術はメソポタミアでは紀元前3000年ころから知られており、エジプトや中国でも早くから青銅器が鋳造された。古代ギリシア人は青銅を彫像に鋳造する技術に優れ、多くの優品を残している。中世ドイツは第二の青銅器時代とよばれるほどで、ヒルデスハイム大聖堂の門扉などの宗教建築の装飾や、台所用品などの実用品もつくられた。ルネサンス期の北イタリアでは、騎馬像、門扉、室内装飾が製造され、バロック期にはフランスの青銅技術がヨーロッパをリードした。鋳鉄は熱せられても溶けず、ただちに熱を発散するので、18世紀ドイツでは暖炉の製造が盛んになり、暖炉のプレートや燭台(しょくだい)、日用雑器などがつくられている。
[小川乃倫子]
…このほか,近年では日常品の素材としてアルミニウム,ステンレス,ニッケルなど,また装身具材料としてホワイトゴールド,プラチナなどの貴金属が利用されている。 加工技法は大別して鋳金,彫金,鍛金に分けられる。鋳金は溶かした金属を鋳型に流し込んで成型する技法であり,彫金,鍛金は金属の塊や板を,鏨(たがね)を用いて彫ったり,切り透かしたり,打ち延ばしたりして,成型・加飾する技法である。…
※「鋳金」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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