鑓の権三重帷子(読み)ヤリノゴンザカサネカタビラ

デジタル大辞泉 「鑓の権三重帷子」の意味・読み・例文・類語

やりのごんざかさねかたびら【鑓の権三重帷子】

浄瑠璃世話物。2巻。近松門左衛門作。享保2年(1717)大坂竹本座初演。茶道師匠浅香市之進の妻おさいと鑓の名手笹野権三は、不義密通の濡れ衣を着せられ、市之進に討たれる。近松三姦通物の一。通称「おさい権三」「鑓の権三」。

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精選版 日本国語大辞典 「鑓の権三重帷子」の意味・読み・例文・類語

やりのごんざかさねかたびら【鑓の権三重帷子】

  1. 浄瑠璃。世話物。二段。近松門左衛門作。享保二年(一七一七)大坂竹本座初演。大坂高麗橋で、松江藩茶道役正井宗味が、妻敵(めがたき)である同藩近習中小姓池田文次と、妻とよとを討った事件を、歌謡で知られた笹野権三郎に仮託して脚色したもの。近松の三姦通物の一つ。通称「鑓の権三」。

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改訂新版 世界大百科事典 「鑓の権三重帷子」の意味・わかりやすい解説

鑓の権三重帷子 (やりのごんざかさねかたびら)

人形浄瑠璃。世話物。2巻。最初の外題は《好色橋弁慶》。近松門左衛門作。1717年(享保2)8月大坂竹本座初演。題材はこの年7月17日大坂高麗橋(こうらいばし)であった女敵討(めがたきうち)。京大坂の歌舞伎芝居でも際物の急作を上演していたが,近松は別個に構想を立てたものと見られる。笹野権三は茶道の秘伝の伝授を望んでいる。師匠浅香市之進は江戸詰めで不在であるが,その妻おさゐは権三に娘お菊の婿になることを求め,それを承知した権三にその夜一子相伝の巻物を見せる。しかし権三が川側(かわづら)伴之丞の妹お雪と言い交わしていることを嫉妬して心乱れ,そのため庭に忍びこんでいた伴之丞に不義者と言い立てられ,言訳できない立場に追い込まれる。おさゐは権三に,不義者の汚名を身に引き受けて夫に討たれ,夫の武士としての面目が立つようにしてくれと頼む。権三はやむなく承諾し,2人は駆落ちする(道行がある)。帰国した市之進はおさゐの弟甚平と女敵討に出立し,伏見京橋でおさゐと権三を討つ。近松姦通物の第3作。モデルは出雲松平藩の茶道役の妻と中小姓であるが,近松は男主人公に流行歌に歌われた美男槍使いの名とそのイメージを採り,それに対するおさゐの異常とも見える嫉妬の中に,激しい情念を抑えて生きている女の内面を描き,夫の名誉のために男とともに討たれようとするところに,武家の妻の悲しさを表そうとした。本作の改作には《裙重紅梅服(つまがさねこうばいこそで)》,翻案には《褄重血紅跂(つまがさねちしおのあかばね)》がある。なお同題材の浮世草子3種が知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鑓の権三重帷子」の意味・わかりやすい解説

鑓の権三重帷子
やりのごんざかさねかたびら

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。世話物。二巻。近松門左衛門作。1717年(享保2)8月、大坂・竹本座初演。同年7月に大坂高麗橋(こうらいばし)であった女敵討(めがたきうち)を、流行歌にうたわれた美男の槍(やり)使いの名を男主人公に使って脚色したもの。茶道師範浅香市之進の妻おさゐは、夫が江戸詰めで不在中、門弟笹野権三に乞(こ)われ、娘の婿になることを条件に茶道の秘伝を伝授することになる。その際、権三がかねて言い交わしている川側伴之丞(かわづらばんのじょう)の妹ゆきのことからいさかいとなるが、それを庭に忍んでいた伴之丞に不義密通と呼び立てられ、二人の帯を証拠に持ち去られる。おさゐは不義の汚名を身に引き受け、権三とともに駆け落ちし、伏見(ふしみ)京橋で市之進に討たれる。『大経師昔暦(だいきょうじむかしごよみ)』『堀川波鼓(ほりかわなみのつづみ)』とともに近松三大姦通(かんつう)物の一つ。娘にかこつけて嫉妬(しっと)する女主人公の激しい情念の描き方に特色があり、近年は文楽(ぶんらく)、歌舞伎(かぶき)をはじめ、新劇や映画にも扱われている。

[松井俊諭]

『鳥越文蔵校注・訳『日本古典文学全集44 近松門左衛門集 二』(1975・小学館)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鑓の権三重帷子」の意味・わかりやすい解説

鑓の権三重帷子
やりのごんざかさねかたびら

浄瑠璃。世話物。2巻1段。近松門左衛門作。享保2 (1717) 年大坂竹本座初演。同年大坂高麗橋で起った妻敵討 (めがたきうち) を俗謡で知られる「鑓の権三」に仮託し,表小姓笹野権三と茶道の師浅香市之進の妻おさいとの密通事件として脚色したもの。同じ題材の作品は歌舞伎でも演じられ,浮世草子でも数編作られたが,本作はその代表作。『堀川波鼓 (ほりかわなみのつづみ) 』『大経師昔暦 (だいきょうじむかしごよみ) 』を合せ,近松三姦通物の一つ。

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