中国、吉林(きつりん)省中部にある副省級市(省と同程度の自主権を与えられた地級市)で、同省の省都。九台(きゅうだい)など7市轄区と農安(のうあん)県を管轄し、徳恵(とくけい)など2県級市の管轄代行を行う(2017年時点)。人口758万8921、市轄区人口433万8954(2010)。中華人民共和国成立前は新京(しんきょう)とよばれ、日本の東北地区支配の本拠地であったが、現在は吉林省の政治、経済、文化の中心地である。
松花江(しょうかこう)に注ぐ伊通河(いつうが)とその支流に挟まれた標高230メートルの広い台地上に位置し、南西30キロメートルで東遼河(とうりょうが)との分水界に達する。1月の平均気温は零下17.2℃、7月は23.6℃、年降水量は645ミリメートルで夏に集中する。仙台市、岩手県金ヶ崎(かねがさき)町、千歳(ちとせ)市と姉妹都市提携を結んでいる。
[浅井辰郎・編集部 2018年1月19日]
1800年、清(しん)朝が長春庁を設けたのが市の発祥で、農業のほか製粉、酒造、紡績などの商工業がおこった。日露戦争後の1906年(明治39)日本が奉天(ほうてん)総領事館長春分館を置き、長春以南の東支鉄道をロシアから継承して南満州鉄道とした。また清から土地を買収して満鉄付属地をつくり、1914年(大正3)その中央部に長春駅を建設した。駅を中心に放射状の都市がつくられ、南東の商埠地(しょうふち)、城内との間に商工業地区が、西部には官庁、学校、社宅地区が建設された。1932年(昭和7)「満州国」建設に伴い新京と改称したが、1945年長春に復した。
[浅井辰郎 2018年1月19日]
大豆、トウモロコシ、アワ、コウリャン、テンサイ、米を産出し、ヒツジ、ブタ、ウマなどの畜産も盛んである。「東北三宝」とよばれるチョウセンニンジン、鹿茸(ろくじょう)、貂皮(ちょうひ)の集散地でもある。
中国第一汽車集団が本拠地を構えるなど、中国第一の自動車工業都市として知られる。京哈(けいは)線の西には第一自動車製造廠(しょう)があり、1956年中型トラック「解放」をつくって以来、車や部品のほか、技術者、労働者を全中国に派遣している。第一汽車はトヨタ自動車やマツダ、フォルクスワーゲンと合弁企業を設立しており、市内には各社の生産工場があるほか、デンソーをはじめとする自動車部品メーカーも多数進出している。また、市の北部に機関車廠、工作機械廠が、東部に省博物館や巨大なトラクター製造廠、ディーゼルエンジン、自転車、ゴム、重油、合板、ミシン、時計などの工場がある。軽工業に対して重工業の生産額の割合が高い。
市には京哈線、哈大線(ハルビン―大連(だいれん))、長図線(長春―図們(ともん))、長白線(長春―白城(はくじょう))が集中するほか、地下鉄も走る。市中心部の北東約30キロメートルには、2005年開港の長春竜嘉(りゅうか)国際空港がある。
[浅井辰郎・編集部 2018年1月19日]
中心部にある人民広場(旧、大同広場)の周囲には人民銀行、電信局、公安局のほか、省賓館、工人文化宮がある。同広場から人民大街(旧、大同大街)を北上すると、百貨大楼(旧、三中井(みなかい))、市政府(旧、康徳会館)、省政府(旧、関東局)、省中国共産党委員会(旧、関東軍司令部)、勝利(旧、児玉)公園、春誼(チュンイ)賓館(旧、ヤマトホテル)や長春駅がある。人民広場から南下すると吉林大学、東北師範大学(旧、新京医大)、体育学院、吉林大学南嶺(なんれい)キャンパス(旧、新京工大)、南湖公園などがある。西側には吉林大学朝陽キャンパス(旧、帝宮)、吉林大学白求恩(ベチューン)医学部(旧、国務院ほか)、省図書館、長春電影制片廠がある。長春電影制片廠は「満州国」が国策会社として設立した満州映画協会を前身とする映画スタジオで、2005年には映画のテーマパークを開業するなど、映画の町・長春の象徴的な存在となっている。また、人民広場の北東には、帝宮の一部を復元し、旧日本軍の占領政策の歴史を展示した博物館がある。
[浅井辰郎・編集部 2018年1月19日]
中国,吉林省中部にある同省の省都。伊通河が市内を貫流する。京哈線(北京~ハルビン)と長図線(長春~図們),長白線(長春~白城市)の分岐点にあたる。清末,漢族移住者が増加したため1800年(嘉慶5),現在の市の南郊にあたる長春堡に長春庁を置いたが,25年(道光5),寛城子(現在の長春市)に治所を移したのが始まりで,88年(光緒14)には長春府に昇格,1913年県となり,32年日本の傀儡(かいらい)政権の〈満州国〉誕生に伴い,その〈首都〉として新京と名づけられ,市制を敷いた。これより先1906年日露戦争後,日本が南満州鉄道(満鉄)経営に乗り出した結果,長春は日露の鉄道権益の境界となり,08年日本はここに満鉄付属地を設け,また10年旧市街との間に商埠地を開いた。〈満州国〉の〈首都〉となって以後,近代的都市計画にもとづく管理中枢および支配者居住区とスラム化した中国人街との二重構造をもつ都市になったが,本質的には消費都市であった。日本の敗戦による傀儡政権の解体後,長春の原名に復したものの第3次国内革命戦争により荒廃した。しかし解放後吉林省の省都となり,第1自動車工場をはじめ,トラクター,電機,化学,窯業,食品工業が建設され,また吉林大学,東北師範大学や多くの科学研究機関が設けられた。現在では面積1万8900km2(うち市部1116km2),人口323万(2000)の大都市に成長している。
執筆者:河野 通博
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