日本大百科全書(ニッポニカ) 「長沼ナイキ訴訟」の意味・わかりやすい解説
長沼ナイキ訴訟
ながぬまないきそしょう
自衛隊が合憲か違憲かをめぐって10年以上にわたって争われた裁判。1969年(昭和44)北海道夕張郡長沼町に自衛隊の地対空ミサイル「ナイキ・ハーキュリーズ」基地を建設するため、政府(農林大臣)が同町馬追(うまおい)山国有林の保安林指定を解除したことに端を発する。基地反対派の地元住民は「憲法違反の自衛隊基地建設は公益上の理由にならず保安林解除は違法」として同年7月訴訟を起こした。一審の札幌地方裁判所(福島重雄裁判長)は73年9月原告の訴えを認め自衛隊を違憲とし、かつ国民の「平和的生存権」擁護の立場から保安林指定解除処分の取消しを命ずる画期的な判断を下した。しかし二審の札幌高等裁判所は原告の訴えの利益なしとして一審判決を破棄し、最高裁判所も82年二審判決を支持して訴えを退けた。なおこの訴訟にあたっては、69年8月札幌地裁所長平賀健太が福島判事に対し、農林大臣の判断を尊重すべきとの趣旨の書簡(いわゆる平賀書簡)を届け、裁判官の独立性に対する侵害として論議をよんだ。
[伊藤 悟]
『新井章著『憲法第9条と安保・自衛隊――裁判にあらわれた平和憲法の存在意義』(1981・日本評論社)』▽『吉川経夫・小田中聰樹著『治安と人権』(1974・法律文化社)』