長沼ナイキ訴訟(読み)ながぬまナイキそしょう

改訂新版 世界大百科事典 「長沼ナイキ訴訟」の意味・わかりやすい解説

長沼ナイキ訴訟 (ながぬまナイキそしょう)

自衛隊合憲性が争われた訴訟。防衛庁は,第三次防衛力整備計画の一環として北海道夕張郡長沼町に航空自衛隊の地対空誘導弾ナイキの基地を建設するために,1968年6月,同町所在の馬追山保安林について保安林指定の解除を申請したところ,農林大臣は,69年7月,この申請を認める処分を行った。これに対して,地元住民らは,違憲な自衛隊の基地建設のために保安林の指定解除処分を行うことは,森林法26条2項が保安林指定解除処分の要件として定めた〈公益上の理由〉を欠き違法であるとして,処分の取消しを求める訴えを提起した。第一審の札幌地裁(いわゆる福島判決)は,73年9月7日,原告住民らに平和的生存権を認めると同時に,自衛隊の合憲性について司法審査の対象から除外すべき理由はなく,自衛隊は,その編成,装備,能力等に照らして憲法第9条で保持を禁じられた戦力に該当して違憲であるという画期的な判断を示して,違憲な自衛隊の基地建設のための保安林指定解除処分は違法で,取消しを免れないと判示した。被告農林大臣の控訴に基づき,第二審の札幌高裁は,76年8月5日,原判決を取消し,原告らの訴えを却下する旨の判決を下した。理由は,防衛施設庁が保安林に代わる代替施設を完備させ,洪水等の危険性がなくなったので,原告らには訴えの具体的な利益がなくなったとするものである。なお,同判決は,〈付加見解〉で,自衛隊についてはいわゆる統治行為論が適用されるべき旨を説いた。原告住民らの上告を受けて,最高裁は,82年9月9日,上告を棄却する旨の判決を下した。理由は,控訴審判決とほぼ同様で,代替施設の完備によって原告住民らに〈訴えの利益〉がなくなったとするものである。上告審では,原告側が控訴審判決の破棄差戻しだけを求めていたということもあって,判決は,自衛隊の憲法適合性の問題についてはいっさい言及しないままに終わった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「長沼ナイキ訴訟」の意味・わかりやすい解説

長沼ナイキ訴訟
ながぬまないきそしょう

自衛隊が合憲か違憲かをめぐって10年以上にわたって争われた裁判。1969年(昭和44)北海道夕張郡長沼町に自衛隊の地対空ミサイル「ナイキ・ハーキュリーズ」基地を建設するため、政府(農林大臣)が同町馬追(うまおい)山国有林の保安林指定を解除したことに端を発する。基地反対派の地元住民は「憲法違反の自衛隊基地建設は公益上の理由にならず保安林解除は違法」として同年7月訴訟を起こした。一審の札幌地方裁判所(福島重雄裁判長)は73年9月原告の訴えを認め自衛隊を違憲とし、かつ国民の「平和的生存権」擁護の立場から保安林指定解除処分の取消しを命ずる画期的な判断を下した。しかし二審の札幌高等裁判所は原告の訴えの利益なしとして一審判決を破棄し、最高裁判所も82年二審判決を支持して訴えを退けた。なおこの訴訟にあたっては、69年8月札幌地裁所長平賀健太が福島判事に対し、農林大臣の判断を尊重すべきとの趣旨書簡(いわゆる平賀書簡)を届け、裁判官の独立性に対する侵害として論議をよんだ。

[伊藤 悟]

『新井章著『憲法第9条と安保・自衛隊――裁判にあらわれた平和憲法の存在意義』(1981・日本評論社)』『吉川経夫・小田中聰樹著『治安と人権』(1974・法律文化社)』

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