反対勢力を強権で封じ込めて社会の安定を図り、経済発展を推進する政治体制。1990年代まで東南アジアなどの途上国で見られ、経済成長の原動力となる一方で人権問題なども指摘された。インドネシアのスハルト政権、フィリピンのマルコス政権、シンガポールのリー・クアンユー政権などが典型例。インドネシアやフィリピンでは民主化運動を受け体制が変化。シンガポールは現在も国家が政府系ファンドを中心に経済に一定の関与をしている。(共同)
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経済発展のスタートには政治的独裁が必要であるとする政治スタイル。近代国家が国民経済を育成しようとすれば、そのための社会的、経済的な基盤を整備しなければならない。その費用(原始的蓄積、または本源的蓄積)は国内の農民や労働者といった大衆から搾取するか、あるいは植民地から収奪することによって捻出(ねんしゅつ)してきた。これが、欧米先進国や日本の経済発展の道であった。しかし、第二次世界大戦後に独立したアジア、アフリカ諸国は、西欧諸国のように植民地をもつことはできない。その反面で、労働者の権利など人権の尊重が世界的な規範として受け入れられるようになっている。
1960年代後半から、韓国の朴正煕(ぼくせいき/パクチョンヒ)政権(1961~79)、インドネシアのスハルト政権(1965~98)、イランのパフラビー朝(パーレビ朝)などは政府指導型の近代化に乗り出すことになった。それは国民の政治的な要求を抑圧しながら、外資導入や輸出主導によって国民経済を形成しようとするものであり、政治の主体は独裁者とその政党にあった。政策形成の主体は、欧米諸国への留学経験のある官僚エリートなどであり、特務機関、特殊警察、軍治安部などが赤裸々な暴力をもって大衆を抑圧した。イデオロギーとしては、韓国の「勝共統一」(北朝鮮の共産主義に打ち勝っての統一)や、インドネシア建国の五原則であるパンチャ・シラ(神への信仰・人道主義・人民主権・民族主義・社会的公正)などの情緒的で解釈の幅が広く、国民の団結を促すものが使用された。
開発独裁体制においては国民は政治の主体として否定されてきた。しかし政府から国民へ、間欠的に農地改革、賃金引上げなどの働きかけも行われていた。ところが、経済が発展してくればかならずそこには中間階層の成長が伴う。彼らはこれまでの抑圧政権に対して、労働条件の向上、言論・出版・集会の自由、腐敗政権打倒などの民主化要求を掲げるようになる。国民一般にも民主化運動が広がるが、政府はこれを大規模に弾圧する(1980年の光州事件など)。その結果は、民主化運動がいっそう盛り上がることとなる。92年の韓国における金泳三(きんえいさん/キムヨンサム)政権の誕生や、98年インドネシアでのスハルト失脚などの例にみられるように、最後に抑圧政権が崩壊するとき、民主政権が登場する。しかし、1979年のイラン革命(イスラム革命)のように、民衆的ではあっても復古的な政権が登場することもある。
[初瀬龍平]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…他方,こうした要件をあまり満たしていない政治体制が非民主主義体制であり,その代表的な類型として全体主義体制や権威主義体制が着目される。この下位類型として,伝統主義的な専制や寡頭制とは明瞭に異なった開発独裁がある。ラテン・アメリカやアジア・アフリカなどの,世界システムにおける準周辺的な地域によく見いだされる体制である。…
※「開発独裁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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