家庭医学館 「陰嚢水腫(精巣水瘤)」の解説
いんのうすいしゅせいそうすいりゅう【陰嚢水腫(精巣水瘤) Hydrocele Testis】
陰嚢内(いんのうない)の、睾丸(こうがん)(精巣)を包んでいる膜(まく)(精巣鞘膜(せいそうしょうまく))からリンパ液が過剰に分泌(ぶんぴつ)されることにより、鞘膜内にリンパ液がたまり、精巣鞘膜が膨らみ、陰嚢が鶏卵大に腫(は)れる良性の病気です。小児ではウズラの卵大のこともありますが、お年寄りではこぶし大になることもあります。類似疾患に、精索周囲の鞘膜にリンパ液がたまる精索水瘤(せいさくすいりゅう)があります。
[原因]
おもに精巣鞘膜のリンパ液の分泌過剰が原因ですが、新生児では、腹膜から連続する鞘状突起(しょうじょうとっき)があって、そのために腹腔内(ふくくうない)のリンパ液が鞘状突起内に流入し、陰嚢水腫を形成します。大部分の症例では、生後1年以内に腹膜との交通は自然閉鎖し、精巣鞘膜腔(せいそうしょうまくくう)が形成されるので、1歳までは経過観察します。
フィラリア原虫によってリンパ管が閉塞(へいそく)されたために陰嚢が腫大(しゅだい)し、巨大な陰嚢水腫になることもあります。
[症状]
ふつう無症状ですが、ときに不快感や膨らんだ感じを訴えます。本人か母親が陰嚢の腫れに気づいて受診することが多いものです。
[検査と診断]
触診では、陰嚢の表面が滑らかで、やややわらかい感じがします。大きさはウズラの卵大からこぶし大まで、さまざまです。
圧痛はなく、懐中電灯で透かしてみるときれいに睾丸が透けて見えます。超音波検査をすればはっきりわかります。注射針で内容液を穿刺(せんし)し、内容液が黄色の透明であれば、陰嚢水腫と診断できます。
精巣腫瘍(せいそうしゅよう)も痛みがないので、これとの鑑別が必要です。精巣腫瘍では透光性はありません。副睾丸炎(ふくこうがんえん)(精巣上体炎(せいそうじょうたいえん))、睾丸捻転症(こうがんねんてんしょう)(精巣捻転症)では、著しい圧痛がありますが、透光性はありません。
[治療]
最初の治療では、注射針による穿刺で、すべての内容液を吸引します。小児は、1~2回の穿刺吸引で多くは治癒(ちゆ)します。
成人では、何度穿刺吸引をくり返しても治らないことが多いものです。この場合は手術し、精巣鞘膜を切除すれば再発しません。
小児では、精巣鞘膜が腹腔内と通じていることがあり(鞘状突起)、この場合は手術して交通路を遮断し、精巣鞘膜を切除しなければ治癒しません。
しかし、1歳未満では、自然治癒する可能性があるので、経過を観察し、1歳を過ぎてから手術を考えます。