隙・暇・閑(読み)ひま

精選版 日本国語大辞典 「隙・暇・閑」の意味・読み・例文・類語

ひ‐ま【隙・暇・閑】

[1] 〘名〙
[一] 空間的なすきま。間隙(かんげき)
① 物の割れたり、裂けたりした箇所にできた空間。また、事柄のゆるみや欠如など。
※斯道文庫本願経四分律平安初期点(810頃)「白衣の家の内に在りて、嚮の孔(ヒマ)の中より看る」
② 合わせたり、並べたりした物と物との間にできたすきま。すきま。また、密集した中にできた空所。あき地。余地。
※伊勢物語(10C前)六四「吹く風にわか身をなさば玉すだれひまもとめつついるべきものを」
※枕(10C終)一二九「女房のひまなくさぶらふを」
官職のあき。空位。闕官
※岩瀬本大鏡(12C前)三「ひまなくて大将にえなり給はざりしぞ口をしかりしや」
④ 人と人との交わりに生じたすきま。仲たがいによってできたへだて。不仲。不和。
書紀(720)雄略九年五月(前田本訓)「是に由りて韓子宿禰と大磐宿禰と隙(ひま)有り」
[二] 継続する動作、状態の絶え間。事のとぎれた時間、または状態。
① 連続して行なわれる動作のあいま。間断
源氏(1001‐14頃)桐壺「ひまなき御前渡りに、人の御心を尽し給ふも」
② 仕事のあいま、手すきの時間。閑暇。また、生活に追われないゆとりやのどかさをいう。
※玉塵抄(1563)二四「孔子のひまあって吾所にしづかにしていられたぞ」
③ 心のすき。また、それから生ずる態度体勢のすき。配慮、注意、警戒などの心が行き届かなかったり、ゆるんだりしたためにできるすき。
※大唐西域記長寛元年点(1163)三「王の閑(ヒマ)を候うて従容に言て曰く」
④ 継続している状態が中断したり、勢いが衰えたりした間、また、その状態。雨の降りやんだ間、病が小康を保っている間など。
曾丹集(11C初か)「かまど山雪はひまなくふりしけど火のけをちかみたまらざりけり」
⑤ 事を行なう時期。行動をするのに都合のよい時。機会。
※宇津保(970‐999頃)国譲上「これ、よきひまなれば奉りてん」
⑥ 勤務、奉公を休む間。休暇。特に雇われている者の場合にいう。また、一時婚家を去って里帰りをすることにもいう。
※説経節・をくり(御物絵巻)(17C中)一二「三日のひまのほしさよな、よき御きげんを、まもりてに、ひま、こはばやと、おぼしめし」
⑦ (⑥から転じて) 雇用、主従、夫婦、養子などの関係を絶って、勤めをやめ、また里に帰ること。長のいとま。
※説経節・説経苅萱(1631)中「あねごさまとそれがしに、ひまをたまはり候へや」
⑧ 限られた時間。わずかな時間。転じて、事をなすための時間。「手まひまをかける」
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中「羊一疋我とともに乗りて渡る。残りの羊、数多ければ、そのひまいくばくの費へぞや」
[2] 〘形動〙 やるべきことがなくて余裕のあるさま。格別の行為や仕事がなくて漫然としているさま。
※詞葉新雅(1792)「ヒマナ のどけき いとまある」
道程(1914)〈高村光太郎〉或る宵「ありとある雑言を唄って彼等の閑(ヒマ)な時間をつぶさうとする」
[語誌](1)「ひび(皹)」と同根の「ひ」と、「はざま」「まほらま」などに見られる、場所を表わす接尾辞「ま(間)」から成る語。なお、「日本書紀」の古訓には「間」を「ひ」と訓んだものがあり、「ひのあし(隙駟)」などとも合わせ、古形「ひ」が存在したと考えられる。
(2)語構成から、空間的な意味が原義となる。しかし、(一)②のように空間的な意味でも、(一)④のように人間関係のすきまでも、(二)①のように時間的な意味でも使われていることからも、平安時代では用法が拡大していたことがうかがわれる。中世以降は、主として時間的意味に用いられるようになり、空間的意味はしだいに衰退していった。

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