隣保制(読み)りんぽせい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「隣保制」の意味・わかりやすい解説

隣保制
りんぽせい

中国で歴代行われてきた隣組の制度。政府が人民を支配するうえで、警察、納税などについて、隣組をつくらせて連帯責任をもたせるのは甚だ効果ある方法である。古代においてもっとも有名なのは戦国時代の秦(しん)の孝公のとき(前359ころ)商鞅(しょうおう)が施行した什伍(じゅうご)の法で、軍制を民治に移したものである。什伍とは十家五家の組合であるが、当時の人民は農民を含めて、すべて城郭内に密集し、狭い小路の両側に門を連ねて住んでいた。そこで片側の五軒を組んで半単位としたのが伍であり、その小路の向こう側五軒の半単位、伍とをあわせて一単位としたのが什である。このような屋並みの下で隣組をつくろうとすれば、このような什伍とならざるをえない。商鞅がもっともおもな目的としたのは、人民の犯罪を互いに監視し告発しあうことにあり、告発した者には敵の首を斬(き)ったと同じ賞を与え、隠匿(いんとく)した者には敵に降(くだ)ったと同じ罰を科したという。この什伍の制は、住居環境が同じである漢代を通じて行われたと思われる。しかし、六朝(りくちょう)に入り、村制が普及し、人民が村落碁盤の上に碁石を置いたように住宅を建てると、隣組の制度もしたがって変わってくる。

 唐代の隣保制は、「四家を隣と為(な)し、五家を保と為す」を原則とする。このうち五家の保は範囲の固定した隣組で、この保内の各家は平等に責任を分かち合う。これに対し隣の四家とは相対的で、ある家を中心とした東西南北の四家のことで、相互間に個別的に責任を負い合うのであり、四家の範囲は中心と考える家に従って異動する。そのため保はそれを積み重ねて何保と数えることができるが、隣ではそれができない。しかし一家を中心として、その東西南北の隣は、もし同じ保内に含まれなくても互いに連帯責任を分かち合うのである。宋(そう)以後、隣保の制は、中央から一律に細部まで規定するよりも、実施を地方官に一任し、地方官は必要に応じて特別の立法を行うことができた。王安石の保甲法は、軍事的に民兵を組織するのが目的であったが、その最末端が十家からなる保である点において、隣保制のうえにたつものであるといえる。

[宮崎市定]

朝鮮

李朝(りちょう)(1392~1910)以前の隣保制は不明だが、李朝になると、『経国大典』(1485)で五戸=一統、五統=一里、数里=面とし、それぞれに統首、里正、勧農官を置く五家(ごか)作統法が定められた。これがどの程度実施されたのかは不明だが、逃亡による避役者の増加に伴い、1675年「五家統事目21か条」を制定し、その徹底を図った。それによれば、近隣の五家=一統、5~30統=一里とし、統ごとに統首、里ごとに里正、里有司を置き、それぞれ統内、里内の事をつかさどらせた。里は面に属させ、面には都尹(といん)、副尹を置いた。統では、戸ごとに力役の名称、成年男子数、婦女数、部屋数などを報告させ、相互扶助を奨励し、勧善懲悪に努めさせ、親不孝、叛主(はんしゅ)殺人、傷害、盗み、流民や来歴不明者の存在、他地方への家族の移住などは報告させた。また、里中の土木事業は里内、面内で共同で行わせた。

[矢澤康祐]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「隣保制」の意味・わかりやすい解説

隣保制
りんぽせい
lin-bao-zhi; lin-pao-chih

中国の郷村の隣組組織。儒家の経典『周礼』に5,25,125家などの組織がみえるのをはじめ,秦の商鞅 (おう) の什伍制,北魏三長制,唐の保 (5戸) ,隣 (4戸) 併存制など多様な形を示すが,治安維持と徴税の連帯責任を負わせるのが主要なねらいであった。宋以降は王安石の保甲法をはじめ清の保甲法にいたるまで防衛,警察的機能に重点がおかれた。朝鮮でも李朝時代は号牌の法を立てて,5家を1統,5統を1里,いくつかの里を集めて面とし,17世紀後半には5家統の制度が公布された。日本では江戸時代の五人組がこれにあたる。

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世界大百科事典 第2版 「隣保制」の意味・わかりやすい解説

りんぽせい【隣保制】

治安維持等のため近隣の一定数の家々に隣組を作らせ,連帯責任を負わせる制度。
[中国]
 儒家の経典《周礼(しゆらい)》には,5家,25家,125家等の積上げ組織が一般の地方行政機構として説かれているが,現実の制度として史上に現れるのは戦国末期の什伍に始まる。秦の商鞅(しようおう)の変法に際し,法令に違犯した者を告発させた場合,同伍の者が姦人を隠せば皆同罪として厳刑に処した。《管子》にも10家を什となし,5家を伍となし,什伍みな長あり,と言及され,《商君書》にも軍隊組織で5人組の伍が重要な機能を果たす記事が見える。

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