改訂新版 世界大百科事典 「雷神不動北山桜」の意味・わかりやすい解説
雷神不動北山桜 (なるかみふどうきたやまざくら)
歌舞伎狂言。時代物。5段。津打半十郎,安田蛙文,中田万助合作。1742年(寛保2)正月大坂佐渡嶋長五郎座(大西)初演。配役は粂寺弾正・鳴神上人・不動明王を2世市川海老蔵(前の2世団十郎),秦民部・白雲坊を佐渡嶋長五郎,雲の絶間姫を初世尾上菊五郎,文屋豊秀を柴崎民之助,錦の前を中村明石,早雲王子を中村次郎三など。天下旱魃の混乱を利用して謀叛を企てる早雲王子の陰謀を背景に,鳴神上人の朝廷への怨恨,小野春道家のお家騒動などを描く。小野家横領を企む八剣玄蕃の奸計で,小野春風の妹錦の前は髪が逆立つ奇病にかかり,文屋豊秀との婚儀が延引する。その催促に来た豊秀の使者粂寺弾正は,毛抜きがひとりで立つことから天井に磁石ありと見破り,悪人を討って婚儀を整える。また朝廷に恨みをもつ鳴神は竜神を北山の滝壺に封じ込め,みずからは岩屋にこもる。ために天下は旱魃になり,民百姓が難渋したので,雲の絶間姫は朝廷の命をうけて,北山に登り上人を色仕掛けで堕落させ,竜神を封じた注連縄(しめなわ)を切り,雨を降らせる。上人は激怒して姫を追い,豊秀の奴伝内に殺される。のち鳴神の死霊が絶間姫をなやますこと,不動明王の出現などがある。うち三段目の《毛抜》,四段目の《鳴神》,五段目大切《不動》はのち分離独立して,7世市川団十郎により歌舞伎十八番に制定された。以後上演は絶えていたが,2世市川左団次が岡鬼太郎の脚色を得て,《毛抜》を1909年9月,《鳴神》を10年5月にそれぞれ復活上演した。また《不動》は脚本が伝わらなかったが,12年3月,山崎紫紅が補綴して,やはり2世左団次が復活した。このときの筋は早雲王子の館へ遊女三芳野,桜町中納言,秦民部らが乗り込んだが,早雲は天竺の天邪鬼の再誕のため力及ばない。そこへ鳴神が解脱した不動明王が現れてこれを誅するというもの。なお通し狂言として67年1月,国立劇場で戸部銀作の脚本・演出により上演された。
執筆者:菊池 明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報