鳴神(読み)ナルカミ

デジタル大辞泉 「鳴神」の意味・読み・例文・類語

なるかみ【鳴神】[歌舞伎狂言]

歌舞伎十八番の一。時代物。1幕。貞享元年(1684)に初世市川団十郎が自作の「門松四天王」で演じたのが始まりとされる。能の「一角仙人」に取材し、高僧が美女の誘惑に戒を破る話を扱ったもの。現在の定型は、寛保2年(1742)2世団十郎が、大坂佐渡島座で初演した安田蛙文ほかの合作「雷神不動北山桜なるかみふどうきたやまざくら」の4幕目による。

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精選版 日本国語大辞典 「鳴神」の意味・読み・例文・類語

なる【鳴】 神(かみ)

  1. なるかみ(鳴神)[ 一 ]
    1. [初出の実例]「天雲の八重雲隠り鳴(なる)(かみ)の音のみにやも聞きわたりなむ」(出典万葉集(8C後)一一・二六五八)

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改訂新版 世界大百科事典 「鳴神」の意味・わかりやすい解説

鳴神 (なるかみ)

謡曲《一角仙人》を題材として頼光四天王の世界に採り入れ,鳴神上人に雲の絶間姫を配した歌舞伎狂言の筋の総称。また1幕物の時代劇《鳴神》は歌舞伎十八番の一つ。この題材は寛文期(1661-73)から人形劇では行われていたもので,歌舞伎に移され,1684年(貞享1)2月《門松四天王》で,初世市川団十郎が自作自演大当りをとった。ついで《源平雷伝記(げんぺいなるかみでんき)》(1698年8月江戸中村座),《成田山分身不動(なりたさんふんじんふどう)》(1703年4月江戸森田座)などを経て,《雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)》が完成した。この中には《毛抜》《不動》も含まれていたが,のち《鳴神》は分離独立した。7世市川団十郎により歌舞伎十八番の一つとなる。朝廷に恨みをもつ鳴神上人は竜神を北山の滝壺に封じ込め,岩屋にこもる。そのため旱魃(かんばつ)となって民百姓が苦しんだので,朝廷は雲の絶間姫という美女をさしむけ色仕掛けで上人を迷わせ,竜神を封じ込めた注連縄(しめなわ)を切る。竜神は天に上り雨は沛然(はいぜん)と降る。欺かれたと知った上人は大いに怒り姫を追う。道心堅固なはずの鳴神の人間的なもろさを描いた点に興趣があり,また絶間姫が酒をすすめて上人を堕落させる前段に,女方の色気の表現,またのちに上人の怒りの演技として荒事,さらに終幕にみせる柱巻(はしらまき)の見得など歌舞伎演出の面白さを発揮する。ながく上演が中絶していたのを1910年5月2世市川左団次が岡鬼太郎の改訂により復演して以来,今日ではしばしば上演される。なお,鳴神上人を女に書き替えた《女鳴神》がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳴神」の意味・わかりやすい解説

鳴神
なるかみ

歌舞伎(かぶき)劇。時代物。一幕津打半十郎、安田蛙文(あぶん)、中田万助合作。1742年(寛保2)1月、大坂・佐渡島(さどしま)座で2世市川団十郎の鳴神上人(しょうにん)、初世尾上(おのえ)菊五郎の雲の絶間(たえま)姫らによって初演された『雷神不動北山桜(なるかみふどうきたやまざくら)』の四幕目が独立したもので、「歌舞伎十八番」の一つ。能『一角(いっかく)仙人』にヒントを得て初世団十郎が1688年(元禄1)、自作の『門松四天王(かどまつしてんのう)』で演じ好評を得た鳴神の話を、王朝時代の宮廷騒動に結び付けて脚色。朝廷に不満をもつ鳴神上人は、竜神を滝壺(たきつぼ)に法力で封じ込めたため、天下日照りに悩まされるが、勅命を受けた美女絶間姫が色仕掛けで上人を誘惑、ついに鳴神は破戒して行法も破れ、豪雨になる。幕末以後中絶していたのを、1910年(明治43)2世市川左団次が岡鬼太郎(おにたろう)の台本によって復活した。ほとんど純粋の会話劇として構成され、後半、欺かれたと知った鳴神が暴れ出してからは典型的な荒事(あらごと)形式になる。信仰による戒律が肉欲に屈服するというテーマと健康なエロチシズムが近代人の共感をよび、歌舞伎の海外公演でも演目に選ばれることが多い。

[松井俊諭]

『郡司正勝校注『日本古典文学大系98 歌舞伎十八番集』(1965・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鳴神」の意味・わかりやすい解説

鳴神
なるかみ

歌舞伎狂言。歌舞伎十八番の一つ。貞享1 (1684) 年江戸中村座で上演された1世市川団十郎作『門松四天王』が鳴神狂言の初演とされるが,内容不明。寛保2 (1742) 年大坂大西佐渡島座で初演された『雷神不動北山桜 (なるかみふどうきたやまざくら) 』の4段目「鳴神」が後世の定型といわれる。北山の鳴神上人の呪詛によって世界中の竜神が滝壺に封じ込められ,ひでりが続く。この上人の行法を破るために雲の絶間姫が宮廷から派遣され,色恋をしかけて上人を堕落させていく場面と,後段の上人が生きながら鳴神となる荒事が眼目。同狂言からは,ほかにも3段目を『毛抜』,5段目を『不動』として独立上演される。

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百科事典マイペディア 「鳴神」の意味・わかりやすい解説

鳴神【なるかみ】

歌舞伎劇。津打半十郎・安田蛙文(あぶん)・中田万助ら作。1742年初演の《雷神不動北山桜》の一場面で,歌舞伎十八番の一つ。朝廷に不満をもつ鳴神上人の祈りによりひでりが続くので,宮中第一の美女雲の絶間姫が色じかけで上人を堕落させ,雨を降らせる。人間の本能の弱点を皮肉に描いた作。→毛抜(けぬき)
→関連項目マハーバーラタ

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「鳴神」の解説

鳴神
(通称)
なるかみ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
門松四天王 など
初演
貞享1.1(江戸・中村座)

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世界大百科事典(旧版)内の鳴神の言及

【雷神】より

…雷を神格化した神。雷電様(らいでんさま),鳴神(なるかみ),ドンド神,ハタ神,イナズマ様,イカヅチ,カミナリなど雷鳴や雷光にもとづく名称が多い。雷神は水神かつ火神として,天と地をつなぐ媒介者とみなされ,また雷はカンダチと称せられるように神の示現をも意味した。…

【一角仙人】より

…竜神の役は2人の子方(こかた)が演ずる。歌舞伎の《鳴神(なるかみ)》の原拠。【横道 万里雄】。…

【ジャータカ】より

…また,日本へも前述の漢訳文献を通じて《今昔物語集》などに入っている。たとえば,〈二羽の紅鶴と亀〉の話は,〈亀と鷲〉(イソップ),〈二羽の家鴨と亀〉(ラ・フォンテーヌ),〈雁と亀〉(《今昔物語集》)となり,一角仙人の話は《今昔物語集》を通じて謡曲《一角仙人》や歌舞伎《鳴神》となっている。 ジャータカはまた,彫刻や絵画等としても表現されている。…

【雷神不動北山桜】より

…1742年(寛保2)正月大坂佐渡嶋長五郎座(大西)初演。配役は粂寺弾正・鳴神上人・不動明王を2世市川海老蔵(前の2世団十郎),秦民部・白雲坊を佐渡嶋長五郎,雲の絶間姫を初世尾上菊五郎,文屋豊秀を柴崎民之助,錦の前を中村明石,早雲王子を中村次郎三など。天下旱魃の混乱を利用して謀叛を企てる早雲王子の陰謀を背景に,鳴神上人の朝廷への怨恨,小野春道家のお家騒動などを描く。…

【マハーバーラタ】より

…その中で最も有名な哲学的詩編は《バガバッドギーター(神の歌)》で第6巻にみえ,これはヒンドゥー教徒の聖書ともされている。物語として著名なものに,夫を死神の手から取り戻した貞女を説く《サービトリー物語》,夫婦の愛をうたった《ナラ王物語》,本邦歌舞伎十八番の一つ《鳴神》の原型とされる《リシュヤシュリンガ(一角仙人)物語》などがあり,いずれも第3巻に収められている。 《マハーバーラタ》の後世インド文化への影響はきわめて大きく,詩人,劇作家はこれより取材して文芸作品を残し,また造形美術にも《マハーバーラタ》の一場面を描くものが少なくない。…

※「鳴神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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