江戸後期の京焼の陶工,文人画家。京都祇園新地の茶屋,木屋(きや)に生まれ,幼名は八十八,後に佐兵衛を襲名。木米の号は木屋と幼名にちなむ。聾米,九々鱗,百六散人,古器観,停雲楼などとも号す。幼時から高芙蓉を訪れ,古器物の鑑賞,儒学や篆刻(てんこく)を学び,後には田能村竹田,頼山陽などと交わり,文人としての素養を養った。大坂の豪商木村蒹葭堂(けんかどう)のもとで,中国の陶書《陶説》を読み,それに啓発され1796年(寛政8)ころから製陶を志した。奥田穎川や宝山文造に陶技を学び,1805年(文化2)粟田口青蓮院宮の御用を務め,翌年には加賀に招かれ春日山窯の復興に尽力した。当時流行しはじめた中華趣味に基づく急須や煎茶碗,涼炉(りようろ)などの煎茶具,文房具などを製作し,朱泥,紫泥,白泥をはじめ七官手青磁,古染付,祥瑞(しよんずい),五彩,金襴手,白磁,交趾(こうち)釉などの中国陶磁や刷毛目,御本など朝鮮陶磁に手本を求めた雅陶を製作した。また型を用いて成型を行い,量産による木米陶磁の普及に効果をあげた。
執筆者:河原 正彦 木米は博学で知られたが,その上に蒹葭堂を通じて多くの画家,文人の知己を得たと思われ,こうした環境が単なる陶工としてでなく,画家としての素質をも育てた。木米の絵画制作は作陶と不可分の関係にあり,つややかで透明な輝きのある色感は陶器の絵付にも似ており,土と炎に対する情念は彼の絵の構図的骨格を支えている。50歳代後半以降木米画は最も多彩に花開く。《兎道朝暾(うじちようとん)図》《化物山水図》などが代表作といえよう。
執筆者:佐々木 丞平
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江戸後期を代表する京都の文人陶工、南画家。明和4年京都祇園縄手(ぎおんなわて)の茶屋「木屋」に青木佐兵衛の子として生まれる。通称木村佐兵衛、号は木米のほか青来、百六山(散)人、古器観、九々鱗、聾米(ろうべい)など数多い。富裕な家系の子弟である木米が陶工の道を選んだ動機は、大坂の文人木村蒹葭堂(けんかどう)宅で中国清(しん)朝の朱笠亭(しゅりゅうてい)の著『陶説』を閲読したことによる。また書画に巧みな京都の高芙蓉(こうふよう)を訪ねて絵画や書の手ほどきを受けたらしい。木米は古銅器や古銭をも賞翫(しょうがん)するあまり鋳金技術も習得していたといわれている。江戸後期に流行した中国趣味に存分に浸って成長した木米は、書画、工芸諸般の技術を体得したが、結果としては南画と煎茶(せんちゃ)道具を主体とする陶磁器に彼の才能は絞られていった。陶工としての木米は、建仁寺に住んでいた奥田穎川(えいせん)に師事し、穎川の始めた磁器製法を煎茶道具に応用し、中国の染付(そめつけ)、赤絵、青磁、交趾(こうち)焼の技術と様式を受け止めつつ、南蛮焼(東南アジアの焼締陶(やきしめとう))、朝鮮李朝(りちょう)時代の陶磁の作風も加味して、江戸後期らしい多種多彩な焼物を残した。1824年(文政7)58歳のころ、彼の作画や作陶がもっとも円熟した時期に、耳が不自由になり聾米の号を使い始めた。南画では『兎道朝潡図(うじちょうとんず)』『新緑帯雨図』『騰竜山水図』などが有名。天保(てんぽう)4年5月15日没。
[矢部良明]
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(矢部良明)
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…初期の京焼は,これら仁清の御室焼や古清水,乾山の雅陶などによって特徴づけられ,瀟洒(しようしや)な造形感覚,典雅な絵付や意匠によって最初の黄金期をむかえた。 その後,製陶の中心は東山山麓の清水,五条坂地域へ移り,19世紀初頭の文化・文政期には,奥田穎川や青木木米らによって本格的な磁器が焼造され,当時流行の中華趣味,煎茶趣味ともあいまって,中国風な青花(染付)磁器や五彩(色絵)磁器が京焼の主流をなしていった。なかでも穎川による呉須赤絵写しや古染付写しなどは,本格的な京焼における磁器焼造の初期の作例として注目される。…
…しかし,古九谷に関しては,その開始時期をはじめとして,その発展の経緯や廃窯の時期,有田焼との関係など,その窯跡が発掘調査された現時点においても明確な結論が出ていない。一方,江戸後期になって,加賀藩は殖産政策の一つとして窯業を再開し,まず京都から青木木米を招いて金沢卯辰山に藩営の春日山窯を開窯した。木米は2年ほどで帰京し,窯は衰微してしまうが,これを契機として九谷焼諸窯が加賀国におこる。…
…巻一は清朝の景徳鎮陶磁史,巻二は唐・五代・宋の越州窯,竜泉窯,定窯などの諸窯を,巻三は明代の景徳鎮陶磁史,巻四~六は古代から唐・宋・元・明の陶磁について詳述している。日本では青木木米が1835年(天保6)に翻刻し,欧米でも中国陶磁史の基本文献として研究されている。最近では尾崎洵盛の《陶説注解》が詳細な注を加えている。…
※「青木木米」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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