少年審判(読み)しょうねんしんぱん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「少年審判」の意味・わかりやすい解説

少年審判
しょうねんしんぱん

家庭裁判所において非行少年の事件に対して行われる審判。広義では、家庭裁判所が少年事件を受理してから終局決定をするまでの全過程をいい、狭義では、審判開始決定以後、審判廷において行われる審理、処遇方法の選択・決定の過程をいう。家庭裁判所の少年審判部で行う。現行少年法は、少年(20歳未満の者)の場合、その過去の非行を取り上げてこれに非難を加えるよりは、本人の将来を考え、これに保護的な処置を講じ、罪を犯した少年についても、刑は例外的に行うにとどめるべきであるという思想にたっている。保護事件として審判に付すべき少年(非行少年)は、犯罪少年(14歳以上で罪を犯した少年)、触法少年(14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年)、虞犯(ぐはん)少年(一定の事由があって、かつその性格・環境に照らし将来罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をする虞(おそれ)のある少年)の三者であるが、14歳未満の者は原則として児童福祉法上の措置(児童相談所の一時保護など)にゆだねられ、都道府県知事または児童相談所長からの送致があった場合に限り保護事件として審判することになっている。また、家庭裁判所は、少年が14歳以上で死刑・懲役・禁錮にあたる罪を犯した場合に限り、刑事処分を相当と認めるときに、事件を検察官に送致し、これを刑事訴追にゆだねることができる(少年法20条1項)。ただし、犯行時16歳以上の少年が故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪の事件については、原則的に検察官送致決定を行うものとされる(同条2項)。なお、特定少年(18歳・19歳の少年)の事件については、罪種に関係なく、刑事処分を相当と認めるときには、刑事訴追にゆだねることが可能である(同法62条1項)。さらに、特定少年が犯した死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪の事件も含めるなど、原則的に検察官送致決定を行うことになる事件の範囲が18歳未満の少年の場合よりも広げられている(同条2項、63条2項)。

[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]

手続

家庭裁判所は、保護者・一般人からの通告、都道府県知事・児童相談所長・警察官・検察官からの送致、家庭裁判所調査官からの報告などによって調査を開始し、その結果、審判が必要であると認めれば審判開始決定をし(少年法21条)、その必要なしと判断すれば、審判不開始決定をする(同法19条1項)。調査は、少年・保護者・関係人の行状・経歴・素質・環境などについて行い(同法9条)、審判を行うために必要があるときには、家庭裁判所調査官の観護(身柄の保全とともに暫定的な保護)を行うことにし、あるいは少年鑑別所に送致して少年の心身の状況について科学的な鑑別の方法による検査を行わせる。審判は、これらの調査の結果に基づいて、1人(一部の事件では3人)の裁判官が非公開で行う。ただし、保護者・付添人・家庭裁判所調査官のほか、保護観察官・保護司・少年鑑別所法務技官および法務教官も出席し、裁判所の許可を得て意見を述べることができる。さらに、一定の犯罪少年の事件では、必要性が認められる場合に検察官も手続に関与することができ、また、相当性が認められる場合に被害者や遺族も傍聴することができる。家庭裁判所は、審理の結果、福祉処分または刑事処分が相当な場合には、それぞれ都道府県知事・児童相談所長送致決定または検察官送致決定を行う。そして、これらの場合を除き、保護処分(18歳未満の少年の場合、保護観察児童自立支援施設・児童養護施設送致、少年院送致。特定少年〈18歳・19歳の少年〉の場合、6か月の保護観察、2年の保護観察、少年院送致)に付する必要があれば保護処分決定を、その必要がなければ不処分決定を行う(同法23条・24条)。保護処分を決定するため必要があると認めるときは、家庭裁判所調査官の観察(試験観察)を行うことができる(同法25条1項)。少年審判規則第1条2項は「調査及び審判その他保護事件の取扱に際しては、常に懇切にして誠意ある態度をもって少年の情操の保護に心がけ、おのずから少年及び保護者等の信頼を受けるように努めなければならない」と規定する。なお、非行少年の事件については、その事件を行った本人を推知させる報道が禁止されている(同法61条。罰則なし)。ただし、特定少年のときに犯した罪により起訴された場合には、略式手続を除き、推知報道(少年の氏名、年齢、容貌(ようぼう)等により当該事件の本人と推知できるような記事または写真の出版物への掲載)の禁止は適用されない(同法68条)。

 保護事件では、刑事事件の場合と異なり、すでに調査の段階から本人に対し種々の保護的措置がとられている(試験観察中の補導委託など)。そのため、保護処分決定・不処分決定は、刑事事件における有罪・無罪の判決とは性格を異にするものである。ただし、犯罪少年について保護処分決定をした場合には、審判を経た事件について、刑事訴追をし、またはふたたび家庭裁判所の審判に付することはできない(少年法46条1項)。

[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]

法改正の動向

1993年(平成5)の「山形マット死事件」(いじめにより中学生が体育用マットで窒息死したとされる事件)では、家庭裁判所が「非行事実なし」の不処分決定をした少年について、この事件に関連するほかの少年(家庭裁判所で少年院送致決定)の抗告審(高等裁判所)において、先の少年にも「非行事実あり」の判断が示されるような事態を生じた。また1997年には「神戸連続児童殺傷事件」(当時14歳の少年が小学生3人に傷害を与え、2人を殺害した事件)が発生した。これらの事件をきっかけに、非行事実認定の適正化のために審判への検察官の関与を認める必要性、少年犯罪の「低年齢化」「凶悪化」に対処するために事件の検察官送致可能年齢(処罰可能年齢)の16歳から14歳への引下げ、被害者(その遺族)に対する少年審判の情報開示の可否、など少年法改正の気運が高まり、これらが反映された改正少年法が2000年(平成12)11月に議員立法により成立した(2001年4月施行)。また2007年5月には少年院送致年齢の下限が「14歳」から「おおむね12歳」に引き下げられた。その後も、被害者や遺族に対する少年審判の情報開示をさらに拡大すべきであるとして、2008年6月に少年法がふたたび改正され、被害者や遺族による少年審判の傍聴制度などが導入された(同年12月施行)。さらに、2014年4月にも少年法が改正され、検察官の関与が認められる対象事件の範囲も拡大されることになった(同年6月施行)。2021年(令和3)5月の少年法改正では、特定少年(18歳・19歳の少年)に対する検察官送致決定・保護処分決定について特例が設けられた(2022年4月施行)。

[須々木主一・小西暁和 2022年6月22日]

『斉藤豊治著『少年法研究1 適正手続と誤判救済』(1997・成文堂)』『荒木伸怡編著『非行事実の認定』(1997・弘文堂)』『守屋克彦著『現代の非行と少年審判』(1998・勁草書房)』『荒木伸怡編著『現代の少年と少年法』(1999・明石書店)』『石川正興・曽根威彦・高橋則夫・田口守一・守山正著『少年非行と法』(2001・成文堂)』『猪瀬愼一郎・森田明・佐伯仁志編『少年法のあらたな展開――理論・手続・処遇』(2001・有斐閣)』『斉藤豊治・守屋克彦編著『少年法の課題と展望1・2』(2005、2006・成文堂)』『斉藤豊治著『少年法研究2 少年法改正の検討』(2006・成文堂)』『澤登俊雄・高内寿夫著『少年法の理念』(2010・現代人文社、大学図書発売)』『藤原正範著『少年事件に取り組む――家裁調査官の現場から』(岩波新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「少年審判」の意味・わかりやすい解説

少年審判 (しょうねんしんぱん)

非行少年に対して,家庭裁判所が少年の健全な育成を期するために事件を審理し,少年の性格を矯正し社会に適応させるための適切な処分や措置を決定する手続をいう。〈保護手続〉とも呼ばれ,また事件を〈保護事件〉と称する(少年法3~36条,少年審判規則)。少年審判の対象となるのは次のいずれかに該当する少年に限られる。(1)犯罪少年 14歳以上で罪を犯し,現在20歳未満の者。(2)触法少年 14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした者。(3)虞犯(ぐはん)少年 性格,環境に照らして,将来罪を犯し,または刑罰法令に触れる行為をするおそれのある少年。ただし〈保護者の正当な監督に服しない性癖がある〉〈正当の理由なく家庭に寄りつかない〉〈犯罪性のある人,不道徳な人と交際したり,いかがわしい場所に出入りする〉〈自己または他人の徳性を害する行為をする性癖がある〉という事由のうちのいずれかが認められる場合でなければならない(少年法3条1項)。家庭裁判所が受理する保護事件の大部分を占めているのはこのうちの〈犯罪少年〉であり,その多くは,警察や検察官を通じて送致されてくる(41,42条)。このほか,家庭裁判所が事件を受理する形態としては,知事または児童相談所長からの送致(3条2項,6条3項),一般人からの通告(6条1項),家庭裁判所調査官からの報告(7条1項)等がある。

保護事件を受理した家庭裁判所は,少年審判を行うに先だってまず事件についての調査をする(8,9条)。これは通常〈家庭裁判所調査官〉の手によって行われ,少年について事件の関係とともに家庭・保護者の関係,境遇,経歴,教育の程度・状況,不良化の経過,性行,心身の状況等審判や処遇に必要な事項が,また家族や関係人についても経歴,教育の程度,性行,遺伝関係等が,医学,心理学,教育学,社会学その他の専門的知識を活用して調査される。この際,心身の状況については〈少年鑑別所〉の科学的鑑別の結果が利用されるほか,調査官は少年本人や保護者との面接,学校・職場への照会等さまざまな手段を用いて資料を収集する努力をする。また調査官の調査は同時に保護の過程でもある。この間に,少年に対する生活指導,訓戒,反省文や誓約書の徴取,保護者への指導・助言等さまざまな再非行防止のためのケース・ワーク(保護的措置と呼ばれる)がひろく行われている。なお家庭裁判所は審判を行うため必要があるときは,一定期間少年の身柄を保全し鑑別を行うため,少年を少年鑑別所に収容する〈観護(の)措置〉をとることができる(17条)。

 調査の結果,家庭裁判所が,事件を審判に付することができず,または審判に付するのが相当でないと認めるときは,少年審判を開始しない旨の決定により手続を打ち切る(19条1項)。この中には,調査の過程で公式の〈保護処分〉に付するまでもなくすでに少年本人の自覚や周囲の状況からふたたび非行におちいる可能性がないと認められた事案や,保護的措置により再非行の防止が図られていると認められた事案が少なからず含まれており,この場合審判不開始の決定は単なる手続の打切りではなく,公式の処分を回避しつつ少年を早期に社会復帰させるという積極的な機能を果たしている。このほか調査の結果,児童福祉法の規定による措置が相当と認められた場合は,事件を知事または児童相談所長に送致する決定(18条)が,また16歳以上の犯罪少年につき,罪質および情状に照らして刑事処分が相当と認められた場合は,事件を検察官に送致する(これを〈逆送〉という)決定(20条)がなされて,事件は少年審判の手続から離脱されることになる。

 これに対して,家庭裁判所が少年審判を行うのが相当であると認めた場合には,審判開始の決定(21条)が下され,非行の事実を認定するとともに少年に対する保護処分の要否とその種類を決定するための審理手続が開始される。審判は裁判官が主宰し,通常家庭裁判所調査官,少年本人,保護者,少年または保護者に選任された付添人(10条)等が出席する。少年法には〈審判は,懇切を旨として,なごやかに,これを行わなければならない〉(22条)と定められており,審理は非公開で,刑事訴訟のような〈対審〉の構造をとらず,裁判官は少年に直接発問して少年の供述を聴き,非行の有無を確かめ,さらに保護者や付添人等の意見の陳述を聴いたうえで,少年に対する保護処分を決定する(保護処分には,(1)保護観察所の保護観察,(2)児童自立支援施設(旧教護院)または児童養護施設送致,(3)少年院送致の3種類がある。24条)。なお,家庭裁判所は保護処分を決定するため必要があると認めるときは,最終の処分を留保して,相当の期間少年を家庭裁判所調査官の〈試験観察〉に付することができ,この間,遵守事項を定めてその履行を命じたり,条件を付けて保護者に引き渡したり,適当な施設,団体または個人に補導を委託したりすることができる(25条)。これに対し家庭裁判所が,審理の結果,保護処分に付することができず,または保護処分に付する必要がないと認めた場合は,不処分の決定(23条2項)をする。また児童福祉機関への送致や検察官への逆送を相当と認めるときは,その旨の決定(23条1項)をする。なお,保護処分の決定に対しては,決定に影響を及ぼす法令違反,重大な事実誤認または処分の著しい不当を理由とするときに限り,抗告をすることが認められている(32~35条)。
家庭裁判所 →非行 →少年法
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の少年審判の言及

【少年法】より

…少年の健全な育成を期し,非行のある少年に対して性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行うための〈少年審判〉の手続を定めるとともに,少年の刑事事件および少年の福祉を害する成人の刑事事件について特別の措置を講ずることを目的とした法律(1948公布)。このうち,少年および成人の刑事事件に関する規定は,刑法・刑事訴訟法を補充,修正するためのものにとどまり,少年法の中核をなしているのは,少年審判すなわち少年の保護事件に関する定めである(その手続の概要は〈少年審判〉の項参照)。…

※「少年審判」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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