家庭医学館 「音声障害」の解説
おんせいしょうがいこえのびょうき【音声障害(声の病気) Voice Disorders】
[どんな障害か]
[原因]
[検査と診断]
[治療]
[日常生活の注意]
音声障害のいろいろ
[どんな障害か]
声は、呼気(こき)(はく息)が甲状軟骨(こうじょうなんこつ)(のどぼとけ)の中にある声帯(せいたい)のすき間を通過するときに発生します。ギターにたとえると、弦(げん)が声帯で、爪弾(つまび)く指が呼気というわけです。
したがって、男性の声帯は太い弦、女性の声帯は細い弦で、それぞれ低い声、高い声が本来の声ということになります。
そして声は、声帯の状態によって変化しますから、いわゆる「声が変だな」という状態が音声障害ということになります。つまり、その人本来の声でなくなった状態です。
[原因]
声の病気をひきおこす原因には、声帯自体の異常、声のエネルギーとなる呼気の異常、そしてこれらを調節する脳や聴覚(ちょうかく)(耳の聞こえ)、ホルモンの異常などがあります。
●声帯に関係するもの
急性・慢性の炎症、声帯ポリープ(「声帯ポリープ(喉頭ポリープ)」)や声帯結節(せいたいけっせつ)(「声帯結節(謡人結節)」)、声帯の動きが悪くなる喉頭(こうとう)まひ、声帯の良性腫瘍(しゅよう)や悪性腫瘍などがあります。
●呼気に関係するもの
肺や気管支の病気で、十分な肺活量がない場合などがあります。
●聴覚に関係するもの
先天性の難聴(「難聴」)があると、自分の声がよく聞こえないために、声の調節がうまくできないことがあります。
●ホルモンに関係するもの
生殖機能などに関与する性ホルモンは、声帯にも作用します。
このなかには、以下のような病気があります。
変声期障害(へんせいきしょうがい) 第二次性徴(せいちょう)の1つの生理的現象で、男女ともみられますが、とくに男性の場合は、甲状軟骨(のどぼとけ)が急激に増大するために、声の高さが安定せず、声の翻転現象(ほんてんげんしょう)(声がひっくりかえったりする)がみられます。しかし、通常は約1年以内にこの現象は消失して、男性は約1オクターブぐらい声が低くなり、男性らしい声になります。
男性ほどではありませんが、女性も約3度低くなり、女性らしい声に安定します。
これらの変化が順調に進行せず、声が安定しない状態が続くことを、遷延性(せんえんせい)の変声期障害といいます。
類宦官症(るいかんがんしょう) 性腺機能(せいせんきのう)が低下しているために、通常の第二次性徴がおこらず、甲状軟骨の増大がないため、男性でありながら、声が低くなりません。
声の男性化 女性に対する男性ホルモンやたんぱく同化ステロイド薬による治療の副作用で、声が低くなったり、声の翻転などの変化がおこることがあります。
[検査と診断]
つぎのような検査が行なわれます。これらの結果を総合して、声の異常の程度や種類を診断し、原因を解明して、的確な治療法が選択されます。
問診 「いつから声の異常に気づいたか」を聞きます。生後すぐなのか、あるいは思春期ごろなのかなどによって、発声障害が先天性(生まれつき)か、後天的(先天性でないもの)かがわかります。
視診 声帯を観察します。これには、肉眼で観察する方法、ファイバースコープなどを用いて観察する方法などがあります。
また、声を出しているときの声帯の状態をストロボスコープという機械を用いて観察すると、小さな病変でも見つけることができます。
声の検査 医師が耳で聞いた声の印象だけでなく、発声機能検査装置という機械に声を通して、声の高さ、声の強さのほか、そのときに使われた空気の量を測定し、声のだしづらさや、正常範囲からのずれを測定することも診断には必要です。
筋電図 声帯は、反回神経(はんかいしんけい)が声帯の筋肉を動かすことによって声が出るしくみになっているので、筋肉の動きをみて、神経が正常にはたらいているかどうかを調べます。
[治療]
声の病気のなかで、もっとも早期発見、早期治療が必要なのは、喉頭がんなどの悪性腫瘍です。それ以外の声の病気は、あまり緊急性はないといってよいでしょう。
しかし、一方では、ホルモンが関係した声の病気は、診断や治療に苦慮することがありますし、生命に関係しない場合が多いので、放置されることが少なくありません。
変声期障害などは、むりに高い声をださず、自然の経過に任せましょう。
変声期が順調に経過せず、長引いてしまったとき(遷延性の変声期障害)は、耳鼻咽喉科医(じびいんこうかい)に相談し、発声の指導を受ければ、多くは、本来の声を出せるようになります。
また、類宦官症などでは、男性ホルモンの使用で声は改善しますが、女性の声が男性化した場合は、ホルモンの使用は効果がありません。
[日常生活の注意]
声の異常に気づいたら、まず声の使いすぎか、むりな声をださなかったかを考え、思い当たることがあれば少し声を出すのをひかえ、声帯を休ませてください。その際ヒソヒソ声で話す人がいますが、ヒソヒソ声は声帯周囲の筋肉を過度に疲労させ、声帯を休ませたことにはなりません。
声帯を休ませるというのは、まったく話をせず、大声をださないということですが、ふつうの大きさの声で必要最小限度の会話をする程度であれば、かなり声帯を休めていると考えてよいでしょう。
このようにしても声の調子が元にもどらなかったら、耳鼻咽喉科医の診察を受けましょう。
◎音声障害のいろいろ
音声(声)の障害は、声の特徴に対応して、声の質(音質)の異常、声の高さの異常、声の大きさの異常の3つに分けて考えることができます。
●声の質(音質)の異常(嗄声(させい))
原因によって、異なった嗄声(声がれ)がおこります。
粗糙性嗄声(そぞうせいさせい) いわゆるがらがら声などをさします。
急性喉頭炎(きゅうせいこうとうえん)(「急性喉頭炎」)などの急性炎症、喉頭ポリープ(「声帯ポリープ(喉頭ポリープ)」)、喉頭がん(「喉頭がん」)など、さまざまな原因によっておこります。
気息性嗄声(きそくせいさせい) 声を出すときに、声帯の間に大きなすき間ができて、息もれしている状態の声です。
声帯を動かす反回神経がまひしたり、喉頭がんなどが原因となって、一側声帯まひ(片側の声帯の動きが悪くなる)などがおこったときの声です。
努力性嗄声(どりょくせいさせい) いかにも苦しそうで、しぼり出すような声をさします。
仮声帯発声や機能性発声障害の1つといわれるけいれん性発声障害(「機能性音声障害」のけいれん性発声障害)のほか、喉頭がんなどでもおこります。
無力性嗄声(むりょくせいさせい) いかにも弱々しい感じの声をさします。
声帯まひや音声衰弱症のときにもおこります。
●声の高さの異常
もっとも低い声と、もっとも高い声の範囲を声域(せいいき)といい、日常の会話に使われる高さを話声位(わせいい)といいます。
声の高さは、年齢や性によって平均的な範囲があり、この範囲から外れた場合を異常とします。
したがって、一般的には男性で声が高すぎたり、女性で声が低すぎたりする場合をさします。
ホルモンが関係した声の障害(類宦官症や女性の声の男性化など)でみられますが、喉頭ポリープや喉頭がん、喉頭の外傷などでも、声の高さは変化します。
●声の大きさの異常
声の大きさは、一般に自分の耳で聞きながら調節していますから、難聴(なんちょう)があると、大きすぎる声や、逆に小さすぎる声になります。
脳の障害のために、声の大きさを調節できないこともありますが、それ以外に、喉頭ポリープやがんなどでも、小さな声がだしにくかったり、大きな声が出せなくなったりすることがあります。
●その他の声に関する異常
空気が声帯のすき間を通過するときに発生した声は、その後、鼻や口の中で共鳴して完成します。
こうした共鳴が障害されると、鼻がつまったときの閉鼻声(へいびせい)(いわゆるはなごえ)や、口蓋裂(こうがいれつ)、軟口蓋(なんこうがい)まひなどのために空気が鼻にふがふが抜けてしまう開鼻声(かいびせい)がおこります。
この2つを総称して鼻音症(びおんしょう)(鼻声(びせい))といいます。