中国,秦末に,劉邦と天下を争った英雄。名は籍,羽は字。戦国楚の将軍の血筋をひき,下相(江蘇省宿遷県)で生まれた。幼くして孤児となり,叔父の項梁(こうりよう)にひきとられて教育をうけ,前209年に陳勝・呉広らが反乱をおこすと,項梁とともに呉(蘇州市)で兵を挙げた。項梁は楚王の子孫の心(しん)を懐王に立てて反秦勢力を結集したが,彼が戦死すると代わって項羽と劉邦がその中心となった。前208年,懐王は〈関中(秦の地)を平定したものをそこの王とする〉と約束し,彼らは二手に分かれて秦都咸陽へ向かって進撃した。項羽は秦の主力軍と戦って大勝を博したが,劉邦はひと足早く咸陽を占領し,守備を固めて項羽を拒もうとした。激怒して決戦を構える項羽に,劉邦がわびるかたちで開かれた会見が史上有名な鴻門(こうもん)の会である。主導権をとった項羽は,咸陽を焼きはらい,秦王子嬰を殺して秦を滅ぼすと(前206),劉邦ら18人を王に封建し,みずからは梁・楚の9郡を領有して西楚の覇王と称し,彭城(ほうじよう)(江蘇省徐州市)に都した。この封建には不満が多かったが,その最たるものは,懐王の約束に違反して漢王に封ぜられた劉邦であった。前206年8月,劉邦は反旗をひるがえし,関中を平定すると,東に向かって項羽と天下の覇権を争った。これがいわゆる楚漢の戦で,5年にわたって血みどろの激戦が展開される。その間,項羽はいく度か劉邦を死の寸前まで追いこみながらも逃してしまったばかりでなく,かえって劉邦の策略にかかって有能な部下を離され,韓信が斉を平定すると背後をおびやかされ,彭越には糧道を絶たれるなど,しだいに窮地に追いこまれていった。前203年,天下を二分することでいったん和議が成立したが,劉邦に追い討ちされ,垓下(がいか)(安徽省霊璧県)に包囲された。項羽は四面楚歌のなか,愛姫虞美人(ぐびじん)をかたわらに決別の酒宴を開いたのち囲みを破って烏江(うこう)に逃れたが,すでに運命のきわまったことを悟り,首をはねて自殺した。戦国武断主義時代の終りを告げる死であった。
執筆者:永田 英正
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中国、秦(しん)・漢交替期に現れた群雄の一人。名は籍、羽は字(あざな)。楚(そ)の将軍の家柄を引く貴族的階層に属するといえよう。羽は叔父の項梁(こうりょう)に教育を受け、会稽(かいけい)郡(江蘇(こうそ)省)に居住していたが、陳渉(ちんしょう)の反乱に乗じて秦に背いた。梁の戦死後、羽は諸将のリーダーとなり、秦の章邯(しょうかん)を破って関中に入り、秦の王、子嬰(しえい)を殺して咸陽(かんよう)を焼いた。やがて楚の懐(かい)王を推戴(すいたい)して義帝とし、自らは西楚の覇王と称した。このとき部下18名を王に封じている。封建体制の復活である。漢の高祖劉邦(りゅうほう)は王に封ぜられず、不満を抱いて羽に反旗を翻した。双方の戦闘はしばしば繰り返されたが、義帝を擁立し、つごうで殺した項羽に大義名分が失われたので、しだいに高祖が優勢となった。もっとも高祖の部下の王陵の批評に、項羽は礼儀正しいが功臣に褒賞をやるのを渋り、高祖は無礼だが物惜しみをしないといっている。こんなところに項羽の敗北の遠因があったかもしれない。この覇権争奪は郡県か封建かをめぐる争いであり、羽の敗北は歴史上一つの画期となった。羽は保守的立場にあったが、伝えられる悲劇の英雄像は民衆の封建制に対する挽歌(ばんか)ともいえよう。最後の決戦となった垓下(がいか)の敗北ののち死んだ項羽は、いまだ31歳であった。
[好並隆司]
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前232~前202
秦末の楚(そ)の武将。名は籍。下相(かそう)(江蘇省宿遷(しゅくせん)県)の人。前209年叔父項梁(こうりょう)と楚兵を率いて挙兵,劉邦(りゅうほう)とともに秦を滅ぼし,覇権を握った。ついで劉邦と天下を争い垓下(がいか)の戦いに敗れて自殺した。項羽は戦国旧諸侯の代表的勢力であった。
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…劉邦は,豊邑ついで碭(とう)郡を本拠としつつ,反秦活動をくりひろげた。陳勝・呉広が戦死したあとは,項羽・項梁と同盟を結んで秦軍に相対した。項羽が擁立した楚の懐王から,前207年,碭郡長をさずけられ武安侯に封ぜられた。…
…秦末(前3世紀)の史実にもとづく。覇王項羽は,漢王劉邦の大軍に垓下(がいか)で取り囲まれた。四面楚歌――張良の歌声作戦にかかり,今やこれまでと思った項羽は,愛姫虞美人と最後の宴をはり,悲歌慷慨して〈力,山を抜き,気,世を蓋(おお)う。…
※「項羽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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