頸椎症(読み)ケイツイショウ

内科学 第10版 「頸椎症」の解説

頸椎症(脊椎脊髄疾患)

定義・概念
 頸椎症とは頸椎の椎間板,鈎関節(Luschka関節),椎間関節などに生じた加齢変性が原因で,椎間板膨隆靱帯の肥厚,骨棘の形成が起こった状態をいう.神経根や脊髄が圧迫されて障害を受けると神経症候を起こす.
疫学
 手にしびれを訴える患者で最も高頻度の疾患である.症候性の頸椎症は50歳以降に発症しやすく,男性の発症が女性の約2倍とする報告が多い.
病理
 脊髄が圧迫により扁平化すると,病理学的な変化は灰白質から起きる.前角がまず扁平化し,高度になると前角,中間質,後角などの中心灰白質から後索の腹外側部にcystic cavityを形成する.
病態生理
 本症の神経障害は神経根が障害される神経根症と,脊髄が障害される脊髄症に大別される.脊髄症の場合には,灰白質障害が先行することが多く,ついで錐体路,前脊髄視床路の順で障害が広がることが多い(図15-18-1)(服部ら,1979).脊髄症発現には静的な圧迫だけでなく動的な圧迫が重要である.頸椎の後屈により椎体の後方すべり,椎間板の膨隆,後方の黄色靱帯のたわみが起こって脊髄の圧迫が増強する.
臨床症状
1)神経根症(radiculopathy):
神経根症は一側の頸部,肩甲部,上肢の神経根痛で初発する場合が多い.この神経根痛は頸椎運動によって増悪し,頸椎後屈や病変側への側屈によって誘発される.自覚的なしびれが一側上肢にみられることが多い.他覚的な感覚障害は,おおむねC6は母指,C7は中指,C8小指に存在することが多い(図15-18-2).前根障害があると支配筋の筋力低下がみられる.障害レベルでの腱反射低下または消失があり,その他の腱反射は正常である.
2)脊髄症(myelopathy):
脊髄症は神経根痛を伴わず,一側性または両側性の上肢のしびれで発症する場合が多い.脊髄症は軽微な外傷・不適切な姿勢などの動的障害により急性から亜急性に発症する場合と,緩徐に発症する場合がある.頸部,肩甲部の神経痛様の疼痛は伴わないことが多く,痛みを訴える場合も「筋肉がこる」程度である.脊髄障害が進行すると下肢痙性麻痺,体幹下肢の感覚障害,排尿障害を認める.
 脊髄の髄節障害で上肢の髄節性の筋力低下,筋萎縮を主症候として,感覚障害がないか軽微なことがあり,頸椎症性筋萎縮とよばれる.この場合には筋萎縮性側索硬化症との鑑別が問題になる.
3)脊髄の障害高位診断:
頸椎症の診断には,髄節症候・神経根症候から障害高位を診断し,その高位が画像上でみられる脊髄圧迫におおむね一致するかどうかの判断が重要である.頸椎と頸髄の高位には約1.5髄節のずれがあり,C3/4椎間はC5髄節,C4/5椎間はC6髄節,C5/6椎間はC7髄節,C6/7椎間はC8髄節におおむね相当する(図15-18-2).神経根はその髄節から約1椎体下方に走行して,椎間孔から脊柱管外に出る.たとえばC5/6椎間高位においては,髄節症候としてC7の症候が出現し,神経根症候としてはC6の症候が出現し得る.
検査成績
1)画像診断:
頸椎単純X線では,側面像で全体のアラインメントと椎間板腔の狭小化,発達性脊柱管狭窄の有無を確認する必要がある(図15-18-3).C5椎体の中間のレベルで脊柱管前後径が12 mm以下あるいは椎体と脊柱管の前後径の比(Torg-Pavlov比)が75%以下ならば,脊柱管狭窄と判断される.側面像では前屈位と後屈位も撮影して不安定性を評価する.斜位像ではLuschka関節の骨棘,椎間関節の骨性増殖による椎間孔狭窄を評価する.
 頸椎MRIでは椎間板の突出,黄色靱帯の膨隆による脊髄圧迫の程度,またT2強調画像で髄内の高信号の有無が評価できる.
2)脳脊髄液検査:
脳脊髄液では圧迫による流通障害の程度によって,軽度から中等度の蛋白濃度の上昇がみられることが多い.
3)電気生理学的検査:
筋電図にて障害された髄節の筋肉に神経原性変化を認める.広範囲に脱神経所見や神経原性変化を認めた場合には,運動ニューロン疾患の可能性を考慮する必要がある.上肢の神経伝導検査は,末梢神経障害との鑑別に有用である.
鑑別診断
 上肢に運動・感覚障害を起こすあらゆる疾患との鑑別診断が必要である.特に手根管症候群,肘部管症候群,橈骨神経麻痺などの末梢神経障害,上肢から初発した筋萎縮性側索硬化症,脳血管障害との鑑別が臨床的に重要である.
 筋萎縮性側索硬化症では,本症で出現しない球麻痺,舌萎縮,頸部屈曲力低下が重要である.また上肢の筋萎縮は,びまん性であり本症の髄節性の分布とは異なる.経過・予後 頸椎症の神経障害は必ずしも慢性的に進行しない.間欠的な悪化期があるがその他の期間は症状が固定性のことが多い.特に軽症例では悪化しないことが多い.治療・予防 予防には頸椎のよい姿勢を保持して動的障害を除くことが重要である.上を見上げる姿勢はとらない.首をぐるぐる回す運動は避ける.就寝時には頸部までしっかり固定できる面積の広い枕を使用する.このような注意により神経症候の悪化を防ぐことがある程度可能である.頸椎カラーが有効な場合がある. 外科的な除圧術は軽症例では保存的治療と優位差がないとする報告(Kadankaら,2005)がある.神経症候が高度で圧迫が強く今後も悪化が予測される場合には,外科的治療を考慮する.[安藤哲朗]
■文献
安藤哲朗:頸椎症の診療.臨床神経学, 52: 469-479, 2012.
服部 奨,河合伸也:頸椎症の臨床診断,整形外科の立場から.整形外科MOOK No.6 頸椎症の臨床(伊丹康人,西尾篤人編),pp13-40,金原出版,東京,1979.
Kadanka Z, Mares M, et al: Predictive factors for mild forms of spondylotic cervical myelopathy treated conservatively or surgically. Eur J Neurol, 12: 16-24, 2005.
日本整形外科学会診療ガイドライン委員会,頸椎症性脊髄症診療ガイドライン策定委員会編:頸椎症性脊髄症診療ガイドライン,pp1-84,南江堂,東京,2005.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

世界大百科事典(旧版)内の頸椎症の言及

【頸部脊椎症】より

…頸椎症,変形性頸椎症ともいう。脊椎椎体や椎間板および靱帯(じんたい)の退行性変化は,骨棘(こつきよく)形成,椎間板ヘルニア,靱帯骨化などとして現れ,正常の加齢(老化)現象としてみられる。…

※「頸椎症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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