改訂新版 世界大百科事典 「骨転移癌」の意味・わかりやすい解説
骨転移癌 (こつてんいがん)
metastatic carcinoma
骨に生じる癌はすべて悪性骨腫瘍と呼ばれるが,乳房,肺,胃,子宮,甲状腺,前立腺などいろいろな臓器に生じた癌が,病気の経過中に骨に転移を生じた場合,癌の骨転移もしくは骨転移癌と呼ぶ。まれには,どこに生じたか原発巣不明の癌が骨に転移を生じ,骨の症状のみが出現し,原発性の骨腫瘍と間違われることもある。
骨に転移を生じやすい癌の筆頭は乳癌で,まれには治療後10年を経過して骨に転移を生じることもある。癌の骨転移の症状は転移部位の疼痛が主であるが,そのほか腫張,病的骨折,脊椎転移による脊髄麻痺などがある。診断はX線撮影によるが,テクネシウム99mリン酸化合物による骨シンチグラムが骨転移の診断にはきわめて重要な診断方法となる。この診断法では,自覚症状のない時期,X線写真にも異常所見が認められないきわめて早期から,集積像として見つけられることがしばしばである。X線写真では,骨破壊像が主体を占めるが,前立腺癌骨転移の多く,乳癌骨転移ではしばしば,肺癌,胃癌,膀胱癌の骨転移ではごくまれに骨硬化像がみられる。転移部位の多くは脊椎で,とりわけ胸椎,腰椎に多く,そのほか骨盤,頭蓋骨,大腿骨,上腕骨などにも転移を生じる。しかし手足の小管骨に転移を生じることはまれである。脊椎に転移が好発するのは脊椎静脈系の存在によると考えられている。すなわち,この静脈系は血流がゆるやかで,くしゃみ,咳,深呼吸,屈伸運動などにより胸腔内圧,腹腔内圧が高くなると血流を生じる。いったんこの静脈系に入った癌細胞は血流がゆるやかであることから,脊椎へ容易に着床し,そこに転移を生じると説明されている。
治療方法は手術的療法,化学療法,放射線療法,ホルモン療法などで,原発巣や転移巣に応じた種々の治療が行われる。疼痛の除去,転移病巣の鎮静化のためには放射線療法が行われ,4000~5000ラドで除痛の目的が達せられる。四肢の長管骨の病的骨折に対しては全身状態がゆるせば骨接合術が行われるが,その際骨セメントを併用することが多い。脊椎転移の圧迫による脊髄麻痺の治療には椎弓切除術を行って除圧をすることがあるが,いったん生じた完全麻痺の回復は困難である。乳癌,前立腺癌,腎癌,子宮内膜癌などのように,ホルモン依存性があると考えられている癌にはホルモン療法が用いられる。甲状腺癌の骨転移でヨウ素131131Iの摂取がみられる場合には131Iによる治療が行われる。このように原発巣に応じて種々の化学療法が用いられるが,予後は不良である。乳癌,前立腺癌の骨転移では,骨転移の出現後緩慢な経過をとり5~10年を経過する例も少なくない。
→癌
執筆者:福間 久俊
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報