大正期の国家社会主義者。『資本論』の日本最初の完訳者。明治19年1月4日群馬県に生まれる。前橋中学在学中にキリスト教の影響を受け、同志社に入学するが、幻滅し棄教、退学する。1908年(明治41)遠藤友四郎らと上毛平民倶楽部(クラブ)を設立、『東北評論』を創刊する。筆禍事件で入獄中に『資本論』を読む。11年上京して堺利彦(さかいとしひこ)の売文(ばいぶん)社に入社、やがて『新社会』の編集に活躍し、カウツキー『資本論解説』を訳載、ロシア革命に強い関心を寄せる。米騒動ごろから堺らと意見を異にし、満川亀太郎(みつかわかめたろう)らが結成した老壮会に加入、岩田富美夫(ふみお)、津久井竜雄らと大衆社を創立した。19年(大正8)4月には『国家社会主義』を創刊、『資本論』の翻訳にも着手する。搾取機能を否認して支配統制機能を是認する独特の国家観を『大衆運動』『局外』『週刊日本』『急進』などで展開する。23年上杉慎吉(しんきち)と経綸(けいりん)学盟を結成するほか、岩田富美夫の大化会や赤尾敏の建国会の顧問になる。28年(昭和3)宇垣一成(うがきかずしげ)に働きかけ急進愛国運動を推進するが、同年12月13日急死した。
[荻野富士夫]
『田中真人著『高畠素之』(1978・現代評論社)』
社会思想家,国家社会主義者,日本最初の《資本論》完訳者。群馬県前橋市に生まれ,前橋中学在学時代にキリスト教徒となる。経済的理由もあって同志社神学校に入学したが,在学中に唯物派社会主義論の影響のもとにキリスト教を離れる。同志社中退後の1908年,前橋で幸徳秋水の思想的影響下にある《東北評論》を創刊。これにかかわる筆禍事件で入獄中《資本論》にふれる。出獄後に堺利彦らの売文社に加わり,《新社会》誌上ではおもに国際情報の紹介とマルクス主義経済学の論説に活躍,とりわけロシア革命の分析とカウツキー《資本論解説》の訳載は注目された。19年に堺利彦らと別れ国家社会主義運動をはじめて大衆社を創設,《国家社会主義》《大衆運動》《局外》《週刊日本》《急進》など自派の新聞雑誌をつぎつぎと創刊するとともに,《解放》《改造》などに社会評論家として健筆をふるう。この間,1920年から23年にかけて日本最初の《資本論》全3巻の完訳を刊行した。その2度目の改訳版である27年の改造社版は広く普及した。1923年には上杉慎吉と経綸学盟を結成するなど,国家社会主義の実践運動の開始の機をうかがっていたが,普通選挙実施とともに,28年,平野力三,麻生久,宇垣一成らに接近して急進愛国党を組織。しかしその直後に胃癌で急死する。1930年代の国家社会主義運動に大きな影響を与えた。
執筆者:田中 真人
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大正期の社会思想家
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1886.1.4~1928.12.23
大正期の社会思想家。群馬県出身。前橋中学在学中に受洗し,同志社神学校に進んだが,社会主義思想に関心をもち中退。前橋で社会主義新聞「東北評論」を創刊,筆禍事件で入獄。1911年(明治44)売文社に入り「新社会」創刊に参加,ロシア革命の実態を紹介したが,19年(大正8)堺利彦らと決別して老壮会に参加,国家社会主義運動を開始し,23年上杉慎吉と経綸学盟を結成。この間独力で「資本論」全3巻を翻訳,刊行した(20~24年)。以後さらに国家社会主義的傾向を強め,大化会顧問となり,赤尾敏の建国会を支援,多くの評論を発表した。
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…社会政策,保護主義,専売や国有化を重視する国家社会主義はドイツの歴史的条件のなかから形成された。 日本において国家社会主義を唱えた代表的思想家としては山路愛山,高畠素之,北一輝がいる。共通する特色として,(1)国体の尊重,(2)国家=搾取機関説を廃した国家=統制機関説,(3)階級闘争と民族闘争の結合,(4)反議会主義があげられよう(ただし愛山には(4)の主張は稀薄である)。…
…
【版本】
マルクスおよびエンゲルスのオリジナル・テキストであるマイスナー版のほか,ドイツ語版としてはカウツキー版,アドラツキー版,ディーツ版,全集版などがあり,フランス語版にはマルクスが手をいれたラ・シャトル版ほか数種,ロシア語版,英語版にもそれぞれ数種の版本があるほか,数十ヵ国語に翻訳されている。日本語の完訳版としては,1924年の高畠素之訳を最初として,その後刊行順にあげれば長谷部文雄訳,向坂逸郎訳,マルクス・エンゲルス全集刊行委員会(岡崎次郎,杉本俊朗)訳がある。【中野 正】。…
…当初は原稿製作,翻訳,諸文章の代筆を主とし,のち雑誌書籍の出版を兼ねた。大杉栄,荒畑寒村,岡野辰之助,高畠素之らが仕事をし,東京市内に居を転々としながら繁盛した。14年1月《へちまの花》を発刊し,まず文芸娯楽物を中心に多少社会主義的色彩も加えたものを機関誌とした。…
…会としての一定の主義・方針はなく,内外の諸問題について意見を交換し研究することを目的としていた。満川や大川周明をはじめとする後年の国家主義運動の指導者ばかりでなく,堺利彦,高尾平兵衛などの社会主義者,高畠素之などの国家社会主義者や,大井憲太郎,嶋中雄三,下中弥三郎,権藤成卿,中野正剛など多彩な人々が参加したことに特色があった。満川が猶存社の活動に力を入れるにしたがって老壮会の活動はしだいに衰えたが,22年まで44回の会合を開き,500名をこえる参加者があったといわれる。…
※「高畠素之」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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