鳥インフルエンザ(読み)トリインフルエンザ

デジタル大辞泉 「鳥インフルエンザ」の意味・読み・例文・類語

とり‐インフルエンザ【鳥インフルエンザ】

A型インフルエンザウイルスによって引き起こされる鳥の感染症自然宿主である野生の水鳥は発症しないが、鶏やウズラなどの家禽が感染すると重篤な症状を引き起こすものがあり(高病原性鳥インフルエンザ)、養鶏などの産業に大きな損害を与えることがある。通常、人には感染しないが、感染源と密接に接触した場合などに、まれに感染することがある。AI(avian influenza)。バードフル。→豚インフルエンザ
家畜伝染病予防法で、高病原性鳥インフルエンザや低病原性鳥インフルエンザに分類されない鳥インフルエンザのこと。ウイルス亜型がH5またはH7以外で、病原性の低いものがこれにあたる。
[補説]家畜伝染病予防法では、高病原性鳥インフルエンザ・低病原性鳥インフルエンザ・鳥インフルエンザの3つに分類される。海外では人への感染も確認されていることから、感染症予防法では、H5N1型の鳥インフルエンザが2類感染症、H7N9型指定感染症、それ以外のものが4類感染症に指定されている。

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共同通信ニュース用語解説 「鳥インフルエンザ」の解説

鳥インフルエンザ

A型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の病気。鳥に対する病原性の違いやウイルスの型によって「高病原性」と「低病原性」などに区別される。高病原性に感染すると多くが死ぬ。低病原性ではせきなど軽い呼吸器症状が出たり、産卵率が低下したりする。国内では、鶏肉や鶏卵を食べることによって人に感染した事例は確認されていない。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「鳥インフルエンザ」の意味・わかりやすい解説

鳥インフルエンザ
とりいんふるえんざ

鳥類がかかるインフルエンザを総称していう。ヒトの間で流行しているインフルエンザの病原ウイルスのうち、A型はもともと鳥類の間で流行し、維持されている病原である。このA型ウイルス粒子の表面に存在する2種のスパイク、すなわち赤血球凝集素hemagglutinin(HA)とノイラミニダーゼneuraminidase(NA)の抗原性の違いによって多くの型があり、このHAとNAとの組合せによってA型ウイルスは多くの亜型に分類される(たとえばA香港(ホンコン)型はH3N2、Aソ連型はH1N1)。

 このインフルエンザウイルスの本来の宿主(しゅくしゅ)である鳥類では、自然界に存在するすべての亜型が保有されており、ヒトを始めブタ、ウマ、クジラ、アザラシ、ミンクなどからA型ウイルスが分離されているが、いずれもカモなどの野生水禽(すいきん)類から由来していることが明らかになっている。

 鳥類のうち身近な存在であるニワトリでは、高病原性(感染後死亡または強い全身症状を示す)インフルエンザウイルスに感染した場合、発病後半日から1日の元気消失を示した後に短い経過で著明な症状を現すいとまもなく死亡することも多いが、首曲がり、顔面浮腫(ふしゅ)、鶏冠(けいかん)(とさか)のチアノーゼ、出血、脚部の皮下出血、産卵機能の低下、呼吸器症状、下痢(げり)などの症状を呈して死亡する。低病原性インフルエンザウイルスの場合には、特徴的な症状を呈することはないとされている。

 この鳥インフルエンザが最近とくに問題となり、急速に関心を集めるに至っている。そのきっかけとなったのは、1997年5月、香港でニワトリから直接ヒトに感染したA型ウイルスH5N1によるインフルエンザの発生(18例の確認、うち死亡6例)である。このときは香港の衛生当局の英断で140万羽といわれるニワトリの迅速な処分によって流行は終息した。

 その後、1999年H9N2(香港)、2003年H7N7(オランダ)、2004年H5N1(ベトナム、タイ)およびH7N3(カナダ)など、トリからヒトへの感染例が報告された。ことに2004年以来、H5N1ウイルスによる家禽における鳥インフルエンザの流行が世界的な規模で発生し、各国で家禽からヒトへの感染が相次ぎ(感染393例、うち死亡248例)、重篤な症状と経過を示しており、致命率は60%という異常に高い数値である(2009年1月7日世界保健機関の発表による)。

 こうした事実から、このウイルスは現在のところはトリ→ヒトへの感染の段階で止まっているが、もしトリ→ヒト→ヒト→ヒトと感染するような性状を獲得した場合、すべての人がこのウイルスに対して免疫をもたない状態であるところから、ひとたび流行がおこれば「新型インフルエンザ」として、かつてのスペインインフルエンザやアジアインフルエンザと同様の世界的な大流行(パンデミック)をおこすことになると危惧(きぐ)されている。多くのインフルエンザ学者は、パンデミックが「おこるか否か」ではなく、「いつおこるか」が問題であるという差し迫った事態であると考えている。

[加地正郎]

ヒトのH5N1インフルエンザの症状

潜伏期は毎年流行するインフルエンザ(季節性インフルエンザ)の潜伏期1~3日よりやや長く、4~6日程度とされている。

 急激に高い熱とともに発病し、頭痛、全身のだるい感じなどの全身症状とのどの痛み、鼻水などの上気道症状を訴える。この発病当初の症状は季節性インフルエンザと同様であるが、腹痛、嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状が季節性インフルエンザに比べて高い頻度でみられる点はやや特徴的である。やがて咳(せき)、痰(たん)そして呼吸困難などの下気道症状が現れ、肺炎をおこすのが特筆すべき点であり、胸部の打診、聴診さらに胸部X線検査で確認できる。さらに病状が進んで呼吸器不全をきたし、ついには心、肝、腎などの多臓器不全をおこして死亡することが多い。致死率60%という事実は、季節性インフルエンザと大いに異なる点である。さらに、季節性インフルエンザでの肺炎合併は、ウイルスの感染に引き続く細菌の二次感染によるものであるが、このH5N1ウイルスによるインフルエンザでの肺炎は、ウイルス自体によっておこるものである。

 治療としては季節性インフルエンザと同様、抗インフルエンザウイルス剤(ノイラミニダーゼ阻害薬すなわちタミフルおよびリレンザ)が用いられる。しかし、その効果はいまひとつというところで、投与量の増量および投与期間の延長が提案されており、肺炎に対しては酸素吸入その他の呼吸支持療法、強心処置などが必要となる。ステロイド、インターフェロン投与は効果が認められていないようである。

[加地正郎]

感染経路および予防

現在までの報告例はいずれもH5N1ウイルス感染家禽との直接接触による感染とされている(感染あるいは感染後斃死(へいし)した家禽からのウイルスがどのような経路で呼吸器に侵入するのかまでは言及されていない)。この点は季節性インフルエンザの場合と異なっているが、今後ヒト→ヒト感染をおこす性状を獲得したウイルスがヒトの間で流行をおこす状況となれば、飛沫感染および飛沫核感染(空気感染)で流行が拡大していくと考えられる。

 したがって、個人レベルでの予防対策としては、ワクチン接種、マスク、うがい、手洗いの励行、人ごみのなかへの外出をなるべく避ける、といったことが中心となる。また特殊なケース、たとえば罹患者あるいはその同居家族との濃厚な接触による感染リスクが高い場合などでは、抗インフルエンザウイルス剤の予防内服も行われる。

 ワクチンについては、現在のところ、流行前にはプレパンデミックワクチンをあらかじめ接種しておき、流行が始まった時点でパンデミックワクチンの接種が行われることになる。

 プレパンデミックワクチンは、これまでトリから感染したヒトから分離されたH5N1ウイルスを用いてワクチンを製造、流行が始まる以前に準備しておき、新型インフルエンザ発生前の必要と判断される時期に、主として医療従事者、社会機能維持に関係する人々に接種しておく。この段階はすでに始められている。

 今後の問題としてのパンデミックワクチンは、新型インフルエンザが流行し始めた時期の罹患者から分離するウイルスを用いて、改めてつくる予定のワクチンである。インフルエンザでは同じ型(この場合はH5N1ウイルス)のウイルスでも抗原変異をおこしやすく、現在ニワトリの間で流行し、ヒトに感染しているウイルスと、ヒト→ヒト→ヒトと感染するようになったウイルスとでは抗原構造がかならずしも同一ではなく(同一でないことが多いと予想される)、ワクチンによる予防効果を十分に発揮させるためには改めてパンデミックワクチンを製造するという対応が必要とされるのである。なお、このH5N1ウイルスは抗原性(免疫をつくらせる性状)が弱いので、より強い免疫を産生させる目的でアジュバント(免疫補助剤)を添加したワクチンが用いられることになっている。

 日本をはじめ各国は、国外のある地域で新型インフルエンザの流行が始まった場合、検疫の強化などの対応によって国内へのウイルスの侵入を阻止する。それでも国内に罹患者が発生した場合には、接触者あるいは家族への伝播(でんぱ)を防ぐ措置を講じて、その地域、さらにその周囲の地域への流行の拡大を防ぐ対応を準備しておく。

 このH5N1ウイルスによる新型インフルエンザの発生とそれに引き続いておこる可能性のあるパンデミックへの対策としては、世界保健機関(WHO)を中心に世界的な規模での対応が急がれている。すなわち、世界各国での鳥インフルエンザの監視態勢とその強化、現在発生している家禽のインフルエンザ流行の囲い込み、感染家禽からヒトへの感染防止、ヒト→ヒト感染の連鎖を断つ対策、ワクチンの製造、抗インフルエンザ薬の準備と備蓄などについてWHOは各国へその実施を働きかけている。

[加地正郎]

 なお、感染症予防・医療法(感染症法)では、病原体がA型ウイルスであってその血清亜型がH5N1型およびH7N9型である鳥インフルエンザは2類感染症、H5N1型およびH7N9型を除く鳥インフルエンザは4類感染症に指定されている。

[編集部]

『マイク・デイヴィス、柴田裕之・斉藤隆央訳『感染爆発――鳥インフルエンザの脅威』(2006・紀伊國屋書店)』『陽捷行編著『鳥インフルエンザ――農と環境と医療の視点から』(2007・養賢堂)』『岡田晴恵著『H5N1型ウイルス襲来――新型インフルエンザから家族を守れ!』(角川SSC新書)』『岡田晴恵著、田代眞人監修『史上最強のウイルス12の警告―新型インフルエンザの脅威』(文春文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「鳥インフルエンザ」の意味・わかりやすい解説

鳥インフルエンザ
とりインフルエンザ
Avian influenza

A型インフルエンザウイルス(→インフルエンザ)が鳥に感染して起こす病気。野鳥では無症状なことが多いが,ニワトリなど家禽に感染すると大量に死亡することも少なくない。まれにヒトにうつり,死亡することがある。日本では家畜伝染病予防法で法定伝染病となっている(→家畜法定伝染病)。鳥インフルエンザウイルスはヒトのインフルエンザと同じくオルソミクソウイルス科に属する RNAウイルスで,表面にある HA(ヘマグルチニン)蛋白と NA(ノイラミニダーゼ)蛋白の型から分類されるが,家禽に重篤な症状を引き起こすのは,H5型,H7型とされている。野生のガン,カモ,シギ,チドリなどの腸内細胞で増殖し,糞便で媒介される。渡り鳥による伝播があるため,一国内での封じ込めはかなり困難である。ニワトリ,アヒル,シチメンチョウなどの家禽に感染したウイルスが感染・増殖を繰り返すと変異を起こして高病原性ウイルスとなると考えられ,鳥に神経症状,呼吸器症状,下痢などの消化器症状を現して大流行・大量死亡を引き起こす。以前は家禽ペストと呼ばれた。1902年のイタリアでの流行例が鳥インフルエンザの最初の確認記録で,これまでヨーロッパ,アメリカ合衆国,オーストラリア,東アジアなどで流行し,1980年代後半から増加した。日本では 1925年が最初の流行で,2004年1月からの流行は 79年ぶり。養鶏場勤務者,防疫関係者など,病気の家禽と接触したヒトに感染する例がホンコン,ベトナム,オランダなどで発生しているが,ヒトからヒトへの感染はごくまれとされている。肉や卵からの感染は確認されていない。ヒト感染には抗ウイルス剤が効果があるとされるが,ワクチンによる対応はウイルス変異のため難しい。鳥からブタ,そしてヒトという感染経路のなかでヒトインフルエンザの新型ウイルスが発生するという可能性も指摘されており,鳥インフルエンザは公衆衛生上の大きな問題となっている。

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百科事典マイペディア 「鳥インフルエンザ」の意味・わかりやすい解説

鳥インフルエンザ【とりインフルエンザ】

A型インフルエンザウイルスの感染によって起こる鳥類の病気で,ニワトリなどの家禽に多く見られる。このうち感染した鳥類が死亡するなど全身症状のとくに強い病原性を示すものは高病原性鳥インフルエンザと呼ばれ,突然死のほか神経症状,呼吸器症状,下痢,産卵率低下,皮下出血などの症状を呈する。ほとんどの鳥インフルエンザウイルスは人には感染しないが,H5N1型ウイルスなどの人への感染・死亡例が報告され,世界保健機関は流行拡大への警戒を強めている。世界的には21世紀初め頃,とくに2003年のオランダ,ベルギー,韓国,ベトナムなどでの流行から目立つようになり,2005年には東南アジアで猛威をふるい,ヨーロッパでも相次いで確認されるなど世界的な拡大がみられた。国連食糧農業機関FAO)や世界保健機関が警告を発し,鳥インフルエンザ対策の国際会議も開かれている。日本では2004年1月,79年ぶりに山口県の採卵鶏農場で発生し,その後大分県,京都府,埼玉県,茨城県などで確認された。2009年愛知県でH7N6亜型が確認されている。2014年4月熊本県の養鶏場で高病原性の鳥インフルエンザウィルスH5N8亜型が日本ではじめて確認された。熊本県はただちに防疫措置をとり,2014年4月16日現在新たな感染は確認されていないと発表した。環境省も10km圏内の野鳥調査を実施,異常は見当たらないとしている。
→関連項目インフルエンザ

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知恵蔵 「鳥インフルエンザ」の解説

鳥インフルエンザ

ヒトのものとは異なるウイルスによって発症する鳥のインフルエンザで多数の亜型がある。特に強い病原性を示すものを高病原性鳥インフルエンザという。人畜共通感染症。世界保健機関の発表(2007年10月31日)によると、03年以降の感染確認者は12カ国333人、うち死者は11カ国204人にのぼる。人間の感染は東南アジアや中国に集中していたが、次第に中央アジア、西アジアにも拡大した。06年にはヨーロッパ、中東、アフリカでH5N1型ウイルスによる渡り鳥や家禽(かきん)類の死亡が確認されたが、それ以降にトルコやイラクの他、エジプト、ジブチ、ナイジェリアでも人間の感染と死者が発生した。日本では04年に山口県、大分県、京都府でH5N1型が、05年6月に茨城県でH5N2型が発生した。07年にも宮崎県と岡山県で合計4件の発生があったが、5月8日にはOIEの規定に従い清浄国となった。鳥インフルエンザは健康被害に加え、感染した鶏の殺処分、発生源周辺地域の鶏肉や卵の出荷停止、発生国からの鶏肉貿易停止など経済的にも多大な影響を及ぼす。

(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2008年)


鳥インフルエンザ

鳥類間でウイルスにより感染する高病原性のインフルエンザ。1997年からアジア(インドネシア、タイ、ベトナム、中国など)で大流行し、養鶏場の鶏が大量に死滅して養鶏業者に大打撃を与える。日本でも2004年1月に山口県で発生し、以来大分、兵庫、京都などの各府県でも。鳥から人への感染力は弱いが、感染すると死亡率が極めて高い(感染死亡者:最大はインドネシア89人、 07年10月現在)。これまで、人から人への感染例はない。また、鶏肉や鶏卵を食べて人に感染した例もない。

(的場輝佳 関西福祉科学大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

農林水産関係用語集 「鳥インフルエンザ」の解説

鳥インフルエンザ

A型インフルエンザウイルス感染による鳥類の疾病。
鳥インフルエンザのうち鶏等に高致死性の病原性を示すもの等を高病原性鳥インフルエンザと呼ぶ。
鶏等が感染すると、全身症状をおこし、神経症状、呼吸器症状、消化器症状等が現れ、大量に死亡することもまれではない。
なお、鳥インフルエンザウイルスは、生きた鳥との濃厚接触により人に感染した例が知られているものの、鶏卵、鶏肉を食べることにより感染することは報告されていない。

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