日本大百科全書(ニッポニカ) 「黒塚(歌舞伎舞踊劇)」の意味・わかりやすい解説
黒塚(歌舞伎舞踊劇)
くろづか
歌舞伎(かぶき)舞踊劇。長唄(ながうた)。木村富子作、4世杵屋(きねや)佐吉作曲、2世花柳寿輔(はなやぎじゅすけ)振付け。1939年(昭和14)11月、東京劇場で2世市川猿之助(猿翁)らにより初演。能『安達原(あだちがはら)』の舞踊化で、かつて2世市川段四郎や6世尾上梅幸(おのえばいこう)が演じたものに新解釈を加えた作。安達ヶ原の一つ家に住む老女岩手(いわて)は、悪鬼の本性ながら罪業を悔い、一夜宿を求めた聖僧阿闍梨(あじゃり)祐慶(ゆうけい)の教えによって救われようとするが、固く禁じておいた一室の内を祐慶の強力(ごうりき)にのぞき見られ、人間の虚偽を怒って悪鬼の正体を現し、法力によって退治される。
3景の構成で、とくに第二景の茫(すすき)原で箏曲(そうきょく)を使い、老女が月光の下で仏果を得た悦(よろこ)びを踊るところが見せ場。猿翁の新作舞踊の代表作で、孫の3世猿之助も「猿翁十種」として継承している。
[松井俊諭]