安達ヶ原(読み)アダチガハラ

デジタル大辞泉 「安達ヶ原」の意味・読み・例文・類語

あだち‐が‐はら【安達ヶ原】

福島県二本松市阿武隈川東岸の称。また、安達太良山あだたらやま東麓とうろくともいう。昔、鬼婆が住んでいたという伝説がある。[歌枕
謡曲。「黒塚」の観世流における名称

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日本歴史地名大系 「安達ヶ原」の解説

安達ヶ原
あだちがはら

安達太良山南東麓に所在比定される歌枕で、鬼が住むという伝説で知られた。比定地は複数あるが二本松安達ヶ原が有力である。伝説は平安時代にすでに成立しており、平兼盛は「みちのくの安達の原の黒塚に鬼こもれりときくはまことか」(拾遺集)と詠んでいる。この伝説を踏まえて謡曲「安達原(観世流以外では「黒塚」という)が生れた。

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改訂新版 世界大百科事典 「安達ヶ原」の意味・わかりやすい解説

安達ヶ原 (あだちがはら)

福島県二本松市東部,阿武隈川南岸にある地名。安達ヶ原は歌枕として多くの歌に詠まれ,安達太良山南東麓の本宮盆地を指すとも言われる。この土地には古くから鬼が住むという伝説があり,たとえば平安後期成立の《拾遺和歌集》に,平兼盛の詠として〈みちのくの安達の原の黒塚に鬼こもれりときくはまことか〉の歌が入っている。この古伝説を踏まえて,謡曲の《安達原》(現在,観世流以外の流派では《黒塚》という)が生まれた。熊野山伏が行き暮れて一つ家に宿るが,主の老婆留守に,禁を破って閨(ねや)の中をのぞき,死骸の山を見て逃げ出す。老婆は鬼女の正体を現して追いかけ,食い殺そうとするが,山伏に祈り伏せられる。古伝説は謡曲によっていよいよ広まった。1762年(宝暦12)初演の浄瑠璃奥州安達原》(近松半二ら作)は四段目にこの〈一ッ家〉を趣向に採り入れた。この作では,老婆を安倍貞任の親岩手とし,環の宮の啞を治すために,わが子と知らず身重の恋絹を殺して胎児を奪うという展開に脚色された。また,1939年に東京劇場で初演された舞踊劇《黒塚》(木村富子作詞)は,能《安達原》を素材としつつも,これを脱し,近代的な解釈を加えた佳作で,2世市川猿之助の代表作となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安達ヶ原」の意味・わかりやすい解説

安達ヶ原
あだちがはら

福島県中北部、二本松市の阿武隈(あぶくま)川畔にある地。もとは川の西側の平地呼称であったという。謡曲「黒塚(くろづか)」(観世流では「安達原(あだちがはら)」という)などで知られる鬼婆(おにばば)の伝説があり、鬼婆がこもったという岩屋観世寺(かんぜじ)境内にある。近くの黒塚は鬼婆の墓とされ、そばに平兼盛(かねもり)の「みちのくの安達の原の黒塚におにこもれりと聞くはまことか」(『拾遺集』)の碑がある。

[安田初雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安達ヶ原」の意味・わかりやすい解説

安達ヶ原
あだちがはら

福島県中部,二本松市の中央部,阿武隈川沿岸にある台地。鬼女伝説をテーマにした能楽 (→黒塚 ) などで知られ,それにまつわる岩屋,碑,黒塚がある。霞ヶ城県立自然公園に属する。

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