家庭医学館 「慢性鼻炎」の解説
まんせいびえん【慢性鼻炎 Chronic Rhinitis】
鼻腔(びくう)は、鼻中隔(びちゅうかく)という骨や軟骨(なんこつ)でできた壁で左右に分けられ、それぞれ、横や上の壁から鼻甲介(びこうかい)と呼ばれる突起(とっき)が出ていて、複雑な形となっています。
鼻の孔(あな)の奥は、円形の空洞(くうどう)ではなく、これらの構造物によって狭いすき間のようになっていて、呼吸による空気は、このすき間を出入りします。これらの構造物は、左右が完全に対称ではなく、ほとんどの人の鼻中隔はどちらかに曲がっていて、鼻甲介の大きさや形は左右で異なっています。
構造物はすべて粘膜(ねんまく)でおおわれ、粘膜は一定のリズムで交互に腫脹(しゅちょう)(腫(は)れ)と縮小をくり返しています。
自分では、鼻の通り具合に変化を感じませんが、計器で測定すると左右の通りが経時的に変化しています。
慢性鼻炎は、とくに鼻甲介の粘膜が病的に腫脹し、空気の通り路(みち)が狭くなり、鼻づまりや鼻汁(びじゅう)が多くなった状態で、誘因として、鼻中隔の曲がりや鼻甲介の形態不良が関係していると考えられています。専門的には、ふつう、単純性鼻炎(たんじゅんせいびえん)、うっ血性鼻炎(けつせいびえん)、肥厚性鼻炎(ひこうせいびえん)に分けられますが、区別がはっきりしない場合もあります。
慢性鼻炎は、刺激性のガスの出やすい化学工場や、粉塵(ふんじん)の多い場所で仕事をする人に多い傾向があります。
[原因]
鼻腔の形態不良による呼吸の障害が粘膜に影響し、腫脹が生じるのが原因とする考え方と、慢性の感染によるという考え方があります。
鼻中隔が曲がっていると、どちらか一方の鼻腔が狭くなり、もう一方が広くなると思われがちですが、実際は広いはずの鼻腔の鼻甲介が骨の形態変化や粘膜の肥大(ひだい)を生じ、すき間を狭くし、むしろ広いはずの鼻がつまることが少なくありません。原因ははっきりしませんが、呼吸による空気の流れが病的な負荷(ふか)をかけた結果とも考えられます。これが、鼻腔の形態不良が慢性鼻炎の誘因と考えられる理由の1つです。
このような変化に、個人個人の鼻粘膜(びねんまく)やからだ全体の反応性のちがい、感染などが加わり、肥厚性鼻炎を生じてくると考えられます。
ほかに、甲状腺(こうじょうせん)や性腺(せいせん)などのホルモン機能の低下が、粘膜の反応性に影響を与えることや、血圧を下げる薬などが原因となることもあります。
また、鼻づまりの治療に点鼻薬(てんびやく)(血管収縮薬(けっかんしゅうしゅくやく))を使用すると、はじめは血管の反応がよく、鼻づまりの症状がとれていたのが、長期連用によって粘膜に肥厚が生じ、鼻づまりがとれなくなることがあります(「点鼻薬と副作用」)。
[症状]
鼻づまりがおもな症状です。軽い時期は左右の鼻づまりが交互におこったり、横になると下にしたほうがつまったりします。
程度がひどく肥厚型になると、常に鼻がつまるようになり、鼻で呼吸ができなくなると、においがわかりにくくなることがあります。
口やのどが渇いて痛んだり、頭重(ずじゅう)、睡眠障害(すいみんしょうがい)がおこることもあります。
副鼻腔炎(ふくびくうえん)を合併すると鼻汁が増え、鼻汁がのどのほうへ落ちたりします。
[検査と診断]
鼻甲介の腫脹の程度、粘膜の色をみて診断します。
単純性鼻炎やうっ血性鼻炎では、スプレーでアドレナリン(耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で診療時使用する薬剤)を吹きつけると粘膜は白くなり、腫脹がとれますが、肥厚性鼻炎では反応が不良です。
鼻X線検査を行ない鼻腔形態の良・不良、副鼻腔炎の有無を調べます。
鼻アレルギーと区別するために鼻汁の検査を行ないます。
鼻づまりは感覚的な症状で、人により感じ方が異なるので、実際にどのくらいつまっているかは、鼻腔通気度計(びくうつうきどけい)という計器を使って調べます。
[治療]
刺激性ガスや粉塵などの吸入、過度の飲酒、たばこなどの慢性鼻炎の誘因をなくします。
原因となる病気があれば、その治療をし、薬剤が原因であれば、中止するか、種類を変更します。
●鼻に対する治療
軽症であれば、抗生物質や副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬などのネブライザー治療をしばらく行ないます。
●手術
鼻づまりがひどく、粘膜の反応性が不良の場合は、腫脹した粘膜を電気で凝固(ぎょうこ)させる、レーザーで焼く、粘膜を切除するなどの手術を行ないます。また粘膜下の骨の形が不良な場合は、骨を除去したり、骨折させたりします。鼻腔全体の形態をよくすることが重要なため、鼻中隔の曲がりのある人には鼻中隔の手術も行ないます。
実際は、これらの手術のいくつかを組み合わせて行ないます。
これらの手術はすべて鼻の孔から行なわれるため、顔に傷は残りません。