慢性鼻炎(読み)まんせいびえん(英語表記)Chronic Rhinitis

六訂版 家庭医学大全科 「慢性鼻炎」の解説

慢性鼻炎
まんせいびえん
Chronic rhinitis
(鼻の病気)

どんな病気か

 鼻の粘膜が慢性的に赤く、はれている状態です。副鼻腔炎(ふくびくうえん)を伴うものは含みません。血管収縮薬に反応して鼻づまりがとれれば、慢性単純性鼻炎です。血管収縮薬を噴霧しても鼻の粘膜のはれがとれない場合は、慢性肥厚性鼻炎(まんせいひこうせいびえん)と呼びます。

原因は何か

 ウイルスや細菌感染による急性鼻炎を繰り返した場合、あるいは長引いた場合に起こります。また鼻中隔弯曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)があれば、弯曲によって広くなった鼻腔側の粘膜がはれて慢性肥厚性鼻炎が起こります。

 化学物質や物理的な刺激、さらに降圧薬や末梢血管収縮薬の副作用でも起こります。また、市販されている鼻づまりを短時間で解消させる血管収縮薬の点鼻を頻用すると、逆に鼻腔内の粘膜の肥厚が生じ、いわゆる点鼻薬性鼻炎という慢性鼻炎の一種になり、頑固な鼻づまりを生じさせることになります。

症状の現れ方

 鼻づまりと鼻漏(びろう)が主な症状です。鼻づまりは、単純性鼻炎の場合は片側のみあるいは左右交代に起こりますが、肥厚性鼻炎の場合は常に両側の鼻づまりが起こります。

 鼻漏は粘性が多く、鼻がかみきれない場合もあります。また、鼻漏がのどに落ちる、すなわち後鼻漏(こうびろう)もよく起こります。

検査と診断

 診断は鼻鏡所見によります。しかし、鼻炎は他の疾患を合併していることが多いため、さらに区別するためのいろいろな検査が重要です。

 まず、副鼻腔単純X線検査、あるいはCT検査により副鼻腔病変があるかどうかをみます。また、アレルギー検査(皮内テストや血液検査によるアレルギーテスト、鼻汁好酸球検査など)によりアレルギー性鼻炎か否かを調べます。これらの病変がない場合は慢性鼻炎と考えます。

 まぎらわしい病気血管運動性鼻炎(けっかんうんどうせいびえん)があります。これは慢性鼻炎と同様に、副鼻腔病変もなく、またアレルギー検査もすべて陰性ですが、化学製品、疲労、気温の変化、湿度などによりくしゃみや鼻づまり、鼻漏が生じる病気で、鼻の粘膜の血管運動神経の異常な反応により生じると考えられています。

治療の方法

 ステロイドスプレーの鼻への定期的な噴霧が有効です。最近はステロイドといっても鼻スプレーのなかには全身への影響が少ないものも多数あり、ある程度長期的に使用できます。しかし定期的に使用しないと効果が十分現れないことがあります。また、アレルギー性鼻炎を合併している場合は、抗アレルギー薬などの内服薬も併用します。

 症状がひどい場合は、手術を行います。とくに、鼻中隔弯曲症を合併している場合は、鼻中隔矯正術と下鼻甲介切除術(かびこうかいせつじょじゅつ)を組み合わせた手術が有効です。また、下鼻甲介粘膜を電気レーザー焼灼(しょうしゃく)(焼いて取り除くこと)したり、アルゴンプラズマで凝固したり、下鼻甲介粘膜、下鼻甲介骨を切除したりして、肥厚している粘膜を減らすことで鼻づまりをとります。

病気に気づいたらどうする

 鼻づまり、鼻漏が長く続くようであれば、原因が何かを診断してもらうべきです。市販の点鼻薬を乱用しないようにしましょう。

飯野 ゆき子, 太田 康

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「慢性鼻炎」の解説

まんせいびえん【慢性鼻炎 Chronic Rhinitis】

[どんな病気か]
 鼻腔(びくう)は、鼻中隔(びちゅうかく)という骨や軟骨(なんこつ)でできた壁で左右に分けられ、それぞれ、横や上の壁から鼻甲介(びこうかい)と呼ばれる突起(とっき)が出ていて、複雑な形となっています。
 鼻の孔(あな)の奥は、円形の空洞(くうどう)ではなく、これらの構造物によって狭いすき間のようになっていて、呼吸による空気は、このすき間を出入りします。これらの構造物は、左右が完全に対称ではなく、ほとんどの人の鼻中隔はどちらかに曲がっていて、鼻甲介の大きさや形は左右で異なっています。
 構造物はすべて粘膜(ねんまく)でおおわれ、粘膜は一定のリズムで交互に腫脹(しゅちょう)(腫(は)れ)と縮小をくり返しています。
 自分では、鼻の通り具合に変化を感じませんが、計器で測定すると左右の通りが経時的に変化しています。
 慢性鼻炎は、とくに鼻甲介の粘膜が病的に腫脹し、空気の通り路(みち)が狭くなり、鼻づまりや鼻汁(びじゅう)が多くなった状態で、誘因として、鼻中隔の曲がりや鼻甲介の形態不良が関係していると考えられています。専門的には、ふつう、単純性鼻炎(たんじゅんせいびえん)、うっ血性鼻炎(けつせいびえん)、肥厚性鼻炎(ひこうせいびえん)に分けられますが、区別がはっきりしない場合もあります。
 慢性鼻炎は、刺激性のガスの出やすい化学工場や、粉塵(ふんじん)の多い場所で仕事をする人に多い傾向があります。
[原因]
 鼻腔の形態不良による呼吸の障害が粘膜に影響し、腫脹が生じるのが原因とする考え方と、慢性の感染によるという考え方があります。
 鼻中隔が曲がっていると、どちらか一方の鼻腔が狭くなり、もう一方が広くなると思われがちですが、実際は広いはずの鼻腔の鼻甲介が骨の形態変化や粘膜の肥大(ひだい)を生じ、すき間を狭くし、むしろ広いはずの鼻がつまることが少なくありません。原因ははっきりしませんが、呼吸による空気の流れが病的な負荷(ふか)をかけた結果とも考えられます。これが、鼻腔の形態不良が慢性鼻炎の誘因と考えられる理由の1つです。
 このような変化に、個人個人の鼻粘膜(びねんまく)やからだ全体の反応性のちがい、感染などが加わり、肥厚性鼻炎を生じてくると考えられます。
 ほかに、甲状腺(こうじょうせん)や性腺(せいせん)などのホルモン機能の低下が、粘膜の反応性に影響を与えることや、血圧を下げる薬などが原因となることもあります。
 また、鼻づまりの治療に点鼻薬(てんびやく)(血管収縮薬(けっかんしゅうしゅくやく))を使用すると、はじめは血管の反応がよく、鼻づまりの症状がとれていたのが、長期連用によって粘膜に肥厚が生じ、鼻づまりがとれなくなることがあります(「点鼻薬と副作用」)。
[症状]
 鼻づまりがおもな症状です。軽い時期は左右の鼻づまりが交互におこったり、横になると下にしたほうがつまったりします。
 程度がひどく肥厚型になると、常に鼻がつまるようになり、鼻で呼吸ができなくなると、においがわかりにくくなることがあります。
 口やのどが渇いて痛んだり、頭重(ずじゅう)、睡眠障害(すいみんしょうがい)がおこることもあります。
 副鼻腔炎(ふくびくうえん)を合併すると鼻汁が増え、鼻汁がのどのほうへ落ちたりします。
[検査と診断]
 鼻甲介の腫脹の程度、粘膜の色をみて診断します。
 単純性鼻炎やうっ血性鼻炎では、スプレーでアドレナリン(耳鼻咽喉科(じびいんこうか)で診療時使用する薬剤)を吹きつけると粘膜は白くなり、腫脹がとれますが、肥厚性鼻炎では反応が不良です。
 鼻X線検査を行ない鼻腔形態の良・不良、副鼻腔炎の有無を調べます。
 鼻アレルギーと区別するために鼻汁の検査を行ないます。
 鼻づまりは感覚的な症状で、人により感じ方が異なるので、実際にどのくらいつまっているかは、鼻腔通気度計(びくうつうきどけい)という計器を使って調べます。
[治療]
 刺激性ガスや粉塵などの吸入、過度の飲酒、たばこなどの慢性鼻炎の誘因をなくします。
 原因となる病気があれば、その治療をし、薬剤が原因であれば、中止するか、種類を変更します。
●鼻に対する治療
 軽症であれば、抗生物質や副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬などのネブライザー治療をしばらく行ないます。
●手術
 鼻づまりがひどく、粘膜の反応性が不良の場合は、腫脹した粘膜を電気で凝固(ぎょうこ)させる、レーザーで焼く、粘膜を切除するなどの手術を行ないます。また粘膜下の骨の形が不良な場合は、骨を除去したり、骨折させたりします。鼻腔全体の形態をよくすることが重要なため、鼻中隔の曲がりのある人には鼻中隔の手術も行ないます。
 実際は、これらの手術のいくつかを組み合わせて行ないます。
 これらの手術はすべて鼻の孔から行なわれるため、顔に傷は残りません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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