一宗一派の開祖,学統や流派の元祖をいう。日本の仏教では,釈迦は釈迦三尊像などであらわされるように大乗仏教の仏として説かれ,仏教の開祖としての釈迦について教えられることは少なかった。また,仏教が長期にわたって断続的に伝えられたために,宗派性が強調されることが多く,釈迦よりも宗祖や日本仏教の開祖としての聖徳太子が賛仰の対象になることが多かった。さらに,多彩な仏教を統一的に理解することは容易ではなかったから,新しい教説を立てたり,仏教を日本人にわかりやすく説いた宗派の開祖が,信仰の対象として重んぜられる傾向が強かった。したがって,日本の仏教では宗祖,元祖,派祖などのことばでも呼ばれる祖師が,きわめて重要な意味をもっているといえよう。一般に,仏教の開祖である釈迦は教主と呼ばれ,信仰の対象である祖師のような人格的な面をもっていない。
宗派ごとに祖師への信仰は強く,さまざまな宗教儀礼が生まれた。その中心となるのは祖師忌で,天台宗では元三大師(比叡山の中興の祖良源)の大師詣,真言宗では弘法大師(空海)の御影供(みえく),浄土宗では法然の御忌(ぎよき),浄土真宗では親鸞の報恩講,日蓮宗では日蓮の御会式(おえしき),禅宗では達磨忌や栄西の忌日などのように盛大な儀式が行われた。太子忌もその一つである。祖師忌には,祖師を賛仰するために,祖師の生涯を絵巻物や屛風などに描いて絵解きをすることが多く,絵伝にはきわめてすぐれたものが残されている。また祖師の肖像画や肖像彫刻(祖師像)がさかんに作られ,それを安置する祖師堂や御影堂(みえいどう)は,寺院の堂宇のなかで重要な意味をもつようになった。祖師の遺品や墨跡などが,信仰の対象として神聖視される例は枚挙にいとまがない。祖師はそれぞれの宗派を開いた人というだけでなく,信徒の宗教的な理想を体現した聖者として賛仰されている。
なお教祖ということばは,新宗教においてその創始者を指して用いられることが多いが,ときにある組織の指導者を独善的として批判する場合にも用いられる。
執筆者:大隅 和雄
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一宗一派を開創した有徳の師。その像を祀(まつ)る堂を祖師堂といい、その住した山を祖山とよぶ。禅宗ではとくに中国禅宗の初祖達磨(だるま)大師をさす。また教外別伝(きょうげべつでん)・不立文字(ふりゅうもんじ)を標榜(ひょうぼう)し、教理や文字によらないで師から弟子へと以心伝心で直接にことばを超えた悟りを伝える禅を祖師禅とよび、中国禅宗の主流を占めた。わが国では、各宗の開祖を宗祖とよぶほか、とくに浄土宗の源空(法然(ほうねん))を元祖、日蓮(にちれん)宗の日蓮を祖師とよぶことがある。
[藤井教公]
…またマトゥラーのカンカーリー・ティーラーKaṅkālī Ṭīlāの発掘や浮彫遺品から,古代にはジャイナ教徒も盛んにストゥーパを造営したことがわかる。 24人の祖師(ティールタンカラtīrthaṅkara)の造像はマトゥラーにおいて仏陀像の出現(2世紀初期)とほぼ同時に始まり,直立または結跏趺坐するその像容は仏陀像に酷似する。しかし全裸であること(5世紀中期以後白衣(びやくえ)派では下半身に衣をまとう),各祖師固有の標幟,胸間の特有のシンボルなどで区別し得る。…
…祖師とは釈迦より仏教を伝授され,これを集大成し,発展させ,あるいはそれによって一宗一派を開創し,またこれをひろめた高僧たちを指し,これら祖師の肖像を祖師像という。仏教の始祖たる釈迦とその教えに対する信仰は,インド,中国,日本各地にあってこれを伝えひろめた各祖師たちへの尊敬へと発展し,多くの肖像が製作された。…
※「祖師」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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