動脈(読み)ドウミャク

デジタル大辞泉 「動脈」の意味・読み・例文・類語

どう‐みゃく【動脈】

血液を心臓からからだの各部分へ送り出す血管。一般に血管壁が厚く、弾力性に富み、心臓の鼓動に一致する脈拍をもつ。高等動物では心臓から肺動脈大動脈とが出ている。大動脈は動脈血を運ぶが、肺動脈は静脈血を心臓から肺へ送る。→静脈じょうみゃく
物資の輸送や情報の伝達などの主要な系路。「地震で都市の動脈が寸断される」
[類語]静脈毛細血管

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「動脈」の意味・読み・例文・類語

どう‐みゃく【動脈】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 心臓から血液を身体の各部に送り出す血管。下等な脊椎動物では一本の動脈幹として出、数対の鰓動脈に分枝する。高等脊椎動物では心臓から肺動脈と大動脈の二本が出て、血液をそれぞれ、肺および身体各部へ送る。血液は肺動脈から肺に行き肺静脈を通って心臓に戻り、大動脈を経て体内を循環し大静脈を経て心臓に戻る。管壁は三層(結合組織の間に平滑筋繊維と弾力性繊維がある)より成り、血管運動神経によって支配されている。動脈管。〔解体新書(1774)〕
  3. ( 比喩的に ) 主幹となっている重要な交通路、情報伝達の経路などをさしていう。
    1. [初出の実例]「イギリスは中東と英帝国の動脈とを保護し」(出典:時のうごき1947(1948)〈中野重治編〉聖地の血煙)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「動脈」の意味・わかりやすい解説

動脈
どうみゃく

心臓から末梢(まっしょう)器官に向かう血管が動脈であり、心臓から排出される血液を流している。一般に動脈の中を流れる動脈血は、酸素を十分に含んだ血液である。しかし、肺動脈(心臓から肺臓に向かう動脈)に限ってはこの関係が逆になる。肺動脈の中の血液は、体内の不要な炭酸ガス(二酸化炭素)を吸収してきた静脈血であり、これを心臓が受け入れて肺臓に送り出している。つまり、心臓は肺動脈によって静脈血を肺臓へ送り、炭酸ガスと酸素の交換を行うわけである。

 動脈は心臓から出るもっとも太い大動脈(直径約3センチメートル)から始まり、体中の組織や器官に分布するため、分枝しながらしだいに細くなる。この分枝の過程で、血管壁も同時に薄くなっていく。器官の中に入ると、動脈はさらに細かく分枝して細動脈(直径0.5ミリメートル以下)となり、ついには1層に配列した内皮細胞に囲まれた毛細血管となる。毛細血管網とは、細い管が網状構造となったものである。やがて、毛細血管はふたたび合して細静脈に移行する。動脈が体内を走る形式にはいろいろあるが、本来の動脈管に血行障害が生じたため、障害部分の近位部と遠位部とをつないでいる血管が拡張し、血行を促すようになるものを「側副血管」という。また、動脈の枝が互いに連絡交通しているのを「交通枝」あるいは「吻合枝(ふんごうし)」とよぶ。多数の枝に分枝して、互いに網目状に連絡する血管網を「動脈網」といい、この動脈網の立体的構造を「動脈叢(そう)」とよぶ。細動脈が毛細血管に分かれる前に、急に分枝して網状構造となる血管網を「怪網」という。腎臓(じんぞう)内の糸球体の血管網がこの例である。脳髄灰白質、肺臓、肝臓、脾臓(ひぞう)、腎臓、甲状腺(こうじょうせん)の動脈では、毛細血管になる前の細動脈は、互いに吻合をつくらない。これを「終動脈」とよぶ。終動脈に血行障害が生じると、その血管の分布区域の組織は変性をおこすこととなる。

 毛細血管の壁は1層の内皮細胞層だけからなり、その直径の平均値は8マイクロメートルほどである。毛細血管のなかには、内皮細胞の壁に孔(窓)をもつものがある。これを有窓型または有孔型毛細血管という。この孔は、普通は細胞膜よりも薄い隔膜で閉ざされているが、胃、腸、内分泌腺などのように、組織液と血液との間において急速な物質交換が必要とされる組織にはよくみられる。毛細血管の表面積は6000平方メートルとされ、また、その直径総計は大動脈の約800倍といわれる。太い動脈管の壁を構成する組織は一般に3層からなり、内側から内膜・中膜・外膜を区別する。内膜は、血管内腔(ないくう)に接する1層の内皮細胞層と、その外側にエラスチンからなる等質性の弾性線維(内弾性板)をもつ。中膜はきわめて厚い膜で、輪走する多量の平滑筋線維と弾性線維からなる。太い血管ほど中膜が発達していて厚くなる。外膜は縦走する結合組織線維からなるが、太い血管では、膠原(こうげん)線維と弾性線維が混在する。中等大の動脈あるいは大動脈では、自己の外膜の中に血管自体を養う自養血管(血管の血管)が走る。自養血管は、とくに大血管で多い。血管壁では、無髄の自律神経線維が外膜のところで網状構造をつくり、さらに中膜の横紋筋線維の間に入り込んで血管の運動にかかわっている。このほか、血管壁にはリンパ管も分布している。

[嶋井和世]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「動脈」の意味・わかりやすい解説

動脈 (どうみゃく)
artery

血液を心臓から体組織,器官に送り出す血管。脊椎動物の動脈壁の構造は,大部分ヒトのそれと共通するが,特殊機能部位に特異な構造のみられるものもある。えら呼吸を行う脊椎動物のえらの二次層板に発達する血管網は,鰓弓(さいきゆう)動脈が細分化されて形成された動脈性怪網であるが,その血管腔を横切って多数の膠原(こうげん)繊維束が柱状に配列し,これを〈無髄神経繊維を囲むシュワン細胞〉のように1個の細胞(柱状細胞)が包み,さらにその辺縁部の細胞質が層板内面に薄く広がって血管腔を囲む。壁に平滑筋はない。なお求心性鰓糸動脈に連なる柱状細胞の一部には,きわめて強い食作用を示すものがあって,原始的な自己防衛機構の一つと考えられている。前腎,中腎,後腎の糸球体も動脈性怪網であるが,ここでは内皮細胞に多数の小孔(500~1000Å)が開き,有窓型毛細血管に酷似する。その外側には,厚い基底膜を介し,タコ足細胞の終足が〈すき間〉をつくって配列し,原尿の限外ろ過が行われる。壁に平滑筋はない。ちなみに糸球体の血圧はラットでは85mmHgで,尿細管周囲の毛細血管の15mmHgよりもはるかに高く,細動脈のそれに相当する。ヤツメウナギからラット,イヌに至る多くの動物で,動脈の分岐部に特異な平滑筋を含む内膜の弁様構造(内膜クッション,動脈クッション)の存在が知られている。血流調節機構の一つと考えられるが,機能的意義は十分には解明されていない。無脊椎動物では,頭足類や甲殻類のように心臓が発達し,それに続く動脈があるが,脊椎動物のそれとは,まったく異なる構造をしている。動脈壁は通常内皮を欠き,筋組織とそれを覆う基底膜,緻密(ちみつ)な結合組織,厚い基底膜をもつ体腔上皮細胞などからなる。
血管系
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

百科事典マイペディア 「動脈」の意味・わかりやすい解説

動脈【どうみゃく】

脊椎動物の血管系のうち心臓から酸素に富んだ(肺動脈のみは例外)血液を全身に送り出す血管。ヒトでは左心室から大動脈,右心室から肺動脈として出て次第に枝分れして,ついに毛細血管となる。その壁は静脈に比べて厚く,弾力性と収縮性に富んでいる。動脈では一般に心臓の拍動に伴う脈拍を触れる。
→関連項目血管

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「動脈」の意味・わかりやすい解説

動脈
どうみゃく
artery

酸素と栄養分に富む動脈血を身体各部に運ぶ血管 (肺動脈は例外) 。動脈は末梢にいくにつれて細くなり,最終的には毛細血管につながる。毛細血管では酸素および栄養分を組織に供給し,二酸化炭素その他の代謝産物を組織から受取る。動脈の壁は内膜,中膜,外膜の3層から成り,伸展性と弾力性に富んでいる。内膜は内皮細胞でおおわれ,中膜は平滑筋と弾性線維から成り,外膜は結合組織から成る。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

普及版 字通 「動脈」の読み・字形・画数・意味

【動脈】どうみやく

血の陽脈。

字通「動」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

栄養・生化学辞典 「動脈」の解説

動脈

 心臓から各組織へ血液を送る血管.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の動脈の言及

【血管系】より

…内皮の存在は,脊椎動物循環系の大きな特色である。この血管系は心臓動脈毛細血管静脈の4部に区分される(図2)。心臓は血液循環の原動力と方向性を与えるポンプとして働く。…

※「動脈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

部分連合

与野党が協議して、政策ごとに野党が特定の法案成立などで協力すること。パーシャル連合。[補説]閣僚は出さないが与党としてふるまう閣外協力より、与党への協力度は低い。...

部分連合の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android