哺乳類の皮膚腺の一種で,汗を分泌する。一般の表皮から発生する小汗腺(エクリン腺とも呼ばれ,普通の汗を分泌する)と,表皮性毛囊に由来する大汗腺(アポクリン腺とも呼ばれ,粘稠(ねんちゆう)かつ臭気を帯びた液を分泌する)の2種が区別され,前者は漏出分泌(エクリン)型,後者は離出分泌(アポクリン)型である。一般に哺乳類の汗腺は離出分泌型で,足指の裏の趾球(しきゆう)のみが漏出分泌腺である。クジラやセイウチには漏出分泌腺はない。これに対して,ヒトでは大部分の汗腺が漏出分泌を行い,離出分泌型は腋窩(えきか)などに限られる。霊長類では類人猿に両者が全身的に混在する。動物の中でもウマやロバ,ヒトのように汗腺のよく発達したものと,イヌやネコのように汗腺がほとんど発達せず,趾球部にのみ見られるものとがある。趾球部の汗腺は獲物を捕らえる際の滑り止めの役割をすると考えられる。体表の汗腺からの発汗はその蒸発熱によって体温調節に役立っており,ヒトでは水分排出量の2~3%が発汗による。なお,ブタやウシは鼻の先からだけ発汗し,ウサギやヤギは発汗しない。表皮性毛囊からは大汗腺のほか全分泌(ホロクリン)型の皮脂腺が分化し,脂肪様の分泌物により毛や皮膚の乾燥を防いでいる。
執筆者:町田 武生
小汗腺,大汗腺とも,皮膚の表層をなす細胞群が特殊な分化をとげて体内へ陥入して管腔をつくり,体表に向けて外分泌を行うような腺となったものではあるが,小汗腺は管腔の太さが0.3~0.5mmであるのに対し,大汗腺は3~5mmとなっている。分泌様式にも差があり,小汗腺では分泌物が細胞膜を単に通過する形で管腔内に放出される(エクリン分泌様式)のに対し,アポクリン腺では分泌細胞の管腔に面した表面部分に小突出物が多数生じて,これがちぎり取られる形で管腔内に放出され分泌物となる(アポクリン分泌様式)。また分泌細胞を囲むようにして筋上皮細胞があって,これが収縮して分泌物が体外に排出されるのを促すのであるが,小汗腺ではコリン作動性の交感神経節後繊維が分布して運動調節を行うのに対し,大汗腺はアドレナリン作動性の交感神経節前繊維が分布して運動の調節を行う。小汗腺はヒトではよく発達しており,暑さに出あうと最初に額の部位の皮膚からの汗の分泌が増大し,次いで顔から全身の皮膚へと汗の噴出個所が広がり,最後に手掌と足底からの発汗をみる。これに対して神経緊張性の発汗は,精神性発汗ともいわれ,手掌,足底から始まる。緊張したとき〈手に汗を握る〉のはこのためである。大汗腺としてはヒトの腋窩におけるものが有名であるが,他の部位,たとえば眼瞼,外耳道,肛門周囲にも存在する。また乳腺を一つの巨大な大汗腺とみなすこともできる。
執筆者:山内 昭雄
精神性発汗で異常に発汗するものを掌蹠多汗症といい,指先や手掌,足底の皮がうすくむける状態を汗疱という。かんきつ類を多量に食べる人はその色素成分であるカロチンが汗とともに排出され,手掌,足底が黄染することがあり,柑皮症auvantiasisという。いわゆる〈あせも〉は発汗が誘因となっておこる汗疹およびこれが湿疹化したものをいい,〈あせものより〉は多発性汗腺膿瘍といい,汗疹に細菌感染したものである。大汗腺による〈わきが(腋臭症)〉のにおいは,分泌されたアポクリン汗が皮膚表面の細菌により分解されて生ずるとされている。
→汗
執筆者:松尾 聿朗
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
皮下組織内にある皮膚腺の一つで、汗を分泌する。外分泌腺で、その導管は汗管とよばれ、細長い円筒形で、皮下組織と真皮の中を軽く螺旋(らせん)状に曲がりながら上行し、真皮乳頭の間から表皮に入り、最後には外皮表面の最高部である皮膚小稜(しょうりょう)の頂に開口する。その開口部を汗孔(汗口)という。汗腺は形態的、生理的に異なるエクリン腺(小汗腺)とアポクリン腺(大汗腺)に分けられる。特殊型としてまつげの根部近くにある睫毛腺(しょうもうせん)をはじめ、肛門周囲腺(こうもんしゅういせん)(肛囲腺)や耳道腺(耳垢腺(じこうせん))があるが、いずれもアポクリン腺に属する。エクリン腺は大量の水分を分泌して体温調節に関与する汗腺で、毛とは関係なく分布するが、アポクリン腺はヒトの場合、退化してわきの下などの毛とともに局在し、体温調節には関与しない。両者は解剖学的にも分泌生理学的にも根本的な差はなく、アポクリン腺からエクリン腺への進化過程に沿った一連の変化であることが認められている。
[齋藤公子]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…汗は古くは皮膚にある無数の小孔から体液がしみ出すものと考えられてきたが,1833年にJ.E.プルキンエらによって特殊な分泌腺(汗腺)が皮膚に存在することが明らかとされて以来,科学的研究の対象となったが,その後の研究の進歩は遅々たるものであった。1920年ころになって,久野寧がモンゴル地方に自生するマオウの発汗作用の研究をきっかけとして,系統的に広範な研究を重ねた結果,発汗機能について多くの基本的事実が見いだされ,発汗生理学が初めて学問的に体系づけられるに至った。…
…気候順応の例としてよく日本人の耐暑性があげられる。耐暑性は一般に汗腺数が目安となる。日本人の汗腺数は熱帯の住民より少なく,寒冷地の住民より多い。…
…真皮も膠原繊維束がさまざまな方向に交錯して走る厚くてじょうぶな層として発達し,その下には多量の脂肪を含む皮下組織が存在し,神経や血管の通路となっている。また,哺乳類では小汗腺,大汗腺,皮脂腺,乳腺の四つの皮膚腺が出現する。小汗腺は全身に分布し,水分の多い分泌物を出して,毛とともに体温調節に重要な働きをする。…
※「汗腺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
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