心的外傷後ストレス障害(PTSD) 事件や事故、災害など、生命の危険や強い恐怖を感じるような体験をきっかけに引き起こされる精神的な障害。記憶が突然よみがえるフラッシュバックや不眠、抑うつ、パニック、過剰な警戒感などの症状が出る。体験から数年後に発症する場合もあり、性暴力被害も引き金になる。日本では阪神大震災や地下鉄サリン事件を機に注目されるようになった。
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出典 共同通信社 共同通信ニュース用語解説共同通信ニュース用語解説について 情報
死を意識するような強い体験によって心理的なトラウマ(外傷)が生じ、以下の特有の症状を生じる障害です。
ここでいう体験とは、事故、災害、戦闘、
そのような体験のあとで、次の3つの症状が生じ、少なくとも1カ月以上続き、かつ生活や仕事に大きな影響を与えているものをPTSDといいます。
●侵入症状 (再体験、フラッシュバック)
体験の記憶が再生産されることをいいます。その形式として、次のいずれかをとります。
①誘因なく思い出される(子どもでは外傷に関係した遊びの反復)。
②悪夢にみる(子どもでは内容不明の悪夢)。
③フラッシュバック、体験に関する
④外傷に関連した刺激による主観的な苦痛
⑤同じく自律神経症状を示す。
●回避と麻痺
苦痛な体験が思い出させられることを避け、記憶を意識から切り離すことです。普通は次のうちの3つ以上の症状がみられます。
①慢性的な無力感、無価値感が生じ、まわりの人間とは違う世界に住んでいると感じる。
②感情や関心が狭くなり、人を愛したり喜ぶことができない。
③外傷記憶の部分的な健忘
④外傷に関連した刺激を避けようとする。
●
常に危険が続いているかのような張りつめた状態をいいます。交感神経系が緊張し、些細な物音などにも反応し、パニックとなりやすくなります。次のうち2つ以上の症状がみられます。
①入眠困難
②いらだち
③集中力の低下
④張りつめた警戒心
⑤些細なことでの
対応としては、一般的なケアと専門的な治療に分けられます。
一般的なケアとしては、安全、安心、安眠の確保に努め、二次的なトラウマを未然に防ぎ、自然の回復を促進します。PTSDについての心理的な教育も有効です。
症状が重い急性期には、あれこれと聞き出すことはよくありません。3分の2は半年以内に自然回復するので、生活の支援をしながら温かく見守ることです。
専門的な治療としては、抗うつ薬の一種であるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などが有効です。また、PTSDの治療のために開発された持続エクスポージャー療法(恐しい体験の記憶に対するコントロール力を回復させて恐怖を軽減する治療法)は国際的にも広く認められていますが、日本ではまだ十分に広まってはいません。
金 吉晴
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
心的外傷後のストレス障害。1995年(平成7)の阪神・淡路大震災後、被災者に多数みられた。思いがけないときに不安が増大し、不眠が続き、ささいなことで反応を示す。DSM-Ⅳ(アメリカ精神医学会で定義している精神疾患の分類と診断の基準)では、「外傷後ストレス障害」とされ、死を身近に感じるほどの危険や恐怖あるいは無力感に出会い、こうした苦しいできごとの記憶を反復して再体験(想起)したり、夢にみたりするほか、集中困難な状態になったり落ち着きがなくなったりするものをいうとされてきた。フラッシュバック症状もみられるとしている。症状の持続状態が3か月以内のものを急性PTSDといい、3か月以上持続するものを慢性PTSDといっている。これに対して急性ストレス障害(ASD)は、同様な危機的状況を体験したあと2、3日から最長4週間以内に発症・持続するものをいい、周囲に対する注意の減弱や現実喪失感のほか、離人感(自分が自分ではないように感じるなどの状態)も起こるとされている。
災害直後はもとより、半年を経てなお精神変調が続くものも多いので、精神医学や心理学の専門家だけでなく、看護師や保健師、ケースワーカーなどがチームを組んで治療が行われることが望ましい。子供の場合は学校や保育園、幼稚園の教師や保育士などが治療を担当するが、症状は千差万別でマニュアルどおりの対応は不可である。
近年では事件・事故が起こるたびに、ASDを含むPTSDの発症が憂慮され、メンタルケアの重要性が指摘されている。症状の個々に対応するケアではなく、その人の全存在にかかわる問題に直面しているという理解に基づいてケアにあたる必要がある。阪神・淡路大震災を始め、1998年の和歌山ヒ素中毒事件、2001年の大阪府池田小学校事件、04年新潟県中越地震、07年能登半島地震、07年新潟中越沖地震、08年秋葉原連続殺人事件、08年岩手・宮城内陸地震など、大きな事件・事故のたびに日本精神衛生学会は緊急電話相談を開設して、PTSD発症防止に寄与するなどしている。
[吉川武彦]
『菅野泰蔵著『カウンセリング解体新書』(1998・日本評論社)』▽『西沢哲著『トラウマの臨床心理学』(1999・金剛出版)』▽『松下正明・浅井昌弘ほか編『外傷後ストレス障害(PTSD)』(2000・中山書店)』▽『藤沢敏雄編『トラウマ――心の痛手の精神医学』(2002・批評社)』
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
「心的外傷後ストレス障害」のページをご覧ください。
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