日本大百科全書(ニッポニカ) 「X線結晶学」の意味・わかりやすい解説
X線結晶学
えっくすせんけっしょうがく
X-ray crystallography
結晶とX線との相互作用、とくに結晶によるX線の散乱および回折現象とその応用について研究する結晶学の1分野。X線の散乱、回折理論、X線回折による結晶構造の解析あるいは物質の分析などの分野がある。X線結晶学の発展は、それまでの巨視的な結晶学を一変させた。
X線は数ナノメートル以下程度の波長の電磁波であり、原子に入射すると原子内の電子を強制振動させ、その結果、入射X線と同じ波長のX線を全方向に放射する。一方、結晶中における近接原子間の距離は100ピコメートル程度の大きさである。このため、結晶に入射したX線は、原子内の電子との相互作用で全方向に散乱されるが、結晶内に規則的に配列している原子が回折格子の役割を果たし、その格子によって回折されたX線だけが結晶外部へ放射される。
結晶によるX線の回折は1912年にドイツのラウエによって初めて観測され、ついでイギリスのブラッグ父子、デバイ(オランダ生まれ。アメリカに帰化)らによって研究が発展し、結晶内の原子配列が観測によって決定されるようになり、その成果は、物理学、化学、鉱物学はもちろん、生物学的に重要なタンパク質や核酸(DNA)などの物質の構造解析によって、生物学にも大きな影響を及ぼしている。X線結晶学が飛躍したのには、電子計算機の進歩に負うところが大きく、X線回折測定の自動迅速化と簡単な構造解析には比較的小型の計算機が活用され、測定結果の多量迅速計算には大型計算機が利用されている。結晶によるX線の回折は、ブラッグの回折条件によると理解しやすい。結晶内の原子は任意の格子面 (h k l) 上に配列している。その面間隔をdhklとするとき、角度θで入射した波長λのX線は、次の条件に適合するときに位相が合致して反射される。
2dhkl sinθ=nλ (n=1,2,3,……)
通常観測されるのはn=1の反射である。面間隔は格子定数によって定まり、反射されるX線の強度は単位胞中の原子の種類や位置などの関数となる。多くの(通常は数百から数千個)dhklに対応する反射強度を測定し、関数関係に従って計算を行うと、原子の位置を決めることができる。
[岩本振武 2015年7月21日]