結晶学は結晶の種々の性質を研究する学問として発達してきたが,最近では結晶の物理性は固体物理学,化学性は結晶化学,また結晶内部の原子配列はX線結晶学の各研究分野の研究対象に分化している。したがって,現在では結晶のもつ対称の種々の様相を数学的な手法によって研究する分野が結晶学と呼ばれている。
結晶が自然科学の研究対象となり始めたのは17世紀中ごろからで,デンマークのN.ステノは水晶などの結晶について,面角一定の法則を発見した(1669)。同じころ,イギリスのR.フックは,結晶は超顕微鏡的に小さい構成単位が,規則正しく繰り返して配列してできているという予想を発表し,この考えはその後の研究者にも受け継がれた。ことに方解石は,そのへき開片と同じ形の分子が図1のように密に積み重なっているので,図2のような形態を示すという説がスウェーデンの化学者ベリマンT.Bergmanによって唱えられ,フランスの鉱物学者アウイR.J.Haüyはこの考えを発展させて,18世紀末に結晶における有理指数の法則の基礎をつくりあげた。19世紀前半にはドイツの研究者が活躍した。まず鉱物学者ワイスC.S.Weissは結晶の異方性に注目し,晶帯および結晶軸の概念を用いて結晶形態の研究を行ったが,斜交軸をとることに考え及ばなかったために,一部の現象の解釈に混乱が残った。斜交軸をとる必要がある場合もあることは,間もなく鉱物学者モースF.Mohsが指摘し,彼の弟子ナウマンC.F.Naumannがその必要性を確立した。1830年に鉱物学者ヘッセルJ.F.C.Hesselが32種の結晶学的点群の導出に成功したが,この重要な発見はその後60年もの間世に知られないままであった。一方,結晶格子の概念は1824年に物理学者ゼーバーL.A.Seeberによって提唱された。
19世紀半ば近くになって,イギリスの鉱物学者ミラーW.H.Millerは対称の検討に基づいた結晶系と面指数の記号法とを確立し(1839),またフランスのA.ブラベは対称による空間格子の分類を完成した(1850)。しかしワイスの時代から既に知られていた完面像晶族と半面像晶族との差については,その理解には空間格子という枠に従って配列するところの結晶構成単位そのものの対称の研究が必要であり,この空間格子と構成単位との対称的な関係について,ドイツの物理学者ゾーンケL.Sohnckeがその一部に解答を与えたが,19世紀末にいたって,ロシアのフェドロフE.S.Fedorov,ドイツのシェーンフリースA.M.Schönflies,イギリスのバーローW.Barlowの3人によって互いに独立に建設された空間群論によって,その完全な解答が与えられ,ここにいたって古典的な結晶学が完成されたのである。
執筆者:定永 両一
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結晶を研究対象とする学問分野の総称。歴史的には結晶の光学的性質の研究から始まり、19世紀に至って、結晶外形に現れる幾何学的特徴を数学的に論ずる群論的取扱いと、対称に基づく結晶形態の分類の研究が進められた。20世紀に入り、X線回折を利用する結晶構造解析法が創始され、結晶内の原子配列が解明されるようになると、結晶の物理的・化学的性質が原子・分子の性質と関連して微視的に研究され始めた。応用面では、金属材料、高分子材料のようなバルク材料の性質と結晶構造との関係、半導体のようなミクロ材料の機能と結晶構造との関係などが研究開発されている。
X線などの回折現象に重点を置く結晶学はとくにX線結晶学とよばれるが、結晶の機械的、電気的、磁気的、光学的性質などを研究する結晶物理学、結晶内での化学結合、化学組成、原子や分子の配列と運動性を扱う結晶化学あるいは化学結晶学、また、結晶の成長を動的に扱う結晶成長論などの分野もある。しかし、これらを完全に区別することは困難であり、結晶学は物理学、化学、鉱物学、生物学などの境界に位置するものといえる。
[岩本振武]
結晶の形態やその物理的化学的性質を研究する学問.しかし現在では,X線回折で結晶の内部構造が明らかにされ,その結果,結晶学が飛躍的に発展してきたという歴史的事情から結晶学の分野が広がり,原子配列の化学といわれるようになった.結晶を対象として,あるいは気体,液体,無定形固体のように結晶を対象としなくても,X線,電子線,中性子線の回折現象を利用して物質の構造を研究すること,構造にもとづいて物性や反応機構を研究することも結晶学の一分野とされる.また,結晶成長の研究は工業的応用の面でも重要である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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