脂肪細胞が集まってできた組織で,パラフィン切片標本では包埋操作中に脂肪が有機溶媒に溶けるために明るく,ぬけて見える。それぞれの細胞の端に,圧平された核のみが認められる。脂肪細胞間には細網繊維が発達する。したがって,脂肪組織を,脂肪細胞を主とした細網組織とみなすこともできる。
脂肪組織のよく発達しているのは,皮下組織,頰脂肪体,眼窩(がんか)脂肪体,腎臓の脂肪被膜,腸間膜,太い血管の外膜などである。脂肪組織の原基は一種の細網組織で,細網繊維の網眼に脂肪芽細胞(繊維芽細胞に似る)が存在する。これらの細胞に脂肪滴がたまると脂肪組織となる。ネズミやコウモリの左右の肩甲骨のあいだには,褐色脂肪組織とよばれる褐色の特殊な脂肪組織がある。細胞内の脂肪滴が小さく散在する点とクリスタの緻密(ちみつ)な特有なミトコンドリアが多数認められることが褐色脂肪細胞の特色である。褐色脂肪組織は冬眠腺ともよばれてきた。急速な脂肪分解に際し大量の熱を供給することによって急速に体温が上昇し,動物は冬眠から覚める。褐色脂肪細胞には豊富な交感神経繊維が分布している。
執筆者:藤田 尚男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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