中国の神話伝説上の聖山。昆侖山とも書かれる。崑崙という呼び名は,混沌などと通じ,原初のカオスを意味したとされる。中国から見て北西方向の極遠の地にあるとされ,黄河はその源流をこの山に発するともされた。《山海経(せんがいきよう)》西山経にすでにその名が見え,そこに天帝の下都(地上に置いた都)があるとされる。《穆天子(ぼくてんし)伝》では,周の穆王がこの山に登り黄帝の建てた宮殿を見たという。こうした先秦・漢初の書物では,崑崙山はなお西方の多数の神山の一つにとどまったが,漢から魏晋南北朝へと時代が下るにしたがって,他の神山に卓越した位置が与えられ,東海の三神山とともに中国をはさんで東西に対峙する,西裔の地の聖山とされるようになる。すなわち神話学でいう〈宇宙山〉としての性格が崑崙山に集中するのである。
この山の頂が北極星と向かいあっているとされるのは,崑崙山が宇宙の中心に位置を占めていることを意味する。また山の形が上に広く下に狭い3層の構造からなり,その頂上に不思議な植物が生えるとされるのは,現世の人間には登攀困難であり,登りえた者は頂上の生命の木の実を食べて永遠の生命を得ることができるという伝承にもとづくものである。あるいはまた,この山の周囲を物を浮かべる力のない弱水がとりまくのも,接近の困難さを意味し,とくに選ばれた者が竜などの特殊な乗物でそれを越えるとされる。この山の天への通路としての性格は,天子が天の祭りを行う建築物である明堂において,その祭壇への通路が崑崙と呼ばれることにも反映している。後漢時代以降,神仙・道教思想の展開のなかで,崑崙山には女神の西王母がおり,多数の仙女たちがはべり,12の玉楼など華麗な宮殿があるとされるようになる。
なお,その実態は明らかではないが,古く西域からもたらされる美玉が崑崙の玉と呼ばれてこの山に産するのだとされ,また南北朝・唐代には,南方から中国にやってくる色の黒い異民族が崑崙奴(こんろんど)と呼ばれたりしている。崑崙山の実際の位置は,中国の人々の地理知識の拡大とともにどんどん西方に退くのであるが,魏晋南北朝期には甘粛省の酒泉南方の山が崑崙山に比定され,そこには西王母の石室もあるとされている。
執筆者:小南 一郎
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中国古代の伝説上の山岳。昆侖とも書き、また昆侖丘(きゅう)、昆侖虚(きょ)ともいう。中国の西方に位置して玉を産し、黄河の源はこの山に発すると考えられた。初めは天上に住む天帝の下界における都とされていたが、のちに神仙思想の強い影響から、古代中国人にとっての理想的な他界とされるようになった。つまり女仙の西王母(せいおうぼ)が居を構え、その水を飲めば不死になるという川がそこの周りを巡っているという、地上の楽土として観想された。黄帝の崑崙登山や、西周(せいしゅう)の穆(ぼく)王がこの山上に西王母を訪ねた伝説などが有名である。
[伊藤清司]
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… かくて山水は世界構成の根幹として世界観の変遷とともにその意義を変じた。殷の奉じたらしい太陽神,周の奉じた天によって神話の神々がその光芒を失ってくると,四岳とか五岳といった世界構成的山岳観があらわれ,天地的世界観,古帝王の系譜,西方世界への夢をのせて崑崙山があらわれ,これは祖霊の帰るところとして楚墓や漢墓の帛画(はくが)や漆画に関係づけられる。漢の博山炉もこのようなイメージの系譜につながるであろう。…
…神仙説をとくに鼓吹したのは東方沿海地域の方士たちであって,東海中に神仙の住まう三神山が存在すると説き,三神山の信仰は秦の始皇帝や漢の武帝にもうけつがれた。一方,西方に想定された崑崙(こんろん)山は,天帝の地上世界における都,したがって天上世界と地上世界との通路にあたる神仙境と考えられ,やがて西王母信仰と結びつく。漢代にはまた黄帝や老子の神仙化もすすみ,黄老信仰が生まれた。…
…その結果,大地の東南の部分が海となり,天下の川はすべてそこに注ぐのだという。また山岳が天柱だともされ,とくに崑崙山が世界の中央に位置して,天を支える柱となっており,天上,地上,地下の三つの世界がそこで結合しているとされる。《東方朔神異経》は,崑崙山の天柱は銅でできているとする。…
… 石臼や鍋釜のたぐいにまでへそがあるが,日用品のみならず地球的規模のものにもへそはある。道教の人体小宇宙説によれば,へそは二十四節気のうちの春分や秋分に相応し,地理的には崑崙(こんろん)山にあたる。崑崙山は仏教でいう贍部洲(せんぶしゆう)にある無熱悩池の北の香酔山(こうすいせん)のことで,道教と仏教の混交はここにも認められる。…
…山岳信仰修験道山の神山人【坪井 洋文】
【中国】
顓頊(せんぎよく)と天下の覇者の地位を争った共工が,腹だちまぎれに不周山にぶつかり,天を支える柱が折れ,地をつなぎとめる綱がきれ,そのため天は西北に傾き,地は東南に傾いたという伝説にもうかがわれるように,古代の中国人にとって,山は天と地をつなぐ存在であると考えられた。中国の西北方に存在すると想像された崑崙山(こんろんざん)も,それは大地の中心に位置する天柱であって,天帝の下都が置かれ,天上の神仙世界に向かう通路であるとされた。 一方,現実の山は,後漢の劉熙(りゆうき)の《釈名(しやくみよう)》が〈山〉を同音の〈産〉で解釈し,〈万物を産む〉の意味だと説明しているように,鳥獣草木の動植物だけでなく,さまざまの鉱物資源を産出する所であった。…
…しかし,現実には,近年出土の墓葬文物などからもわかるように,儒家思想が徹底していなかった時代には,死者の魂が昇仙しまた再生するのを守護する,聖なる怪獣がみちみちていた。昇仙すべき場所は崑崙山であるが,はるかなる山岳は,どこも暗黒と妖怪が支配していた。漢代(前206‐後220)に成立したと思われる空想的地理書《山海経(せんがいきよう)》は,そのような諸方の山岳と妖怪についての集大成である。…
※「崑崙山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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