西王母(読み)セイオウボ(英語表記)Xī wáng mǔ

デジタル大辞泉 「西王母」の意味・読み・例文・類語

せいおうぼ〔セイワウボ〕【西王母】

中国の古代神話上の女神。西方の崑崙こんろん山に住み、山海経せんがいきょうでは半人半獣、のちに美化されて描かれるようになった。不老長寿をもって知られ、周の穆王ぼくおうが西征途上に会い、また、漢の武帝不老不死の仙桃を授かったとされる。→東王父とうおうふ
謡曲。脇能物。西王母が周の穆王の所へ天下り、3000年に一度咲く桃の花と実を奉って祝いの舞をまう。

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精選版 日本国語大辞典 「西王母」の意味・読み・例文・類語

せいおうぼセイワウボ【西王母】

  1. [ 1 ]
    1. [ 一 ] 中国、西方の崑崙山に住む神女の名。「山海経‐西山経」によれば、人面・虎歯・豹尾・蓬髪とあるが、次第に美化されて「淮南子‐覧冥訓」では不死の薬をもった仙女とされ、さらに周の穆王(ぼくおう)が西征してともに瑤池で遊んだといい(「列子‐周穆王」「穆天子伝」)、長寿を願う漢の武帝が仙桃を与えられたという伝説ができ、漢代には西王母信仰が広く行なわれた。
      1. [初出の実例]「左は東王父、右は西王母、五方の五帝、四時の四気」(出典:延喜式(927)祝詞)
      2. 「内裏に、せいわうぼ、東方朔などいひける人の」(出典:浜松中納言物語(11C中)一)
      3. [その他の文献]〔揚雄‐甘泉賦〕
    2. [ 二 ] 謡曲。脇能物。各流。作者未詳。賢君の誉れ高い周の穆王の所に、三千年に一度咲くという桃の花を持って仙女西王母の化身である女が現われ、君の御威徳をたたえて花を奉り、天に昇る。やがて西王母が侍女を従えて天下り、仙桃を君にささげ舞を舞い、御代を祝う。
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙 植物「からもも(唐桃)」の異名。《 季語・春 》 〔大和本草(1709)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「西王母」の意味・わかりやすい解説

西王母 (せいおうぼ)
Xī wáng mǔ

中国の神話,伝説などに登場する女神。西極の地に住むとされる。《爾雅(じが)》に四荒(しこう)(荒は大地の果ての近辺)の一つとして西王母を挙げるところから,西方の異域の地名・国名に由来するともいう。《荘子》にはすでに,道を得た神人として西王母の名が見え,《山海経(せんがいきよう)》は豹尾で虎歯,勝(しよう)(髪飾り)を頂いた恐ろしげな西王母を記述する。ただ《穆天子(ぼくてんし)伝》には,西裔の地を巡狩した周の穆王が瑶池(ようち)において西王母と宴を開き歌の贈答をするなど,いささか人間化した西王母が出現する。なお《山海経》の中でも新しく付加した部分に,西王母は西極の神山,昆侖山(こんろんざん)(崑崙山)にいるとされているが,この昆侖山は神話学でいう〈大地の中央〉の山で,そこにいる西王母は全世界を秩序づける絶対神としての性格を持っていたものであろう。

 前漢時代末年に西王母信仰の爆発的な流行があったことが《漢書》に記録され,おそらくそれ以降,西王母は広く民衆の信仰を集める神となったのであろう。西王母の画像が画像石や鏡の文様,銘文の上に出現するようになるのもこのころのことで,また西王母と対をなす,東方の男性神,東王公(東王父)も後漢時代になって登場する。魏晋南北朝時代,草創期の道教教団は西王母を神仙の一人として取りこみ,道教修行者のもとに西王母が降臨して教えや教典を授けるという道教伝説も形成される。漢の武帝のもとに西王母が降臨したことを述べる小説《漢武帝内伝》も,こうした道教伝説を基礎にしたものである。なお道教教理の中では,西王母は九霊太妙亀山金母,太虎九光亀台金母元君などと呼ばれ,女仙たちの統括者とされる。時代が下がるとともに西王母は正統の道教よりも民間信仰の中で,不老不死の女神として崇信を集め,王母娘娘とも呼ばれている。とくに3000年に1度だけ実を結ぶ蟠桃(ばんとう)が熟するとき,神仙たちが集まって西王母の長寿を賀する蟠桃会(ばんとうえ)が開かれるという伝承は,《西遊記》などの小説や戯曲の中に取りいれられており,また現在の民間伝説においても,牛郎織女牽牛・織女)の物語にも見えるように,天界の支配者として大きな権力をふるっている。
執筆者: 西王母の名は医書《医心方》にも見られる。巻二十六〈延年方〉には〈西王母四童散方〉により幼児のように若返る処方が載せられている。また同巻〈避邪魅方〉には〈西王母玉壺方〉として,一丸を頭上につけて歩けば何者をもおそれず,喪中の家に行くとき一丸を身体に帯びていれば百鬼を避ける,という説が抄録されている。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「西王母」の意味・わかりやすい解説

西王母【せいおうぼ】

中国神話・伝説の女神。《山海経》によれば,玉山または崑崙(こんろん)山に住む豹尾虎歯の半人半獣。頭に勝(髪飾)をいただき,三青鳥が食物を運ぶという。のち神仙説の流行から仙女化し,周の穆王や漢の武帝との会見伝説も生じた。魏晋以後,東王父という配偶者を得て道教で崇祀され,人びとの運命をつかさどる神とされたほか,民間信仰でも不老不死の女神として今日に至るまで尊崇を集めている。
→関連項目沂南画像石墓三足烏嫦娥七夕伝説

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「西王母」の意味・わかりやすい解説

西王母(能)
せいおうぼ

能の曲目。初番目物。五流現行曲。金春禅竹(こんぱるぜんちく)作ともいうが不明。漢の武帝(ワキ)の宮殿。その聖代の寿(ことほ)ぎのなかに、仙人の女(前シテ)が登場。三千年に一度花咲く西王母の園の桃の花を帝(みかど)に捧(ささ)げ、実を結ばせてくるといって天に上る。帝が管弦を奏して待っていると、西王母(後シテ)は従者の女(ツレ)に約束の桃の実を持たせて登場し、美しく祝福を舞う。華やかな太鼓入り中(ちゅう)ノ舞である。『右近(うこん)』『呉服(くれは)』などとともに女性をシテとする異色の脇(わき)能で、小品的な作品だが、舞台面の彩りが美しく、好まれる。なお、中国を舞台とする脇能は、ほかに『東方朔(とうぼうさく)』『鶴亀(つるかめ)』があり、狂言口開(くちあけ)といって狂言方の扮(ふん)する官人の予告で始まるのを特徴とする。

増田正造


西王母(中国古代の女神)
せいおうぼ

中国古代の神話、伝説に登場する女神。その起源は古く殷(いん)代にまでさかのぼり、甲骨文字のなかにみえる西母は西王母のことであると考えられている。文献のうえでは『山海経(せんがいきょう)』に、西王母に関する古い伝承が残されているが、これによると、彼女は中国のはるか西方の地にある洞穴に住まい、人の姿をしてはいるが、ヒョウの尾にトラの歯をもち、振り乱した髪にかんざしを挿して、よくうそぶくという怪異な存在である。しかし時代が下るにつれ、西王母は神仙思想の影響を受けて眉目(びもく)秀麗な美女に変身し、その居所も西方の神山である崑崙(こんろん)山に定められた。

 また『穆天子伝(ぼくてんしでん)』には、周の穆王が遠く西方に旅をして仙女西王母に会い、詩歌を贈答したと記されている。さらに魏晋(ぎしん)時代以降になると、神仙の道にあこがれた漢の武帝は西王母の訪問を受け、一夜の宴を張ったという説話が発達するようになる。また、西王母を東王公という男性神と一組にして考える思想もそのころから普及した。

[桐本東太]


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旺文社世界史事典 三訂版 「西王母」の解説

西王母
せいおうぼ

中国神話の女神
古く崑崙 (こんろん) 山に住む人面虎歯豹尾 (こしひようび) の半獣神,のちには絶世の美人,秦・漢代には神仙思想の影響を受けて気高い不死の仙女とされた。西王母を歴史上の実在の人物に比定しようとする試みもあるが,定説はない。道教の成立後は,道教の神として庶民の運命を司る神とされ,東王父と相対して祭られている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「西王母」の意味・わかりやすい解説

西王母
せいおうぼ
Xi-wang-mu

中国古代の仙女。崑崙 (こんろん) 山に住み,不老不死の薬をもつ神仙といわれ,仙女の世界の女王的存在として長く民間で信仰された。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「西王母」の解説

西王母
(通称)
せいおうぼ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
七所御摂初鉄漿
初演
文政5.3(江戸・市村座)

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動植物名よみかた辞典 普及版 「西王母」の解説

西王母 (セイオウボ)

学名:Camellia seiobo
植物。ツバキ科のツバキの交配種

西王母 (セイオウボ)

植物。バラ科のハナモモの園芸品種,落葉小低木。カラモモの別称

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世界大百科事典(旧版)内の西王母の言及

【牽牛・織女】より

…民話の中にはさまざまなバリエーションがあるが,白鳥処女説話と結合したものは,次のような粗筋である。西王母(王母娘娘)の末娘の織女が姉妹たちと水浴をする間に,飼牛の助言によってその天衣をぬすんだ牛郎が織女と結婚する。西王母は二人の結婚を怒って織女を天につれもどすが,牛郎は飼牛の助力で天に昇り織女と再会する。…

【モモ(桃)】より

…桃を仙果だとし,それを食べることにより長生が得られるという伝承は,南北朝以降,道教的な色彩の強い文芸の中に多く出現する。《漢武故事》や《漢武帝内伝》などがそうした中でも早いもので,漢の宮廷を訪れた西王母が武帝に3000年に1度だけ実を結ぶ桃の実を与えて食べさせる。このように桃はとくに西王母との結びつきが強く,《西遊記》で孫悟空がめちゃくちゃにする蟠桃会(ばんとうえ)も西王母が主宰するものであった。…

※「西王母」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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