おもにサハリン(樺太),北海道の北部(宗谷地方)に分布していた,アイヌの弦楽器。樺太ではトンコリ,北海道ではカー(〈弦〉の意)の呼称をもつ。全長約120cm,幅10cm,厚さ5cm,中を空洞にした共鳴胴をもつ楽器で,座って楽器を肩に立てかけたり,横抱きにしたりして両手の指で弦をはじいて音を出す。弦は5本あり2本の柱によって支えられる。いくつかの調弦法が記録されているが,基本的には4度によって調弦される。楽器の表面,鏡板の真中に星形の孔があり,ここからガラス玉を入れる。これによってトンコリに生命が宿ると信じられていて,そのトンコリの所有者が亡くなると,死者とともにその楽器も燃やすという風習があった。近年は娯楽用の楽器としておもに婦人に用いられているが,古くはもっぱら年寄りの男性が使用したもののようで,このことから巫術の補助具であったのではないかと考えられている。独奏楽器としての曲はほとんど《白鳥の声》《温泉の湧く音》といった自然の音響の模倣である。樺太ではこの楽器に合わせて踊る〈トンコリ・ヘチリ(トンコリ踊)〉がある。
執筆者:谷本 一之
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樺太(からふと)アイヌのチター属撥弦(はつげん)楽器。北海道アイヌの間では「カー」(弦)とよばれる。細長い舟形にくりぬいた木製胴に薄い響板を張り、一端に糸蔵を取り付けたもので、全長120センチメートル、幅10センチメートル、厚さ5センチメートル程度。2本のブリッジが響板の両端に固定され、5本の弦が張られる。調弦法はさまざまだが、A4―D4―G4―C4―F4のように、五度音程と四度音程とを交互にとるのが基本的である。奏者は、楽器をほぼ垂直か、あるいは糸蔵を左肩にのせて斜めに構え、両手指で弦をはじく。弦を押さえて音高を変えることはしない。楽器内に小さいガラス玉を入れることによって、楽器に生命が宿ると信じられており、かつては儀式の際の歌や踊りの伴奏に用いられていたが、現存するのは自然音の模倣や動物の描写などを行う独奏曲がほとんどである。
[山田陽一]
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