化学結合の一種。水素原子は原子核(陽子)のまわりに1個の電子しかなく,他の電気陰性度の大きい原子(窒素N,酸素O,フッ素Fなど)との化学結合にその電子を使うと,その電子は相手原子に引き寄せられ,自身は陽に帯電した裸の原子核だけになりやすい。また近くに陰性の強い別の原子があると,これと引き合って弱いながらも結合をつくるようになる。このような結合を水素結合という。普通の共有結合に比べて強さは1/10くらいであるが,固体や液体の中で分子相互の配向を決める程度の結合力である。最も身近な例は水や氷にみられる。氷が水よりも密度が小さくすき間の多い結晶構造をしているにもかかわらず,融解熱(6.01kJ/mol)に比べて昇華熱(45.05kJ/mol)が大きいのは,水分子相互の間にファン・デル・ワールス力(分子間力)以上の力として水素結合が存在することによる。その他,水の誘電率が大きいこと,0Kになってもエントロピーが有限の値(3.4J/mol/K)をもつことも水素結合による。またギ酸,酢酸,安息香酸などの有機酸が二量体を形成しやすいことも水素結合により説明される。水素結合はまた,炭水化物,タンパク質,DNAなど生体物質の生体内における存在状態や生理化学的過程で重要な役割を演じている。水素結合によって凝集した状態では,しばしば共有結合と水素結合をいっせいに入れ替えることによって多くの等価な状態が得られることがあり,そのために強誘電性を示すこともある。水素結合は上記のような熱的な測定ばかりでなく,赤外分光法,ラマン分光法や紫外可視分光法によって詳しく調べられている。水素結合が強い場合,紫外部に成分分子にはみられない新しい吸収帯が観測され,電荷移動吸収帯と解釈されている。
→化学結合
執筆者:木下 實
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二つの原子間に水素原子が入る化学結合。アメリカのポーリングによって提唱されたときは、水素橋結合といわれた。すなわち、水素原子が仲立ちとなって、電気陰性度の大きい二つの原子が弱い結合をつくると考えた。氷の中の水は、酸素原子が水素原子を仲立ちとしてダイヤモンド格子をつくっている。これを分子間水素結合という。o(オルト)-ヒドロキシベンズアルデヒドでは、オルト位のカルボニル基C=Oとヒドロキシ基-OHとの間に水素結合ができる。これを分子内水素結合という。水素結合の結合エネルギーは1モル当り約8.4~33.5キロジュール程度で、共有結合のそれの数分の1にあたる。いちばん強い水素結合は、フッ化水素にみられる(40数キロジュール)。水素結合の結果、種々の物性に異常性がみられる。たとえば、水は同族の硫化水素H2S、セレン化水素H2Seより沸点・融点ともに高い。また、酢酸や安息香酸は通常、水素結合を介して二量体(2分子が結び付いた会合体)として存在している。
[下沢 隆]
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水素原子が分子内あるいは分子間でX-H…Yのように,X,Yの2原子にわたってつくる結合.前者を分子内水素結合,後者を分子間水素結合という.X,Yは電気的に陰性な原子であることが必要で,O,N,F,S,Clなどが顕著な水素結合をつくる.水素結合の原因のおもなものは静電力であるが,X-H…Y↔X…H-Yの共鳴の効果も存在する.その結合エネルギーは (HF)n 重合体で約33 kJ mol-1,例の多いO-H…OやO-H…Nで12~29 kJ mol-1 程度で,通常の化学結合に比較してずっと小さい.分子間水素結合は分子の会合を引き起こすため,物質の融解熱や気化熱を増大させる.水や低級アルコール,低級脂肪酸などが分子量のわりには融点や沸点が高いのはこのためである.そのほか,物質の酸性度や誘電率などの物性も水素結合によって大きな影響をうけ,また生体関連物質のつくる水素結合は,生物学上きわめて重要なはたらきをしていることが知られている.
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(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)
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[化学結合の種類]
化学結合には電荷の偏りぐあい,強弱など種々あるが,多くの化学的な事実から帰納的に大別するとイオン結合,共有結合,金属結合が重要である。そのほかに配位結合,水素結合,電荷移動相互作用など,また電気双極子や分極に基づく相互作用もある。さらにやや特殊なものとして一電子結合がある。…
※「水素結合」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
各省の長である大臣,および内閣官房長官,特命大臣を助け,特定の政策や企画に参画し,政務を処理する国家公務員法上の特別職。政務官ともいう。2001年1月の中央省庁再編により政務次官が廃止されたのに伴い,...
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