海馬(読み)カイバ(英語表記)hippocampus

翻訳|hippocampus

デジタル大辞泉 「海馬」の意味・読み・例文・類語

かい‐ば【海馬】

セイウチの別名。
タツノオトシゴの別名。
大脳辺縁系の一部で、側脳室の近くにある部位。古皮質に属し、本能的な行動や記憶に関与する。形がタツノオトシゴに似ることから、16世紀にイタリアの解剖学者アランティウスが命名した。アンモン角
[補説]3で、形が神話の海馬ヒッポカンポスに似るところからいうという説もある。

とど【海馬/胡獱】

アシカ科の哺乳類。雄は体長約4メートル、体重1トンに達する。体は黒褐色で、頭の幅が広くて後頭部が低く、ひげがある。繁殖期には1頭の雄が多数の雌を従える。太平洋北部で繁殖し、冬に北海道などでもみられる。
[類語]海驢あしか膃肭臍おっとせい海豹あざらしセイウチ

うみ‐うま【海馬】

タツノオトシゴの別名。

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精選版 日本国語大辞典 「海馬」の意味・読み・例文・類語

かい‐ば【海馬】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 魚「たつのおとしご(龍落子)」の異名。この雌雄を袋へ入れるなどして産婦が持つと産が軽くすむとされる。〔山槐記‐治承二年(1178)一一月一二日〕
    1. 海馬<b>①</b>〈女重宝記〉
      海馬女重宝記
  3. セイウチ(海象)」の異名。〔南島志(1719)〕
  4. 大脳辺縁系で古皮質に属する部位。本能的な行動や記憶に関与する。断面の形がに似る。
    1. [初出の実例]「側頭葉と海馬を中心にした領域が、特に、記憶の統合作用の領域として分化している」(出典:脳の話(1962)〈時実利彦〉一八)

とど【海馬・胡&JISF5D4;】

  1. 〘 名詞 〙 アシカ科の哺乳類。雄は体長約三メートル、体重一〇〇〇キログラムに達するが、雌は体長二・五メートル、体重三〇〇キログラムほどにしかならない。体はアシカに似ているがはるかに大きく、頭の幅が広く後頭部が低い。体色は黄褐色ないし暗褐色。繁殖期にはオットセイと同じように一雄多雌だが雄が占有する雌の数は少なく、十数頭ほど。食物は魚類やタコなど。太平洋の北部で繁殖し、北海道などに回游する。
    1. [初出の実例]「等等嶋 禺禺(とど)(いた)り住めり」(出典:出雲風土記(733)嶋根)

海馬の補助注記

「物品識名」に「トド 海獺の年を経たるものを云」とあるように、古くはアシカが成長してトドになったと考えられていた。


うみ‐うま【海馬】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 魚「たつのおとしご(龍落子)」の異名。〔物類称呼(1775)〕
  3. 海産の大きなカメ。うみぼうず。あおうみがめ。〔大和本草批正(1810頃)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「海馬」の意味・わかりやすい解説

海馬 (かいば)
hippocampus

脳の内部にある古い大脳皮質部分で,その原始型は魚類や両生類にもみられる。ギリシア神話に登場する海神ポセイドンが乗る海の怪物ヒッポカンポスHippokamposの下半身についている魚の尾の形にこの部分が似ているので名づけられた。海馬にはさらに海馬采,海馬足,海馬鉤などの部分的名称が与えられている。

 海馬は,昔から嗅覚(きゆうかく)機能に関与するとされてきたが,嗅覚系の発達のよくないヒトやクジラなどにもよく発達しており,嗅覚との関連は薄いものである。海馬は,自律系作用,情動の発現およびそれにともなう行動,さらには短期記憶(その保持と再生)にも関連し,種々の感覚入力に応じて,時間および空間情報を認知し一種の統御作用(連合形成)を行うといわれている。その処理機構(学習)を通じて,個体は環境に対して順次適切な運動反応を行うことができる。

 海馬は,ヒトでは側脳室の下角底にそって広がり,内方に包みこまれている。海馬の領域範囲は外見上はっきりしているが,隣接域との境界は必ずしも明確ではなく,〈海馬形成〉とか〈海馬領域〉とかいう名称が,固有の海馬に歯状回や海馬台(海馬支脚)を含めて,通常用いられている。また,隣接域である梨状葉皮質後部にあたる部分を内嗅野といい,ここも〈海馬領域〉に含められる。海馬の構造は,新皮質にくらべて単純であり,表層から,海馬白板,内叢状層,錐体細胞層,放射状層,分子層(外叢状層)に分けられる。さらに皮質内の構造上の差により,CA1,CA2,CA3,CA4に区別される。

 本来の海馬に至る神経繊維は内嗅野からのものが最大であるが,そのほかに,脳弓を経由して中隔野,視床下部から入るものと,帯状回から来るものがある。また,青斑核や縫線核からおこり内側前脳束を経由して,それぞれノルアドレナリンおよびセロトニンによって作動される神経繊維が海馬に入ることが知られている。海馬からの遠心性の神経繊維としては,脳弓を経由して乳頭体に至る繊維束が有名である。ほかに,中隔野,視床下部,視床前核に至る神経繊維もある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海馬」の意味・わかりやすい解説

海馬
かいば
hippocampus

大脳皮質側頭葉の奥深くにある大脳古皮質の一領域。近年,脳生理学における記憶のメカニズムの研究は海馬を中心に進んできており,少なくとも新しい記憶の貯蔵装置としての海馬の役割は疑う余地がなくなった。てんかん治療の目的で左右の海馬を切除すると,患者は手術以後の新しい事柄を記憶できない前向性健忘症になる。さらに,海馬の一部の CA1という領域だけが破壊された症例でも典型的な前向性健忘症になる。このような臨床例のほか,サルを用いた実験でも海馬の破壊が記憶障害を引起すことが確かめられている。こうした事実から,海馬は新しい記憶が長期記憶として安定するまでの間,近時記憶の貯蔵装置として働いていると考えられている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海馬」の意味・わかりやすい解説

海馬(動物)
かいば

ウマのような大きな海産動物の意。セイウチ(海象)、アシカ(海驢)、ジュゴン(儒艮)にも用いられるが、最近は胡櫞にかえてトドの漢名として定着しつつある。タツノオトシゴの異名でもある。

[伊藤徹魯]


海馬(脳)
かいば

大脳

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知恵蔵 「海馬」の解説

海馬(かいば)

大脳辺縁系の主要な構造物。海馬体あるいはアンモン角とも呼ばれる。海馬は空間学習や記憶などに関係している。海馬は長期の記憶を貯蔵しておくのではなく、記憶を一時的に蓄え、他の部位に転送する役割を果たしている。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

普及版 字通 「海馬」の読み・字形・画数・意味

【海馬】かいば

竜の落とし子。

字通「海」の項目を見る

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動植物名よみかた辞典 普及版 「海馬」の解説

海馬 (トド)

学名:Eumetopias jubatus
動物。アシカ科の海獣

海馬 (ウミウマ)

動物。ヨウジウオ科の海水魚。タツノオトシゴの別称

海馬 (アシカ)

動物。アシカ科の動物の総称

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

栄養・生化学辞典 「海馬」の解説

海馬

 脳の部位の名称で,側頭葉の下内部,側脳室下角底面の部位.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の海馬の言及

【睡眠】より

…この状態になると音刺激ではなかなか起きないが,肉のにおいをかがせると目覚める。 大脳辺縁系(海馬)を刺激すると,寝場所を探し,毛づくろいをするなどの行動がひき起こされる。大脳核のなかの尾状核の刺激では静止状態がひき起こされる。…

※「海馬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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